忍びない | ナノ


▼ はじめまして




山奥の人里から離れた少し小さなお屋敷に今日から新しい同居人が来ます。


「おっせえな・・・・」


イライラしてキセルを蒸かしているのはここのお屋敷の持ち主土方歳三。
彼は忍だ。昔幕府に仕えていたかなりの腕前。忍の間で知らぬ者は居ない。
そんな彼に新しく入る弟子が今日から住み込みで来ることになっていた。古い知り合いの子供が「忍に興味をもっているから勉強させてやってくれ」とのこ事で、正直気が進まないが昔のよしみで早いとこ現実を見せて諦めさせようと引き受けた。なのだが目安の到着時間は二時間程経っている。

「すみませ〜ん」

「ん?」

何処からか外から遠くのほうで声が聞こえる。

「すみませ〜ん!たすけてくださ―い!!」

「!?」

土方はすぐさま屋敷を飛び出して声のする方へと風邪の如く走っていった。

「だれかぁ〜ってきゃああああああああ虫ぃぃー!!」

行った先には猪用に仕掛けていた落とし穴。穴にはまっているのは十代ぐらいの若い娘だった。

「・・・・・そこで何してる?」

「あっ、あの・・・すみません。この穴から出して貰えませんか?抜け出せなくって・・・」

とりあえず土方はその穴にはまったなんとも可哀想な少女を助けてあげる事にした。

「ふぅ、有難う御座いました!つかぬ事を伺いしますがあなたはもしや土方歳三さんでしょうか?」

「・・・あぁ、そうだが・・・・もしや今日からうちに新しく来る門弟ってのはお前か!?」

「はい!そ、そうです!私、雪村千鶴と申します!今日からお世話になります。お師匠様!!」

そう、この可愛らしい少女が正真正銘今日から下宿する新しい弟子、雪村千鶴。
千鶴が今回弟子になったのは土方の昔馴染みの近藤という、剣道場の師範が友人に頼まれ紹介したのだ。その近藤の友人というのは千鶴の父である雪村綱道。彼は町医者で近藤も昔から世話になっていた人物である。
そういう経緯で千鶴は土方の忍びの弟子になった訳なのだが、忍びとは全く無縁の町医者の娘が何故忍びになりたいなどと思ったのか、土方は疑問に思った。

「お前いくつだ?」

「十六になります!」

「16の町医者の小娘がなんでいきなり忍びになりたいなんざ思った?」

「それは・・・」

「?」

千鶴が急にうつむき頬を赤らめながら呟いた。

「『忍び』って格好いいじゃないですか・・・実際に見た事ないのですが・・・父様が言っていたんです。忍者は空が飛べて水の上も歩けて、『分身の術』というもので1人が10人になれるって!」

だから憧れたのだと千鶴は続けるが土方は呆れた。


こいつはただのミーハーだ。





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