小さくなってしまいました 1/4
ワォーン
月が映える夜空にどこからか聞こえてくる犬の遠吠え、ここは新選組に居候の娘雪村千鶴の部屋。
「んぅ…」
(息苦しい…)
千鶴は何やら唸去られているらしく、寝苦しい様子だ。
千鶴の災難はこの夜から始まった。
「きゃあ―――――――!!!!!」
爽やかな朝の空気に雀が鳴く新選組屯所に、一人の少女の悲鳴が響いた。
それを聞きつけた新選組幹部は何事か?とそれぞれ駆けつける。
「何だどうした!」
「千鶴大丈夫か!?」
「何事だ雪村!」
「おいっ千鶴!」
「千鶴ちゃん!?」
「どうした!千鶴ちゃん!」
土方、平助、斉藤、原田、沖田、永倉の順で千鶴の安否を心配するが、襖を開けた先に目に映ったのはまだ幼さを残した少女ではなく、本当に幼い4,5歳の幼児であった。
「…え?子供?」
「千鶴は?」
沖田と平助が口を開く。
「おい、千鶴ちゃんどこいったんだ?」
「いや…それよりこの子供は…」
永倉と斉藤も目の前の光景に戸惑う。
「何で、ここに子供がいるのか知らねーがさっき聞こえた悲鳴は確かに千鶴だったな。」
「あぁ、にしても土方さんよぅ…この子供、なんか似てねぇ?」
その幼児は、何やら涙目でこちらを見ている
「俺も思った!千鶴に似てるよな」
「ていうか、着てる寝間着かなりブカブカっつーか、何でこんなとこにブカブカの寝間着きた子供が千鶴の部屋の布団に入ってんだ?」
「「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」」
幹部全員に「まさか…」と言葉が浮かんだがすぐに我に帰り、とりあえずこの子供をどうしようか考えた。
「おい、おじょーちゃん名前はなんてんだ?」
「よせよしんぱっつぁん!怖がるだろ」
「新八みてーな図体でかい奴に迫られたら子供はビビるだろ」
「なんだと平助、左之!」
「あ、あの…」
「おっ喋った!」
「ねぇ、君お名前なんて言うの?」
普段から子供と遊び慣れている沖田が優しい声で尋ねる。
「あ、あの!私です!千鶴です!雪村…」
「へ?」
「マジで千鶴なの?」
「はい…朝起きたらこんな身体になっていて…」
涙目ですがりつくように言う小さい千鶴は可愛い。
「まじか…?」
「いや、でも…あり得ねーだろ」
「こんな可愛い娘がうそつくか?」
「しんぱっつぁんって絶対将来女に騙されるよな。」
「あ、あの…私はどうすればいいでしょう…もっ、もどるんでしょうか…わたし…こんな姿では何もできな…」
「千鶴落ち着け。取りあえず何か思いあたる節はねーか?つっても子供になるような事なんて見当もつかねーか…」
「朝起きてこんな事になったんなら千鶴が子供になったのは夜だろ?昨日なんか変わった事なかったか?」
「昨日は…変わった事といえばお洗濯をしていたら庭に猫ちゃんが迷いこんでご飯をあげたとか…山南さんがおいしいお饅頭を下さって一緒にお茶したりとか…あまり変わってないですね…いつもどうりでした…」
「ふーん、山南さんが…」
「・・・・・・・・・・・」
山南さんと聞いてみんな何やら顔をしかめる。
「そういえば変わったお饅頭でした。外側は普通のお饅頭と変わりないのに中のあんこが少し変わっていて…あんこなのに苦くて」
「あんこが苦かったのは薬のせいですよ」
「山南さん!?」
「薬ってなんだよ山南さん」
「私が作った試作品の薬です。痩せる薬として作ってみたのですがまさか身体が縮むなんてね驚きました。」
「さささ山南さんわっ私で実験したんですか!」
「すみません雪村君。出来心で」
申し訳なさそうな顔で謝る山南さんだが内心は新しい薬を開発できたと喜んでいた。
「山南さんてやっぱこえーな…」
「だな…」
「雪村君安心して下さい薬の効力は2日間。絶対元に戻りますからそれまで他の隊士に見つからないよう生活すればいいんです」
「2日も子供のままなんですか…」
「ま、元に戻るんなら何よりだよな。2日間の我慢だ千鶴ちゃん!」
「千鶴安心しろ俺らがちゃんと面倒みてやるからな!」
「ありがとう平助君皆さん…」
「僕が世話したい。」
発言したのは新選組一番組組長沖田総司。
「総司。犬や猫じゃねーんだぜ」
「総司に世話させんのは心配だよな普段が普段だし」
「僕はいつも近所の子供達と遊んでるからそれなりにお守りはできるよ。」
「あの沖田さん、私は見た目は子供ですが意志はちゃんと元の姿と同じ思考なのでお守りしてもらわなくても自分の事はちゃんとできます。」
「確かに自分の事は普段と変わらず出来るかもしれないけど新選組屯所に子供ましてや女の子を置いてるなんて他の平隊士達になんて言っていいワケ?見つからないよう元に戻るまで君は部屋にずっと居なければいけない事だし、その間ご飯運んだりしなければいけない人間が必要でしょう?」
たしかに、新選組に子供を置いてる、ましてやそれが女の子なら問題だ。この歳なら男装してごまかす事も難しい。
「しょうがねぇがこいつにおもり役として誰か一人付けるか」
「じゃあ僕で決まりですね」
「俺も千鶴の世話したい!」
「俺も俺も」
平助と原田が挙手した。
「平助君は今日も明日も巡査があるでしょ?左之さんは千鶴ちゃんと二人っきりにしたら妊娠させちゃうからだめ。」
「妊娠させねーよ。前々から思ってたんだがみんな何か俺を勘違いしてる。つーか流石に幼児姿の千鶴には手をださねーよ」
「確かに原田は危険だな却下だ。」
「おいおい土方さん!」
「てことは僕が一番適任ですね」
「ちぇ〜俺も千鶴の世話したかったなー」
「まぁ、気が進まねーが総司頼むぞ」
「言われなくてもちゃんと世話しますよ。よろしくね千鶴ちゃん」
「・・・・・・はい・・こちらこそお世話になります・・・」
こうして悪夢の2日間が始まった。
《 前 ‖ 次 》