今宵の熱 1/2


※此方の作品は15歳未満の方の観覧を禁止致しています。









河原に咲く野原を見て久々に巡察以外で出掛けた千鶴と土方は騒々しい普段の生活から逃れ旅の最中の休憩をしていた。

「わぁっ・・・もう少しで夏になりますね!草が生い茂ってきてる」

「そうだな」

何故千鶴と土方が河原に二人でいるかと言うと、厳密に言うとここは京の町から少し離れた田んぼや畑が周りを囲む田舎風景な集落。先日、雪村綱道が此処をもう少し行った先の宿屋に滞在していたとの事を山崎が情報を掴んだ。その事を調べに綱道の娘千鶴と、土方が同行し宿屋に聞き込みに行く事になったのだ。

「いらっしゃいませ。遠いところお疲れ様でございます。」

すっかり夕暮れ。二人は宿に着き、年輩の女将が出迎える。予定としては今日はここで情報を得て一泊し、明日の早朝に宿屋を出発し、屯所に帰るつもりだ。

「予約してある土方だ。部屋に案内してくれ」

「はい、只今。お部屋は『藤の間』をご用意させていただきました」

二人は二階へ上がり客室に案内される。しかし、ふと土方は気になる事が・・・今女将は「藤の間」としか言わなかった。

「お部屋はこちらです」

「ん?」

「あれっ・・・」

「?どうかしましたか?」

「あーもしかして・・・部屋は一つか?」

「えっ?・・・ええ、頂いた文には男性二人と書いていたのでてっきり・・・あらやだ!」

そう、千鶴は今男装している。故に男二人の旅なら部屋の料金を考え一般には一部屋が当たり前だろう。

「ひっ、土方さん・・・どうしましょう?」

「あー・・・悪いが女将さん。もう一部屋今からとってもらえないだろうか?」

「申し訳御座いませんっ・・・その・・・・今日はもう満室で・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」



***********



結局仕方なく、二人は一部屋に二人泊まる事になった。
その後、二人は宿屋の店主に雪村綱道の事を聞いたのだが鮮明な情報は聞けず、手掛かりは見つからなかった。

そして二人は気を取り直し夕飯を食べた後湯浴みをする事にした。この宿屋のお風呂は一階にある。ちゃんとした男女別々の露天風呂だ。

「俺は風呂に行ってくる」

「あ、はい・・・」

千鶴は男装している為この格好で女湯に行く訳には行かず今日は湯を控え部屋で待機になった。


「どうしよう・・・どうしよう・・・わわわ私っ、土方さんと今晩同じ部屋だなんてっ・・・」

仕方なく千鶴と土方は相部屋を了承したが、内心二人とも気が気でなかった。
一方同じ頃、土方も湯に浸かりながら同じ様な事を思っていた。

「ックソ、文だしたのは近藤さんだったなたしか・・・どうすっか・・・部屋の真ん中につい立たてて・・・」

相手はまだ子供で何も感じないし、間違いが起こる事もないのは当たり前だが千鶴はそうではないだろう。
物事を敏感に捉え傷つきやすい年頃だ。赤の他人と同室で一晩過ごすのは生理的に嫌がられるだろう・・・

「さて、どうするか・・・」



***********


湯を上がり、持ってきていた着流しに着替え土方は部屋に戻った。


「あっ・・・お帰りなさい・・・」

「あぁ・・・・」

部屋に入ると千鶴も持参の寝間着に着替えていた。いつもの男装姿とは違い、髪を下ろし、ゆったりとした薄い寝間着の生地が千鶴の女性らしいラインを際立たせる。部屋の灯りがゆらゆらと影をゆれさせよけい艶っぽく見えてしまう。


