薄桜クエスト 3/3
さっきまで地蔵だった五体がいきなり青年五人に姿を変えた。
「自己紹介がまだだったな。俺は土方歳三だ。歳は・・・多分27ぐらいだな。人間年齢だと」
「俺は原田左之助。歳は土方さんと同じぐらいだ。地蔵の年齢だと80歳ぐらいだな」
「僕は沖田総司。人間年齢は19歳。特技は地蔵突き」
「斉藤一だ。人間年齢は推定18ぐらいだろう。平助と同い年だ。」
「平助ってのは俺ね!藤堂平助!さっきも言ったけど18歳!地蔵年齢だと70ぐらいかな!」
なにやら皆個性あふれたメンバーばかりのようでそれがより人間味が出て今さっきまで地蔵だったのが嘘のように感じる。なにより人間に変身した彼等はそんじょそこらにいないかなりの容姿端麗な殿方ばかりだからだ。
「ほんとに・・・さっきのお地蔵様・・・ですか?」
「まあそりゃ驚くよな〜俺らは人間に変身したら見た目も中身も本物の『人』だからな!」
「仏様がすべての地蔵達に下さった特別な力なんだ。」
どうやら地蔵達はこの姿では自分と変わらない人間なのらしい。
「あっ・・・ちょっと待って下さいね・・・頭が追い付かなくて・・・えーと、つまりみなさんは普段はお地蔵様をやってらっしゃるけど仏様のお力で人間に変身する事も出来る・・・と?」
「そういう事!」
「めったにこの姿にはならねぇけどな」
「そういえば千鶴ちゃんの事もあんまり知らないよね?年はいくつ?」
「じゅ、16です・・・」
「人間のほんとの16歳なんて若っけーなぁ〜」
「ぴちぴちだよね」
「総司それちょっと卑猥だぞ・・・」
「千鶴大丈夫か?俺ら今日ここ泊まらせて貰うけど・・・男五人は狭いし抵抗があるだろ?」
「地蔵に変身して寝るのは?」
「夜中に目覚めて家ん中に地蔵が五体転がってんのなんて怖いし気味悪いだろ」
「暗闇で見ると俺ら不気味だしな・・・」
「あの!大丈夫です私は!お地蔵様の姿はちょっと怖いかもなので出来れば人間の姿がいいですが・・・父様の恩返しがしたいんです。楽な姿で休まれて下さい!」
「恩返しは俺らがしにきたんだがな」
「千鶴がいいっていうんならこのままで邪魔させて貰うぞ?」
「はい、ぜひ!あっでも・・・」
「なんだ?」
「困りました。お布団が三組しかないんです。」
今夜この家で寝るのは千鶴と五人の地蔵。合わせて六人の人間が寝る事になるが、あいにく現在布団は三組しかない。ちなみにその三組の布団は千鶴が普段使用してる分と千鶴の父親綱道のものと今は亡き綱道の妻が亡くなる前に使っていた布団だ。
「どうするか・・・」
「土方さん、ならば一組の布団に二人づつ寝るしかないかと」
「まぁ普通に考えればそうなんだがよ、問題は・・・」
誰が千鶴と同じ布団で寝るかだ。
「しょうがねぇ俺が一緒に・・・」
「千鶴!千鶴!俺と寝よーぜ!」
「平助はだめ。千鶴ちゃん僕と寝よう。今夜は寒いからくっついて寝ようね」
「寒いなら俺があっためてやるぜ?千鶴」
「雪村・・・左之は危険だ俺ならいつ何時お前を守れる。」
地蔵達は千鶴と同じ布団で寝たくて必死だ。今は人間の姿故、思考も行動も人間そのものだからだ。
「あっ、あのわたし・・・」
「おい!お前なぁ・・・」
「土方さんここは公平にジャンケンで決めようぜ。」
「それが一番だな。ってことで」
「「「「「さーいしょはグー!ジャーンケーンぽん!」」」」」
土→グー 沖→グー 原→パー 平→パー 斉→グー
「くっそ!」
「くっ・・・・」
「何で・・・」
「やった!」
「ヨッショ!」
「「ジャーンケーン!ぽん!」」
原→チョキ 平→グー
「っだーーくそっ!!」
「っシャあああああ!千鶴!よろしくな!」
「あ・・・うん・・・よろしく」
勝者は平助。
こうして左から・・・
[土方:沖田] [平助:千鶴] [原田:斉藤]
の順で寝ることになった。
「何で僕が土方さんと同じ布団なのさ。しかも千鶴ちゃんとこんなに離れてるし。」
「るせー俺だってお前と同じ布団だなんて嫌だよ!」
「はぁぁぁぁーー」
「おい、斉藤。気持ちはわかったからあからさまにでっかい溜め息つくなよ」
「へへっ、千鶴あったかいな!」
「うん!」
ひょんな事から地蔵と一緒に一晩を過ごす事になってしまった。地蔵が動いて喋って、食料を近所から盗んできたり、人間に変身したりと五人の地蔵達は皆個性あふれた面々ばかり。騒がしく、面白く、受けた恩を忘れない義理堅くて優しい地蔵様。千鶴はいつの間にか父親が居ない寂しさを忘れられていた。
