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目覚めたての光


「へぇ…成る程なぁ」

「ひ、秘密ですよ?」

穏やかな日射しの中、私は原田さんと一緒に縁側でたわいない話をしながら寛いでいた。
原田さんは、私の趣味や好きな食べ物などを聞いては楽しそうに笑ってお勧めの食べ方を教えてくれたり、今は…男性の好みとか、そんな話をしながらお団子を食べている
この屯所に来てから、まだほんの数ヶ月。それでもこうやって笑えているのは、皆さんが優しいおかげだと思う


「お、千鶴ちゃん。今日も元気そうだな! んで、左之は抜け駆けかぁ?」

「バーカ、そんなんじゃねぇよ。ただ、これから暫く一緒に暮らすんだ。千鶴の事を知っといて損はねぇだろ?」

「そんな事言ってよぉ…千鶴ちゃん、気をつけろよ? 左之は女癖が悪い…ぐはっ!?」

「んー? 何か言ったか、新八。最近、耳がちょっとばかし悪くてよ」

「だ、だから…女癖が悪、ぐはぁっ!?」

「千鶴、新八の話はデタラメだから信じるんじゃねぇぞ?」

「は…はい……」


せっかく来て下さった永倉さんは、原田さんの鋭い拳に呆気なく倒れてしまって。
最初はこんなやり取りにびっくりして、見ていられなかったけど…これが皆さんにとっての日常で、私も最近じゃすっかり慣れて楽しんじゃってる
勢い良く起き上がって掴みかかる永倉さんに、まぁまぁ…と宥める私。
その間に、つい辺りを見回してしまうのは…何でだろう?


「あっ! 三人で何遊んでんだよ、ズッリー!」

「!」

「よう平助。巡察は終わったのか?」

「終わったし! ほら、こうして千鶴に土産持参で…っ!」

「新八、明らかに抜け駆けしてんのは平助の方じゃねぇか?」

「てんめぇ、ガキのクセに色気づきやがって!」

「ああっ!? ちょ、何すんだよ新八っつぁん!」

「お、なかなか美味ぇな」

「ちょっとぉぉっ!?」


そっか、平助君が居なかったから…つい捜しちゃったんだ
隊服を着たまま、まっすぐここに来てくれたんだろう。巡察に行った時には必ずと言って良い程、お土産と言っていろんな物を買って逢いに来てくれる…凄く優しい人。
たまに思うけど、こんなに優しいのに新選組の幹部だなんて信じられないよ
……まぁ、初対面の時は怖かったけどね


「くっそー…せっかく千鶴に買ってきたのに」

「けど、よく買えたな。この店、確かいっつも行列が出来てる店だろ?」

「へへっ、根性の勝利ってやつ?」

「ほー……」

「……な、何だよその目は……」

「新八、今まで平助が我慢強かった事があったか?」

「いーや、記憶にねぇなぁ」

「な…っ!? あ、あるし! 二人が知らねぇだけ!」

「いや? これは俺が思うに、千鶴に惚れちまってるんだと思うがなぁ」

「平助も一丁前に男になってたんだなぁ」

「……っ、からかうのもいい加減にしろよ!?」

「はっは、真っ赤な顔して何言ってんだろうなぁ」

「は、腹立つ…っ!」

「なぁ千鶴、平助がお前の事好きだってよ」

「左之さんっ!」

「はい、私も好きですから嬉しいです」

「……え、本当に?」

「……? うん」

「千鶴ちゃん、俺は?」

「勿論、永倉さんも好きです」

「……なんだよ、そっちの意味か……」

「落ち込んでる落ち込んでる」

「うっせ!」



明るくて、楽しくて、一緒に居ると幸せだと思う。
そう思うのは、江戸に居た時には感じなかった事だから…余計にそう思うんだろうな



***

それから晩ご飯の時間になって、一日で一番賑やかな時間がやってきた。特に今日は土方さんが居ないから、永倉さんや平助君ははしゃぎっぱなし
大分お酒も回ってきたのか、私が絡まれたのは二人共が顔を真っ赤に火照らせていた時だった

「ちーづるぅ、新八っつぁんばっか酌してズッリー! オレも、オレもぉっ!」

「平助君…ちょっと飲みすぎじゃない? 大丈夫?」

「だいじょーぶ、だぁいじょーぶだって!」


本当かなぁ? そう思いながらも、ゆっくり注いでいく。
もう既に沢山の空き瓶が転がっていて、お酒の匂いがツンと鼻についた
沖田さんや斎藤さんを見ても、二人は見て見ぬフリ。沖田さんに至っては、関わる気も無いのかも知れないけど。
因みに、原田さんはまったく話を聞いていない永倉さんに延々と熱く何かを語っていた


