浦島歳三 1/3


昔々あるところに、浦島歳三というあまり若いとは言えない漁師がいました。

浦島歳三が海岸沿いを歩いていると、何やら岸辺に数人の子供が集まっていました。
何をしているのかと覗いてみると子供達は亀をいじめていました。

「やーい、のろま亀!もっと速く動いてみろよ!」

「へーんな格好!」

「おい!離してやれ動物苛めんのはよくねぇぞ」

「わー!浦島鬼三だー!やべー逃げろー!!」

「わー!」

浦島歳三を見た途端に子供達は一斉に逃げていってしまいました。浦島歳三は町では鬼の漁師と呼ばれ恐れられていました。

「おいっ亀、大丈夫か?って…」

「あっ、あの!助けて頂いてありがとうございました!わたくし亀の雪村千鶴と申します!」

助けた亀は人間の姿をしてました。

「いや、お前亀じゃねーだろどう見ても人間だろ。甲羅まで付けてなにやってやがる。」

「かっ、亀です!私は亀なんです!陸に上がって日向ぼっこしてたら子供達に苛められてっ!ですからあなたは恩人なんです!」

「…その甲羅ほんもんか?」

「はい!」

「ちょっと後ろ向いて見ろ」

「こうですか?」

くるりと千鶴は言われるがまま後ろを向いた。

カパッ
「おい、外れたぞ」

「きゃあああああああああ!!」

浦島歳三が亀千鶴の甲羅を外してみた

「お前やっぱ人間だろ。亀なんかのかっこしてなにしてんだ。」

「甲羅は取り付け自在なんです!勝手にとらないで下さいこれは亀一族のポリシーなんですから!」

「…悪かったな」

どうやら甲羅は自由に取り付け可能らしい。

「甲羅を外されたとはいえあなたは命の恩人です。何かお礼がしたいのですが。」

「礼はいい。子供蹴散らしただけだしな」

「いえ!あなたが助けてくれなかったらわたしは見せ物小屋に売られていました!この御恩は決して忘れません。何かお礼を」

「…お前自分の格好おかしいってわかってんだな。礼はいいよ」

「それでは私の気がおさまりません!そうだ!あなたを竜宮城へお連れしておもてなしいたします!」

「竜宮城?」

「はい!おいしい料理にお酒、タイやヒラメの舞い踊り。けして退屈はさせません」

「…まぁ、悪かねーな」

ご馳走においしいお酒まんざらでもないようだ。

「でしたら是非いらして下さい」

こうして、浦島歳三は亀の雪村千鶴に誘われ『竜宮城』へ行く事になりました。

「で?どうやって行くんだ?」

「わたしの背中にお乗り下さい運ばせていただきます!」

「いや…無理だろお前潰れちまうぞ…」

「大丈夫です!海の中は重力は関係ありません!」

「まぁ、そうだな」

浦島歳三は納得して、亀千鶴は四つん這いになる。

「では乗って下さい」

「……おぉ」

亀千鶴の背中(甲羅)にまたがって、浦島歳三はちょっと変な感じだなと思いましたが気にせづ、二人は海の中へ入っていきました。

「あ!おい、これ息って…がぼっっ!」

浦島歳三の言葉は耳に入らず、亀千鶴は海に潜っていきました。


「さんっ…浦島歳三さん!浦島歳三さん!」

「ん…」

「気が付きましたか?」

「…気が付きましたか?じゃねーよ。お前恩返しなんて嘘だろ、殺そーとしただろ。竜宮城じゃなくて天国いくとこだったぞ。俺生きてるの奇跡だぞ。ていうか生きてんのか?」

「はい、生きてます。すみませんでした。人間は鰓呼吸じゃなくて肺呼吸でしたもんね。ごめんなさい!」

「お前エラどこに付いてんだよ」

「え?耳の後ろです」

『あ、ほんとに付いてやがる…』

エラ呼吸はほんとらしい。

「俺、今何で息できんだ?」

「何ででしょうね?」

「お前は…」

なぜ竜宮城で息が出来るのかは謎だ。



「それより浦島歳三さん!見て下さい。ここが『竜宮城』です!」

浦島歳三が見た先には一面に真っ青な世界が広がり、そこにはたくさんの色とりどりの魚達が泳いでおり、様々な種類の生き物達が生活しており、海底は綺麗なサンゴや海藻がただよっておりました。
そして、その奥に見える紅の壁に金の装飾が付いた屋根、竜宮城でした。

