二万打小説 | ナノ

 千鶴ちゃんの忘れ物A




「右よし。左よし。前方よし。」

細心の注意を払い人が居ないのを確認し千鶴はプールバックを胸元に抱え、スカートをなるべく太ももの間に挟め女子更衣室から一歩を踏み出す。

(たしか教室のロッカーにジャージの上下が入っていたはず)

それさえ履けば今日1日をなんとか乗り越えられる。小走りで目指すは自分のクラスの教室。

「よっ!、千鶴〜プール終わったんかよ〜!」

「きゃあああああああああああああああああああっっ!!」

「わわわっ、なんだよそんなに驚いた?」

現れたのは千鶴の幼なじみの平助。

「・・・・・・あっへ、へいすけ・・・君」

「ごめんなー千鶴見えたから走って来たんだ!プールどうだった?」

「あ、うん・・・プールは楽しかったよ・・・・・平助君のクラスはいつから?」

「俺等は午後から!飯食った後だと腹出ちまうから困んだよなー」

「そうだね・・・・・・」

正直、幼なじみに会えた事は嬉しいが今の千鶴には障害物でしかない。今は一刻も早くジャージを着用したいのだ。

「平助君、私もう教室戻らなきゃっ・・・ドライヤー代わり番こだから使えなくなっちゃう」

プールがあるクラスは授業後、ドライヤーが学園から15台ほど貸し出しされる。とは言ってもクラスの人数は全員で約40人程居る為いくら男子で皆、短髪でも時間はかかってしまう。

「あ、そっか。女子は髪長いから大変だもんな。はやく乾かせよ」

「う、うんじゃあね平助君」

「昼休みな〜」

小走りで千鶴はその場を去る。

「・・・・・・・・・・・・」

(スースーするっ・・・!!)

パンツを履いてない為空気の抵抗で進むとスカートの中がスースーしてしまう。おぼつかない足取りでそそくさと千鶴は自分のクラスの教室へと向かう。


*******

ガラッ

(ほっ、やっと着いた・・・)

教室の扉を開けるとクラスの男子達が早速ドライヤーで髪を乾かしていた。男子と言っても彼等は年頃。ちゃっかりヘアスプレーやヘアーアイロンなどを持ち込んでいる者も居る。

「あ!千鶴ちゃんこっちおいでよ。千鶴ちゃんの為に俺ドライヤー開けておいたんだ!」

「千鶴ちゃん俺アイロンもってきたからさ!良かったら使う?男用だけど。」

千鶴は学園唯一の女子なのと、容姿がとても可愛い為クラスの男子いや、学園の男子からモテモテなのである。みんなからは「雪村さん」と呼ばれる事が多いがクラスメートと先輩からは「千鶴ちゃん」と呼ぶ者が大半だ。

「あ、有難うございますっ」

にこやかに椅子とドライヤーを貸してくれたクラスメートをよそに千鶴は周りを見渡す。

(ドライヤーの風が・・・・)

今は皆ドライヤーラッシュ。早く貸せ貸せと順番待ち。あちこちでドライヤーの強風が吹いている。

だが大丈夫。ここは教室。後はロッカーに入れていたジャージの上下を着れば一件落着なのだ。長いようで短い千鶴の災難はもうすぐ終わる。千鶴は安堵した様子で自分のロッカーを開けた。

「・・・・・・・・あ、れ?」

ジャージが無い。

(なんで?どおしてっ・・・っ!?確かに入れていたはずなのにっ・・・)

ここで千鶴はふと思い出す。そういえば先週体育の授業で汗だくになり洗濯に出すため家に持って帰ったのだ。

どおしよう!!!

と、その時後ろで髪の毛を乾かしていた男子のドライヤーの風が千鶴の脚元に向けられた。

ふわっ

「きゃああああ!!」

「えっ!?」

風をかけた男子生徒も訳が分からずきょとんとする。

「え、千鶴ちゃんどうかしたの?」

「なっ、なななな何でもないの!ちょっと虫がっ・・・ゴメンナサイ!!」

「えっ!?千鶴ちゃん?」

勢いよく千鶴はスカートと胸元を押さえながら教室を飛び出し逃げた。

スカートが捲れてしまった・・・

(誰かに見られたかもっ・・・!!)

そうなれば雪村千鶴はノーパンノーブラだと言いふらされる。そんなの社会的抹殺だ。
羞恥心と焦りで耐えられず逃げるように廊下を猛ダッシュしていたら誰かにぶつかった。

幼なじみの平助の親友沖田だ。

「沖田先輩っ・・・」

「千鶴ちゃんそんな慌ててどうしたの?」

「あ、いえ・・・走りたくて・・・」

「へぇ〜、青春だね?」

「・・・・・・・・・・・」

焦りすぎて訳の解らない答えを言ってしまったなと我ながら思った。だがそれよりも今はなるべく人に会いたくない。

「ぶつかってすみません・・・」

「いいよ平気。それよりさぁ〜千鶴ちゃんなんかさ・・・」

「?」

「いつもより・・・柔らかかったね。ぶつかった時」

「!!」

「女の子にこういう事言うの失礼かもだけどもしかしてちょっと体重増えたとか?」

そんな事はない。太ってなどいない。なんて失礼な先輩だろうと千鶴の内心は怒っている。だが真実は「ノーブラだからです」なんて言えない。なので・・・

「そ、そうなんです・・・!夏バテして食べてしまって」

「ふーん。夏バテで食べちゃうんだ?変わってるね君。」

「はぁ・・・」

バレなくて良かった。

早くこの場を去ろう。そして今日は保健室にでも仮病で避難していよう。そんな時

「千鶴ちゃんいつもと身体のライン違くない?」

「え」

「太ったって言うには痩せたよね?なんで?」

千鶴はサッと胸を両手で隠す。額には焦りで脂汗が滲み出ている。

「沖田先輩私体調が悪いので失礼致します」

カチコチした動きでその場を去ろうとしたのだが。

「え、そうだったの?僕もついて行くよ。心配だから」

「いえ!平気です!大丈夫です!一人で行けます!」

「え〜着いていきたいのに〜」

「いえいいんです御心配ありがとうございますさよなら!」

「あっ」

沖田に言わすヒマは与えず。また千鶴は猛ダッシュでスカートを押さえながら保健室へ向かって行った。




つづく





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