「……ちづる、なに左之さんばっか見てんの? そんっなに男前な左之さんがいーのか!?」

「え、え? ち…違うよ、そういう意味じゃなくて……」

「じゃ、どーいう意味?」

「どういう…って、」

誰か、お酒を飲む事を止めるように言ってくれそうな人を捜してました。……なんて、流石に言えないよ


「そーそー、昼間だってぇ…左之さんとなぁに喋ってたわけ? 仲良さそうに笑っちゃってさぁ…駄目じゃん、笑っちゃ!」

「笑っちゃ駄目なの?」

「駄目ーっ! でも、オレの前だけだったら許すーっ」

「どうして?」

「んあ? ははっ、あったり前じゃん! ちづるの笑顔を、いっちばん最初に見たのはオレだもん! な、オレだよなー?」

「そ、そんな事聞かれても…わかんないよ」

「なぁんでわかんねぇんだよ! んー…ちづる、もっと注いで?」


甘えるようにペッタリとくっついて来て、なんだかドキドキしちゃうのは何で?
もしかして、私までお酒に酔っちゃったのかな
注いだお酒をグッと一気に飲み干すと、平助君は嬉しそうに微笑んで。
そんな平助君をいつの間にか見ていた原田さんと永倉さんが、茶化すように間に割って入ってくる


「平助ー、千鶴ちゃんは芸子の姉ちゃんじゃねぇんだぞー? ベタベタ引っ付きやがって…羨ましいんだよ、こんにゃろ!」

「へへっ、羨ましーだろーっ! オレ達いっちばん仲良しだもんなー、もっと引っ付いてやるっ」

「ちょ、ちょっと平助君っ!? 恥ずかしいよ…っ!」

「恥ずかしくなーいーっ! ……それとも、オレより新八っつぁんの方が良いのか?」

相当酔っぱらってる。そう確信出来たのは、まるで子犬が縋るような目で私を見てきたから
年上なのに、可愛いかも…なんて思ってしまって、つい手が勝手に平助君の頭を撫でてしまった。
いつもなら「子供扱いすんな!」とか言うんだろうけど…今日は全然違う。寧ろスリスリとすり寄って、ギューッとさっきよりずっと力強く抱きしめられたの


「へへっ、ちーづるっ」

「へ、平助君ってば…もう、本当に恥ずかしいから……」

「千鶴ー…そんなに平助が好きなのかぁ? あーあ、妬けっちまうな」

「え、え?」

「顔、真っ赤だぜ?」


原田さんに指摘されて、つい視線を下に向ける
すると、杯の中に映る私の顔は確かに真っ赤で…そんな私の顔を見た途端、この抱き締められてる状況が更に恥ずかしくて、それからずっと顔を上げられなかった



目 覚 め た て の 光



「千鶴…なんかオレの事避けてねぇ?」


翌日、二日酔いのせいか、ただ単に飲み過ぎただけなのか…平助君は昨日の事を、何一つ覚えていなかった
昨日の事があったおかげで、朝からずっと沖田さんや原田さんにからかわれてるのに…平助君だけ、狡くない?

「本当に昨日の事…何も覚えてないの?」

「えっと…そう言うって事は、何かやらかしちまったって事…だよな?」

「……………………」

「ご…ごめんな、えっと…何か酷い事したみてぇで……」


シュンとうなだれてしまう平助君を見てると、何だか悪い事してる気になっちゃう
だから、平助君がもう気にしないようにニコッと笑顔を作って言ったの


「酷い事なんてしてないし、怒ってないから気にしないで? ……それに、」

「?」

「……恥ずかしかったけど、本当はね…嬉しかった。一番仲良しだって言ってくれてありがとう」

「え? えっと…うん、どう致しまして……」

「……? 何か変な事言っちゃった?」

「いや、そうじゃねぇけどさ…その、一番仲良しだってのはスッゲー嬉しいんだけど…友達止まりは、その……」

「?」

「……つまり、平助はお前と付き合いたいって言いたいみてぇだぞ」

「え?」

「ちょ、左之さん!? 新八っつぁんまで、いつから見てたんだよ!?」

「いやー…平助、お前そんっなに千鶴ちゃんが好きだったなんてなぁ…春が来て良かったなぁおい」

「ば…っ! 何言ってんだよ、つか酒臭ぇっ! こっち来んな!」

「はぁ? 人の事言えんのか、てめぇだって充分酒臭いだろうがっ!」

「千鶴が酒臭い野郎は嫌いだって言ってんぞー」

「ええっ!?」

「そ、そんな事言ってねーだろ!? あ、でもごめんな千鶴!」


結局、平助君が何を言おうとしてたのかわからないまま、また騒がしい一日が始まる
このままずっと、楽しい日々が続けば良いのに。
そう思った事は、皆さんには…内緒




END
――――――

2013.07.11.

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