はじめてのちゅー 1/1


はじめてだったのに
誰ともあんな事したことなくて自分が想っていた理想とはまったく異なっていた…

「私のはじめての接吻…」



さかのぼること数分前、暖かい午前中の屯所の中庭。
千鶴は今日も何か自分に出来ることを探し隊士達の着物を洗濯して中庭に干していた。
ついでだからお布団も干して今夜はみんなにお日様の匂いの布団で疲れた身体を休めて頂こうと張り切って鼻歌混じりに竹竿に布団を干していく

「千鶴ちゃん」

新選組一番組組長沖田総司だ。彼に気配を消すなんてお手のもの。ましてや年端もいかないまだ幼い少女には…



「ひゃ!!」

「ふふっ、びっくりした?」

「おっ、沖田さん驚かさないでください」

「千鶴ちゃんの驚いた顔が見たかったんだ。でもあんまり驚かなかったみたいだね。」

「いえっ今ので充分驚けましたけど…」

「ん〜僕としてはもうちょっと飛び跳ねたりしてほしかったんだけど驚いた感が感じられない。」

どうやら沖田は千鶴の驚いた顔が見たかったらしく、不満げなようだ。
沖田はこのところ千鶴をからかうのが楽しく、何やらマイブームになっていた元々興味を持ったものに対して沖田は人より執着心が強く、独占欲まで湧き出てくる。興味をもたれた方は大変だけど…

「あの…どうすれば?」

「ん〜じゃあこうしよう。」

「?」

「僕がこれから千鶴ちゃんをびっくりさせるから千鶴ちゃんは僕が喜ぶ驚きかたをして。」

「え゛……?」

かなり無理な難題だ。
というか沖田が自分を驚かせるなんてろくなことをしないはずだ。手段を選ばない沖田の悪戯、今までだって背中に毛虫を入れられたり、お土産だと渡された饅頭にはからしがたっぷり入れられていり、またある時は水まきをしていたら「貸して」と言われ水を頭からかけられ全身ずぶ濡れになった。
とにかくこんな大胆に今から悪戯宣言されては恐怖がふつふつと沸いてくる。

「じゃ、さっそくするね」

「えっ、なっ何するんですか!?」

むにゅり…

正面から両手で胸を鷲掴みにされた。

「きゃああああああっっ」

「あはは 跳ねはしなかったけどさっきよりは声出てる」

「何をすっ…なにを」

両手で自分を抱きしめるように押さえ込んで動揺する

「落ち着いて千鶴ちゃんこれは第一段階。まだまだこれから」

「やです!こっこれ以上何かしたら土方さんに言いつけますから!」

「ふーん…」

「…………………」

まさに蛇に睨まれた蛙…

じりじり

「なっ何ですか!何で近付いて来るんですか!?」

「何で土方さんなの?」

「へ?」

何で土方さんかと言われると…沖田さんを注意してるのはいつも土方さんだから。
他の隊士の人が注意しても効き目ないし…
唯一沖田さんが慕っている近藤さんは今いないし(それに近藤さんなんかに沖田さんの悪あがきなんて告げ口したら後が恐いし…)沖田さんにガツンと言えるのは土方さんだけだ。


「ですから、土方さんなら沖田さんを説得出来るというか…」

「千鶴ちゃんは土方さんを慕ってるの?」

「し、慕ってる?」

「好きなの?」

「え"え"え"え"え"え"え"え"え"え"え"え"ぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!」

「・・・・・・・・・・うるさい」

「なななんでそうなるんですか!わたっ、私は沖田さんを黙らせる事が出来るのは土方さんだけしかいないからっっ…」

「黙らせるって何さ。あ!ていうか今驚いたね。」

忘れていた沖田の脅かせるゲーム。まだ続いていたようだ。

「けっこういい反応だったね。でも飛び跳ねなかったなぁ〜」

『飛び跳ねさせたいのかな』

どうやら沖田は飛び跳ねさせたいらしく、昭和のギャグ漫画のようなリアクションをご希望なようだ。

「じゃあ次。」

「まだやるんですか!なにするんてすか!」

「千鶴ちゃん目、つぶって」

『いやだ』
「いやです。」

「いいから目、つぶって。じゃないともう一回胸触るよ。」

「うぅ…」

それだけはイヤだ。
千鶴は力いっぱいぎゅっと目を閉じた。

「いい子だね…」

そっと千鶴の頬に手をあてて、片方の手で頭を撫でながら…

ちゅっ


「・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・」

「今…」

唇になにか触れた。

「接吻しちゃった」

「…接吻?」
『私接吻されたの?』

接吻されたと自覚したと同時に千鶴の目からは大量の涙がボロボロと流れ出した。

「うぅうっ、ひっく、ふっうっ…」

「え、千鶴ちゃん?」

「最低です!酷いです!!は、はじめてだったのにっ…沖田さんなんて大嫌いです!」

そう言い残して千鶴はその場を走って去っていった。

はじめてだったのに誰ともあんな事したことなくて自分が想っていた理想とはまったく異なっていた…

「私のはじめての接吻…」

昔、幼い頃近所に住んでいた若い夫婦が池の畔で接吻しているのを見たことがある。

初めてみた接吻にドキドキして、以来その光景が目に焼き付いて離れず、密かに憧れになっていた。

初めてはきれいな景色のところで愛しい男性と…

それなのに……

「沖田さんなんて、沖田さんなんて!!」

だいっきらい!