皆が床についてから数十分。チラホラと寝息が聞こえてきて部屋は外の吹雪の音が鳴り響く。千鶴はまだ寝ていない。
「あの・・・皆さんもし起きてたら聞き流して下さって結構なので、私の独り言だと思って下さい」
千鶴は仰向けで天井を見詰めながら落ち着いたトーンで話し出す。
「今日父様は隣村の診察に行くために旅立ちましたがこの時期はいつも雪で道も悪いし、子供は熱を出したりなんかで一週間二週間帰ってこないのは当たり前なんです。暖かい季節になったら父様は山を降りて都に薬草なんかを調達したりするから私は一年の四分の一しか一緒に過ごせません。でも私、幸せ者なんです。本来はもう生まれたその日に死んでいたから・・・私は父様とはなんの血の繋がりはなく生まれたその日に実の親に捨てられていたみたいで、当時大事な奥さんを亡くした父様が妻が自分に贈ってくれた宝物なんだと私を引き取ってくれたんです。本当の家族じゃないけど、父様の奥さんに会った事も見たこともないけど私にとっては二人とも大事な父様と母様・・・家族なのです。実の両親が私を捨てたのも理由があったからかもしれませんから責めはしませんが、産んでくれた事には感謝してます。私父様が大好きなんです!とても尊敬してます。日々医術の勉強をして、村の人達にも慕われて男手一つで私を育ててくれたこと・・・優しい父様に出会えて本当に幸せ者なんです。ほんとうはあんまり一緒に居られない事・・・淋しいけど、私の為に働いてくれてるからいつも笑顔で送り出すんです。でもまたしばらく会えないんだなぁーって思ってたら・・・皆さんが、お地蔵様達がいらっしゃって下さいました!一晩だけですがこうしてワイワイ大人数で並んで寝ること初めてで、家族がやることみたいでとても、とっても嬉しいです。来てくれてありがとうございます。」
「「「「「・・・・・・・・・・・」」」」」
「ふあぁあ・・・ん、安心したらなんだか眠くなってきちゃいました・・・おやすみなさい、です・・・・・・」
それから数分して千鶴は眠りについた。
「・・・・この子相当苦労してきたんだろうね。あんなに慕ってる父親が自分の本当の親じゃないだなんて受け止めるのに苦しんだんじゃないかな」
「しかも捨て子か・・・こんな都から離れた山奥、捨てたのは近場のそこら辺の村の奴だろうな。医者の家だからココに置いてったんだろうな・・・」
「あぁ、親は千鶴に生きてほしかったんだろう・・・」
「千鶴・・・優しい良い子だな。自分の幸せをわかってんだ。ちゃんと今持ってるもの大切にしてる」
「こんなご時世だ。貧しくて生活もままならない奴がたくさんいる。実の親もしょうがなく手放したのかもしれねぇしな。少なくとも、千鶴は愛されてたさ。もちろん今も。」
「でも・・・・寂しいならもう少しわがまま言ってもいいんだぞ?」
人によって幸せの見方は違うが、千鶴は自分が与えられたものすべてを大切にして必死に頑張ってきた。何が自分にとって大事でどう思い生きていくか。自分が背負うものややるべき事、それぞれを置き換えて生きていこうと幼い少女ながら気付き歩いている。
そんな千鶴を見て地蔵達はコソコソとまた井戸端会議を始め夜は更けていくのであった。
***********
夜が明け昨夜の吹雪が嘘のように今朝は晴天だった。太陽の光が雪の結晶達を眩しくキラキラ照らす。
「おはようございます!」
「おはよー千鶴!」
「おはよーさん!」
「千鶴ちゃんおはよう♪」
「いい朝だな」
「はい!」
「千鶴、よく眠れたか?」
「はい!ぐっすり」
「今、朝食お作り致しますね!」
「俺は豆腐の味噌汁が飲みたい・・・」
「あっ、ネギは入れないでね〜」
「俺、朝はめざしがいい!」
「千鶴、酒はねーのか?朝から一杯やろうと思ってな」
「てめぇらわがまま言ってねえで手伝いやがれ!」
「ふふふっ」
土方の怒鳴り声が響き明るい朝の会話が飛び交う。千鶴は笑顔だ。
「「「「「「ご馳走様でした!」」」」」」
朝食を食べ終えた六人は食器を片づけダラダラと会話をし過ごし、千鶴がきりだす。
「あの・・・帰られるのなら今が頃合いかと・・・お地蔵様の前は村人も通るし五体一気に無くなってたら騒ぎになるだろうし皆さんは人の姿はここら辺で見かけないから村人に見つかったら怪しまれてしまいます。見つかる前に・・・」
「いや、俺たちゃ帰んねーよ」
「へ?」
