王様と私 1/3
ここは古い歴史と伝統ある大きな国。
千鶴はこの国に住んでいる16歳の女の子。ついこの間誕生日を迎え、尊敬する医者の父親に良い機会だからお前も社会に出て働いてみなさいと言われこの国の一番えらい王様が住んでいる王宮に、メイドとして就職する事になりました。
王宮で働くには条件があります。
1、王様に直接合ってはならない。
2、王様としゃべってはいけない。
3、王様を好きになってはいけない。
一つでも破ったら即首になってしまうのです。
メイドになった千鶴は一通り王宮の中を案内されて、初仕事として数年掃除をしてなかった小さな図書室の掃除を任されました。ほぼ物置場と化していた図書室で、立派な書物が沢山ありましたがホコリまみれで壁にはクモの巣が張っているようなまるで動物小屋のような部屋でした。
「わぁ…汚い」
ここを1人で掃除しなければいけないのか…
言ってみれば新人にめんどくさい仕事を押し付けられたんだろう。
とりあえずこの部屋を掃除するには部屋が暗い。
カーテンを開けて窓を開け、暖かい日差しと空気の入れ替えをするためカーテンに手をかけ勢い良く開けた。
「ん…眩しい。」
カーテンを開けた瞬間、突然後ろから声が聞こえました。
「きゃっ!」
「なーに?君の方が後から入ってきたくせに。」
そこには古いボロボロのソファーに寝転がっていたとても美しい青年でした。栗色の髪は陽の光で透けてまるで溶けいってしまいそうな。深い翡翠色の瞳を覚まし、眠たそうに起き上がりました。
「あ…ごめんなさい」
「あれ?君もしかして新人?」
「はい!今日から働かさせて貰ってます!メイドの雪村千鶴と申します」
「ふーん。千鶴ちゃんね。…って、雪村ってもしかして医者の…」
「はい!父は雪村綱道です!街では有名なお医者様でいつもこの宮殿でも王家の方々の診察にいらしています!」
「綱道さんの娘なんだ…。で?君はこの部屋で何してるの?」
「初仕事でこの図書室の掃除を頼まれました」
「つまり前々から問題とされてたこのホコリまみれの部屋の始末を丸投げされたんだね。」
「…………」
やっぱりそうなんだなぁと千鶴は心の中で呟いた。
「でさ、僕が今何してたか分かる?」
「今…ですか?お昼寝とか…」
「そ、正解。だからわかるよね?」
「邪魔するなということですか?」
「うん。物わかりがいい子は好きだな。」
「でも私ここを片付けないと怒られてしまいます。」
「それならだいじょーぶ!君は僕のお世話係に任命したから!掃除はしなくていいよ」
「は?」
「君頭悪いね。僕は今君に王の世話係に昇格させたんだよ。だからここの掃除は他のメイドにやらせればいいの」
この方はさきから何を言っているんだろう…
王?
昇格…?
僕の世話係…
と、いうことは…
「つかぬ事をお訪ねしますが…あっ、あなたは王様なんですか?」
「うん」
ダダダダーン!!!!
今、千鶴の頭にはベートーベンの『運命』が流れている。
目から鱗とはまさにこのことだろう。
こんなホコリだらけの古びたソファーに寝そべっている人が王様だなんて。
しかも今世話係って…
「千鶴ちゃんは今から僕の専属メイドって事!どんなときも一緒だからね。」
一緒…
一緒って今日入ったばかりの右も左も分からないようなド新人に王様専属メイドなんて重役いくら王様直々の命令でも無理だ。
あれ?そういえばここに入る条件って…
1、王様と直接会ってはいけない
2、王様と直接しゃべってはいけない
3、王様を好きになってはいけない
これを一つでも破ったら即首。
の内二つも破ってしまった…
「わ、私約束を破ったから首なんじゃ…」
「約束?あぁ、王宮で働く者のルールね。いいよ君は、あれはここに来たメイドみんな僕の事好きになっちゃうから、めんどくさい事にならないようにっていう戒めだからね。」
ほら僕って格好いいでしょ?と自画自賛する王の言葉はもう耳に入っておらず、たかが昼寝を邪魔されたくないがために簡単に決めてしまったこの王に自分の国の未来を不安に思う千鶴でした。
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