薄桜クエスト 2/3


極寒の東北の地の小さな村に冬が来た。川は凍り、民家の半分は雪に埋もれ毎日村人達は雪かきをし、わずかに穫れる食料で餓えと寒さを凌いでいた。
雪村の里、ここは都から離れた小さな村で、人口も少ないが人情味あふれたあたたかな里だ。
この村には唯一の医者が居る。雪村綱道。腕も確かでまた治療の代金を無理に請求しない彼は村人達に慕われていた。彼の慕われ様は隣村まで噂が行きよく診察に行く。隣村までは結構距離があり、診察に行くとなると三日間は帰れないのだ。そのため綱道の一人娘千鶴は一人で父の帰りを待つのが日常だ。特に冬場は道が悪く帰ってくるのも困難な為泊まりがけで一週間帰ってこないのは当たり前だった。



「いってらっしゃい父様。気を付けてね。」

「あぁ、千鶴も早く帰りなさい。寒いだろう?なにも毎回村の外まで来て見送る事はないんだよ?」

「だって心配なんだもの・・・獣に襲われる心配はないけども足場が悪いし視界も悪いわ。道に迷ったりしないでね?」

「もう何十回も行ってるんだから心配いらないよ。千鶴家の事は頼んだよ?暖かくして過ごしなさい」

「ふふっ、それも何十回も聞いたわ。」

「それじゃあ行ってくるよ」

「うん・・・行ってらっしゃい」


綱道が見えなくなるまで千鶴は見送った。毎回のこのやりとりも千鶴は気が気でない。冬の山道は本当に危険なのだ。
綱道が行ったのを確認し千鶴は家路を辿る。サクサクと雪を踏む音が静まり返った大自然の中でこだますることはない。それが余計独りぼっちなのだと千鶴は涙ぐんだ。
しばらく歩いた道の途中、五体の地蔵が並んでいた。その地蔵は屋根は亡く、地蔵の頭には昨夜の雪が降り積もっていた。

「お地蔵様寒そう・・・」

かじかんだ手で地蔵の頭の雪を払い落とした。

「笠でも被してあげたいけど・・・あいにく持ってなくて・・・私の手ぬぐいで我慢してください。ちょうど五枚あるから」

千鶴は持っていた手ぬぐいを一体一体丁寧に被せていく。

「お地蔵様、どうか父様が無事で帰ってきますように」

手を合わせ地蔵にそう願い事をし家に帰った。




*********

その夜の事、千鶴は綱道の言うとおり厚く着込み布団に入った。
すると家の外からゴトッ・・・ズル、ゴトッ・・・ズル、と何か重いものが動く音が聞こえた。

「ん・・・?」

千鶴は物音に気付き目を覚ます。「何だろう?」と戸を開けるとそこにはたくさんの食物と蒔が置いてあった。

「何これ・・・す、すごい・・・蒔がこんなにたくさんっ・・・それに、食料も・・・」

餅や米、野菜に木の実。等分はこれで過ごせるくらいだ。
ふと気付くと、そのたくさんの食料の横にずーっと向こうまで続くなにかを引きずった雪の後があった。

「もしかしてこれを持ってきた跡だよね・・・?まだ新しいし近くにいるかも!」

引きずった跡をたどるとそれは千鶴の家の裏に続いていた。
こんなにごちそうを持って来てくれた人物に御礼が言いたい千鶴はサクサクと雪を踏み千鶴が掛けてたどり着いたのは家の裏の古く小さい蔵だ。