千鶴は縁側で泣いていた。

「私の初めての接吻…」

「おいっ、そこで何してる!」

「土方さん」

「あ? なに泣いてんだ…?」

「うぅ…土方さん」

「どうした?総司になんかされたか?」

「はい、まさにその通りです。」

さすが土方、感が鋭い。

「はぁ、今度は何された?川に突き落とされたか?またナメクジつけられたか?」

「接吻されました」

「ぶっ!?」

土方が吹いた。

「あ〜…野暮なこと聞いて悪かったな…誰にも言わねーよ、じゃあな」

「えっ!?土方さん?違うんですっ! そうことじゃないんです!誤解しないでください!」

土方はなるべく千鶴の言葉を耳に入れないように去っていった。

「あ…聞いてくれない。」

「千鶴ちゃん」

「ひぃっっ!!」
沖田がいつの間にか後ろに立っていた。

「今何してたの?」

「来ないで下さい!」

「千鶴ちゃん」

ゆらっと沖田の顔がいつもと違う殺気を放っていて瞳の奥が光っている。
口は笑っているが目が笑っていない。
沖田は千鶴の手首を乱暴に掴み、近くの部屋に引っ張り込んだ。

「いたっ…」

ダンッとすぐさま壁に押し付けて千鶴を睨み付ける。

「土方さんに何で話してんの?」

「は、離してくださ…」

「何で土方さんにいってんの?」

沖田の殺気に千鶴は恐くて震える。

「沖田さんが私にせっ、接吻なんかするから土方さんにお叱りを受けて頂こうとしました。」

「千鶴ちゃんはそんなに嫌だった?接吻。千鶴ちゃんは僕の事嫌いなの?」

好きか嫌いかで聞かれたら困るが、千鶴の性格上めったに人を嫌えない。

「嫌いじゃ…ないです…」

「接吻嫌だった?」

「私…はじめてだったのにっ…はっ…はじめてはっ、想いの通い合った人と綺麗な景色の所でっていうのが夢だったのにっ、ひっく…なのに、沖田さんはあんな軽い気持ちでっ…酷いです!最低です!」

「軽い気持ちじゃないよ…僕はちゃんと気持ちのこもった接吻したつもりだよ。」

「でもっわっ、私を驚かせて楽しむためだって言ってたじゃないですか!」

「僕はおふざけで好きでもない娘と接吻なんかしたりしないよ。この意味わかる?」

「・・・・・・・・」

優しい瞳で、力を込めていた手首は離され、いつの間にか頬を撫でながら片方の手は腰にまわされている。
いくら疎い千鶴でもわかるだろう。この意味を。

「あ…えと、」

「千鶴ちゃん僕が話しかけた後は必ず土方さんとこに行っちゃうんだもん。好きな娘が違う男のとこ行ったらつい苛めたくなっちゃうものだよ。」

苛める行為は好きな相手にするようなかわいい行為ではなかったが。

好きな娘・・・

ぼぼっっ

千鶴の頬が一気に真っ赤になる

「千鶴ちゃん顔真っ赤。」

「あ…う…あの…」

どうやら告白されて急に意識してしまったらしく。

「ねぇ、もう一回やり直しの接吻していい?今度は綺麗な景色の所へ行って。」

「だっだだだだめです!」

告白され、急に意識してしまったからといってそう易々と二回目はやれない…

「じゃあ口じゃなくてほっぺは?」

「え…と」

「いい?千鶴ちゃん…」

「あ…」

耳元で甘く優しい声で囁かれ逆らえない
そっと、そっと髪を掻き分け、沖田は千鶴の右頬に口付けた。

ちゅっ…
「ん…」

「ふふっ千鶴ちゃん可愛い…」

「かっ、からかわないで下さい…」

「からかってないよ。口説いてんの。」

「!?」

「ねぇ千鶴ちゃん次、唇に接吻するときは綺麗な景色のとこに行こうね。」

「次って何ですか?」

「ん?はれて両想いになったことだし、次接吻するときは唇でしょ。」

「いつ両想いになったんですか!?」

「今。千鶴ちゃん僕の事もう好きになってくれたみたいだし」

「なっ、なってません!!」

「いや、なったね」

「なってません!!」

「まぁいいや、とりあえず場所だけきめとこうね。」

これからも沖田に振り回される千鶴だろう。



END


あとがき

初の幕末沖千でした。
ほんとうはもっとギャグテイストで短くするつもりが長くなってしまいました\(^O^)/私は意地悪沖田、どS沖田さん大好きなので今後そういう作品が多くなるんじゃないかと…







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