「温泉はどうでしたか?」

「いい湯だったよ。お前が入れないのが可哀想だな」

「仕方ありませんね・・・でも土方さんがゆっくり疲れを癒やして下さって良かったです。ここの所ずっと部屋にこもりきりでしたから・・・」

「色々片付けなきゃならねぇ事があったからな。ま、戻ったらまた文机と向かい合わせの生活だろうが」

「でしたらっ・・・今日はたくさんゆっくりして下さい!・・・・こうして二人で夜を共にするのは気恥ずかしいですが・・・私は土方さんのお役にたてるよう羽目を外して疲れをとって頂きたいんです・・・・」

「そんならお前こそ羽目外せ。いつもあんな大勢の男所帯に女一人なんだ。まぁ・・・ちょっと誤って相部屋になっちまったが・・・雑務も掃除も今はしなくていいんだからな」

「それでしたら土方さんこそっ・・・」

「あーよせ、拉致があかねぇよ・・・とりあえず今晩だけはただの温泉旅行だと思えばいい」

「ふふっ、はい!」

「千鶴あとな、あんま気を落とすなよ?」

「え?」

「綱道さんの事だ。なんも手掛かりは見つからなかったが生きてさえいればまた会えんだよ。親子ってのは。俺の両親はもう居ねぇがな、お前はお互い生きてんだからな」

「はい・・・ありがとうございます」

二人の空気が和んできたのを見とうし、土方は切り出す。

「あぁ千鶴。寝る時は布団の間についたて立てるからな。安心しろ」

「ついたて?」

「嫌だろう。隣どうしで寝んのは」

「いえ!とんでもないです!ついたてだなんてそんな失礼な事っ・・・、私はどちらかと言うと枕を並べて溝を埋めたいです!!」

「は!?」

「前々から土方さんとはその・・・ちょっと距離があったというか、他の幹部のみなさんと比べると一緒にお茶したりお話する機会がなくて・・・前々からゆっくりおしゃべり出来たらいいなぁと思ってたんです。なので今回こういう事になったのはきっと親睦を深める好機だと思いまして・・・」

「・・・・お前なぁ・・・新選組副長によくんな事言えんな」

「え・・・あっ!すすすみません!!ずうずうしいですよねっ・・・つい・・・」

「そうじゃねぇ。お前が思ってる新選組ってのは街でも恐れられてる通り・・・俺等は残酷な存在だからだ・・・見せたくない所は見せてねぇだけで命令が下れば殺す。御上には逆らえない」

「―――でも、私の見てるみなさんは優しいです。私にくれるみなさんの暖かさを私は本物だと思っています。非道なとこも優しいとこも寂しそうなとこも・・・どこか悲しそうな所も全て含めて新選組のみなさんだと思ってます。それも一部。だからもっと仲良くなりたいんです。土方さんとも」

「仲良く・・・・」

穏やかな瞳で微笑む少女に少し呆れた。そしてその姿を綺麗だと思ってしまったのはただの気の迷いか―――

「土方さん。肩をお揉みしてもよろしいですか?」

「は?いきなりなんだ」

「さっき言ったように親睦を深めるのです!」

「いいっつうの。」

「私は仲良くなりたいんですっ」

土方は少々呆れた。一瞬大人びて見えたのは勘違いだったようだ。まだ千鶴は男の危なさを分かっていない。

「――千鶴」

「きゃっ・・・」

千鶴の細い腕を引き寄せ土方は布団に押し倒し頬に手をやり瞳を覗き込む。

「土方さん・・・?」

「いいか?疑いもしねぇで男と二人きりになるとこういう事になんだよ」

少し思い知らせて千鶴に男の恐さを教えてやろう。世の中の恐さを味わせてやろう。そう思い優しく頬を撫で熱を帯びた瞳を千鶴を溶かすように降り注ぐ。

「あ・・・とっ」

「・・・・・・・・・・・・・・」

前髪を掻き分け顔全体の肌を露わにさせる。それから優しく優しく・・・唇を親指でたどる
陶器のように白い千鶴の肌が薄い桜色に染まっていって少し琥珀色を交えたセピア色の瞳が揺れ動く







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