「すげーな…」

「はいっ、ここに乙姫様が居られるんですよ」

「ほぉ…」
ブルリッ

乙姫様と聞いてさぞさし美人なんだろうと思う浦島歳三でしたが、なぜか悪寒がしました。

『なんか知らねーけど寒気が…』

「どうかしましたか?」

「あ、いや…」

「おーい!千鶴ー」

「あっ!平助君!!」

「誰だ?」

「私の幼なじみの針千本の平助君です」

『針千本…?』

「千鶴!お前二日間もどこ行ってたんだよ!探してたんだぞ綱道さんも心配してたぞ!」

「父様が!?大変私何も言わないで出て行っちゃったから…」

「どこ行ってたんだよ?二日間も」

「陸に…日向ぼっこしてました」

「はぁ?日向ぼっこぉ!人間界には行くなってあれほど綱道さんや乙姫様から言われてたろ!なんでいくんだよ〜」

「ごめんなさい…私亀だから…陸と海両方の生き物だし…」

「まぁな…とりあえず綱道さん達に謝っとけよ、心配してたぞ」

「うん、ほんとうにごめんなさい…」

「針がはえてやがる…」

一人蚊帳の外の浦島歳三は目の前で繰り広げられている二人の会話を聞きながらなぜ人間から針が生えているのか、気になった

「あっ!忘れていました。平助君こちら浦島歳三さん。私の命の恩人なんだよ」

「わー!!!に、人間だ!?」

竜宮城に人間がいるのは決して有り得ない事でした。

「な、なな何で人間がいるんだよ!千鶴が連れてきたのか?」

「う、うん…人間の子供に苛められていた私を助けて下さったの」

「大丈夫だったか?怪我は?やっぱ人間界は危険何だからもう二度と行くなよ!」

「う、でも…」

『日向ぼっこしたいのに…』

「…で、浦島歳三さんだっけ?聞いていい?」

「何だ?」

「なんで息できんの?」

「…知らん」

人間の浦島歳三がなぜ竜宮城で息ができるのかは謎である…

「ちーづーるーちゃん♪」

「きゃあ!」

突然後ろから抱き締められた千鶴。
その正体はタコの沖田さんでした。見た目は人間でもタコなので手は普通にタコの足でした。

「千鶴ちゃん二日間もどこ行ってたの?僕寂しくて死んじゃいそうだったよ。あ〜可愛い」


「きゃああああああああ!手っ手が!やっ、やめっ…」

沖田は千鶴に頬擦りをしながらタコの手を怪しく千鶴の着物の襟から忍び込ませ胸元を弄ったり、もう一方の手で短い着物の裾から千鶴の太ももをたどり中に入り込もうとしている。

「やめろよ総司!」

「きゃあきゃあきゃあ!」

「千鶴ちゃん相変わらず胸小さいね。」

「総司!」

「おい、止めてやれ嫌がってんだろ」

浦島歳三があまりにも可愛そうな千鶴を助けてやろうとタコ沖田を止めに入りました。

「誰?あんた…何で人間が居るのかな?」

千鶴とのスキンシップ(?)を邪魔されたタコ沖田の目が浦島歳三に殺意を抱きます。

「あの…この方は浦島歳三さんといって、私を助けてくれた良い人間です!悪い人ではないんです!」

「ふーん…」

「………」

千鶴がここまで言うのなら信用されているのだろうと思うタコ沖田でしたが、なぜかタコ沖田も浦島歳三もお互い目から火花が飛び散り、初対面にも関わらず敵対心がありました。


「で?何で人間が息できんの?」

「知らねえ」「知りません」

浦島歳三と亀千鶴が同時に答えた。

「ところで何で人間を竜宮城に連れてきたんだ?」

針千本の平助がたずねる。

「うん!あのね、助けてもらったお礼に竜宮城でおもてなしして差し上げようと思って。恩返ししようと」

「竜宮城でか?」

「うん!」

竜宮城と聞いて針千平助とタコ沖田は顔が引きつった。

「おい、竜宮城っつーとこはいいとこなんじゃねーのか?」

「はい!とっても良いところですよ!」

『じゃあなんでこいつら顔引きつってんだよ…』

「付いて来て下さい!ご馳走を用意致します!」




竜宮城の中は外観と同様とても豪華な造りだった。

「気に入りました?」

「…あぁ」

にっこりと訪ねてくる亀千鶴を見て浦島歳三は少しはにかみながら答える。


「ちょっと、千鶴ちゃんは僕のなんだから人間のあんたが手出さないでよね。ま、出させないけど。」

「なっ!総司にこそ出させねーよ!」

「あの…」

「おい、話勝手に進めんな、亀には興味ねーよ」

「どーだか、今千鶴ちゃんをやらしい目で見てたくせに。」

「さっき堂々とやらしい事してたお前に言われたくねーよ」

「隠れてコソコソするほうがやらしいでしょ。」

「堂々とやらしい事してんのも問題だろーが」

浦島歳三とタコ沖田と針千本平助が言い合いしてる最中、向こうから人がやってきた

「おっ、千鶴ちゃんじゃねーか!二日間もどこ行ってたんだよ!」

「あっ原田さん、斉藤さん、永倉さん…」

「雪村…二日間どこに行っていた?父上が心配していたぞ、」

「ごめんなさい…陸に上がって日向ぼっこしていました。皆さんにご心配かけてしまったようで…父様にもあとで謝ってきます…」

「まぁ、何事もなく無事に帰ってきたんだから安心したぜ。千鶴」

「そうだな、雪村が無事ならば…」

「おぉう!千鶴ちゃん!日向ぼっこは楽しかったか?」

「はい!地上はお花や沢山の植物がいっぱいあって、お日様がポカポカとても気持ちいいんです!」

千鶴は竜宮城ではとても可愛がられており、みんな千鶴が好きなのだ。








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