「昨日な、話し合いをして大仏様に伝えたんだ。千鶴と出会った事。」
「私と出会ったことを・・・?」
「うん、そしたらね大仏様から僕ら五人に使命が与えられたんだ。一緒にいなさいって」
「へ?」
「お前の親父さんが留守の間だけここに遊びに人間の姿になって行ってやれって。まぁ自分の留守中に娘が一人の時男が五人も上がり込んで一緒に暮らしてるなんて親父さんぶったまげるから言うなよ?」
「家族みたいにさ、みんなでご飯食べて並んで寝て、いーっぱい楽しい事しようぜ!」
「そしたらもう・・・お前は親父さんが旅立つたびに寂しくて泣いたりしなくて済むだろう」
「・・・・・どうして・・・知ってるんですか?泣いてたこと・・・」
「ばぁか。俺ら地蔵だって事忘れたか?千鶴はいつも親父さん見送るたび泣きながら俺らに父親が無事帰ってくるよう祈ってただろう?」
「ずっと見守ってたよ?でもこれからはお父さんが居ないときの代わりに一緒に居るからもう寂しくないよ。」
普段父親が居ない分、家を護るため家事をし、頑張ってきた。父親と血の繋がりがないこと。自分が捨て子だったこと。ひとりは寂しい事。たくさんの荷物を背負って担ぎ上げよろめきながらも笑顔でいつも父を迎えていた。元気に「おかえりなさい」を言うために。ただちょっとの家族の憧れを抱き自分も「ただいま」を言ったり甘えてみたりと『家族の輪』が欲しかった。昨夜の千鶴の長い独り言は初めての本音。地蔵達とのの団らんに甘えた千鶴が居たのだ。
「ほんとに・・・・一緒にいてくれるんですか?ずっと、」
「あぁ」
「雪だるま作ったり・・・桜を見たり、節分の豆撒きも、誕生日も一緒にいてくれますか?」
「ふっっぅ・・・ひっく・・・」
「おいおい千鶴泣くなよ。」
「もうすぐお正月だよ。一緒に餅つきしようよ。みんなで千鶴ちゃんが作ったお雑煮食べたいな。」
「雪合戦しようぜ!あとでーっかいかまくら作って火鉢入れてさ、暖まんの!」
「冬が終われば春だ。この辺は山桜がきれいだろう。花見して宴を開こう。」
「夏になったら御盆だな。お前の母親の墓参りに連れて行ってくれよ。地蔵がする墓参りは縁起物だぞ?」
「まだまだしきれない約束がいっぱいある。」
「ずーっと一緒だからな!」
「な、千鶴。寂しくないだろ?」
「はい!っわたし、もう寂しくて泣きませんっ!こんなに素敵な家族がたくさんいて・・・幸せですっっ」
「ほら千鶴、涙拭け。」
「鼻出てるぞ」
「ほら、チーンして」
「はひ・・・ズズーーッ!」
「泣き止むまで抱き締めてやるからな」
「いや、それは俺が」
「いや、俺が」
「いえ、自分が」
「いや、僕が」
「私も皆さん抱き締めたいです!」
「じゃあみんなでくっついてようよ。今日は家族団らんの日だね」
「はい!」
今日、雪村家に新しい家族が増えた。彼らは地蔵である。五人の地蔵達は皆個性豊かで大変だ。でも楽しくて優しい地蔵様。寂しい時は一緒に居てくれる千鶴の強い味方の兄様のような存在。血の繋がりなんか気にしないくらいあったかく大事な家族なんだろう。「さみしい」なんて言わせてもらえないくらい騒がしく大好きな家族。
やがて、千鶴と地蔵達の間にまた家族とは違う大切な感情が芽生えてくるのはまた別のお話・・・・・・
君にありったけの愛を贈るよ
END
あとがき
あれ、なんかイイ話に仕上がった・・・ギャグ路線を目指してたけど(笑)
この話は冒頭にもある通り昔(2002年ぐらいに)「りぼん」で連載されてたユーキあきら先生作「おじぞークエスト」のパロディです。けっこう設定変えたが・・・
原作はけっこうラブコメなんで楽しいかんじにしたかったけどちょっと暗いイイ話になりました!でもギャグなんかはパクらせてもらいました〜
原作は、現代の話で小6の女の子がイタズラで倒された三体の地蔵達を元の位置にもどして恩返しに来た地蔵が人間に変身するんです。その地蔵達は3兄弟で二人はイケメンだけど1人は糸目マッチョ。
今回の話は千鶴ちゃんの家族についての話でした。血縁者はみんないないけど本当の家族だと思ってるちづたん。
知った時の衝撃はすごく孤独感に襲われたんじゃないかな・・・地蔵様達とこれからラブな展開もあったり・・・(*^w^*)でも今の所みんな兄妹な感覚ですね。
千鶴ちゃんは幸せになれます!
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