「こ、こ?」

おそるおそる千鶴は蔵の扉を開けると中には密集して五体の地蔵が詰まっていた。

「きゃああああああああああああああああっっ!?」

驚いた千鶴は飛び跳ねる。

「やべー!見つかったぞ!どうするんだよ!?」

「バカヤロー早く誤魔化すんだ!ゴロにゃー!」

「わんわん!」

「あの、全然誤魔化せてないんですけど・・・」

五体の地蔵が自分家の蔵に詰まっていたのも驚きだが地蔵達が喋りだしたのにも驚いた。そしてそのやりとりに思わずツッコンでしまう自分にも驚く。

「お地蔵様・・・ですよね?」

「ちっ、バレちゃしょうがねぇな・・・」

「見たまんまバレバレですよ?」

「お前、名は何て言う?」

「名前?」

「土方さん、相手に名前聞く前に自分から名乗るのが普通じゃないんですか。」

「うっせー総司お前は黙ってろ」

「わ、私は雪村千鶴と申します・・・」

「千鶴か、いきなり驚かせてすまなかったな。俺達はお前に恩返ししに来たんだよ。」

「恩返し・・・?」

「今日昼間に俺達地蔵に手ぬぐい被せてくれたろ?御礼として食料と薪を持ってきた。」

「そんな・・・あんなボロ布でお地蔵様達に申し訳ないです。あの食料お地蔵様達が持ってきて下さったんですね」

「ボロ布でもお前の気持ちがありがたかった。だから恩返ししにきたんだ。礼を言う。」

「「「「「ありがとう!」」」」」

千鶴は地蔵達の心遣いに感動し涙ぐむ。

「そんな・・・こちらこそこんなに食べ物や薪を頂いて逆に申し訳ないです・・・こんなにたくさんどうされたんです?」

「適当にそこらの民家から盗んできたんだよ」

「え"ぇぇ!?」

貰った食料や薪はすべて盗品だった。

「いっ要りません!こんなっ・・・今すぐ返してきて下さい!」

「なにぃ!?お前昔話では食料貰ったじーさんばーさんは大喜びだったぞ!」

「盗品だって知ってたら貰いません!返してきて下さいぃ!」

地蔵様のくせに彼等には常識は持ち合わせていない。

「ちっ、それじゃあ恩返しになんねーじゃねえか!」

「どうすんだよ土方さん!このまんま帰ったら大仏様に怒られんじゃねーか!」

「あっ!なぁなぁ、千鶴今日昼間俺らに手ぬぐい被せてくれた時願い事してたよな?」

「たしか『お父さんが無事に帰ってくるように』だったよね?」

「それなら大仏様に頼めば叶えてくれんじゃねぇか?」

「ふむ、だとしたら今すぐ大仏様に念じその事をお伝えして叶えてもらおう。」

地蔵達の井戸端会議が終わり彼等は円になり念じだした。

「あの・・・何してるんです?」

「シッ!お前の親父さんが無事ここに帰れるよう大仏様に力を借りてるんだよ。お前も念じろ。」

「はっはい!ありがとうございます!」

千鶴は「お地蔵様自分たちでは叶えられないんだな」と思いつつ一人と五体の地蔵は円になり念じる。

「よし!これで大丈夫だお前の親父さんは無事に帰れる。」

「ありがとうございますほんとに・・・そうだ!もう夜も遅いし私の家に泊まりませんか?」

「いや・・・俺らは地蔵だ。なるべく人目につかないうちに元の場所に帰って・・・」

「いいじゃねーか土方さん!明日の夜に帰ればよ!」

「そうそ!俺女の子の家に泊まりたい!」

「お前等なぁ・・・」

「是非泊まっていって下さい!今夜は父様がいないので実を言うと寂しくて不安だったんです。お地蔵様がいてくれるなら心強いです!」

「決まり!なっ土方さん!」

「そうそ、千鶴ちゃんもこんな寒い中辛いでしょ早く中入ろ。」

「まぁ、それもそうだな・・・ここはお前の言葉に甘えるか世話になる」

「はい!あ、その前に盗品は全部返してきて下さいね」


地蔵達は盗んできたものをそれぞれズルズルと重い石の体を引きずりながら元の家に返してから千鶴の家に上がった。


********


「わ〜家ってこんなかんじなんだな」

「な、俺ら家無いもんな・・・」

「地蔵だからね。」


ここで千鶴はふと思った。客人(?)が来たからにはお茶を出そうと思ったがお地蔵様だから飲めないではないか。さて、どうしたものか・・・・・


「あの〜・・・失礼ですがお地蔵様達はお茶は飲めないですよね?」

「茶?飲めない事はねーよ?」

「おお、ほら」

ドロンっ

「ええええええええ!!??」

なんという事だろう。目の前の一体の地蔵が十代ぐらいの少年の姿に変身した。長い髪の毛を高い位置で一つに束ねた元気そうな男の子だ。

「なななななっ」

「驚くのも無理ねえよな。俺達地蔵は12歳になったら人間に変身できんだ!ちなみに俺は18歳だぞ!」

「そうそ、ほら僕らみんなも」

ドロンドロンっと四体一気に人間の姿に変わる。

「きゃああああ!」









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