二万打小説 | ナノ

 千鶴ちゃんの忘れ物D




見られてしまった!見られてしまった!!

長い廊下を全速力で突っ走る。土方に見られてしまった。Yシャツ越しに控え目な胸の先っぽがツンと主張していた事を。そうノーブラだと言うことも・・・・

(見られた見られた見られた見られた見られた見られた!ノーブラだってバレたかも!変態だって思われたかも!それにチッ、チチチチク・・・っ!! )

半泣きになりながら走っていると何かにぶつかった。

「おっと・・・!、千鶴?」

「原田先生・・・」

ぶつかったのは千鶴の担任教師、原田左之助。

「んな慌ててどうしたんだ?」

落ち着いたトーンで突進して来た千鶴を受け止め半泣きの千鶴に様子を伺う。

「土方先生から千鶴が体調悪くて保健室行ったって聞いてよ、今様子見に行くトコだったんだが・・・なんかあったか?」

気が付けば3時間目終了のチャイムが鳴っていて、授業を終えた生徒や先生達が廊下を行き来していた。原田もその内の一人。

「あのっ・・・、あのっ・・・」

理由が理由なだけに詳しい訳は話せない。

「話したくないならいいけどよ、涙でてんぜ?ほら」


そう言ってごく自然に原田は千鶴の涙を人差し指ですくい取り拭う。この男は素でこういう事をするなんとも女子からしたら危険なんだかよくわからない男だ。それが原田左之助だ。

「あっ、ぅっ」

「泣くな泣くな。体調は大丈夫か?」

なでなでなで。右手は千鶴の腰、左手は頭を撫でながら物腰柔らかく千鶴に問い掛ける。

「なんともないです・・・」

「なら良かったぜ」

「・・・・・・・・・・・」

甘い雰囲気につい気を取られていたが、今原田と千鶴はものすごく密着している。抱き締め合っているかのように。

(ん〜・・??何だぁ・・・何か違げぇな?いつも女を抱く時と何か違え。こう・・・、しいて言うなら柔らかすぎる)

むにゅりとした感触が原田の逞しい胸板に伝わる。因みに、ここは公共の場なので密着する二人を通りすがりの生徒達が注目する。

「あの、原田先生・・・私はもう大丈夫ですので次の授業に出ますね。」

「お!出られるか。良かった良かった。クラスの連中心配してるみたいだからよ。紅一点のお前が居ないとやる気出ねぇみたいでなー」

「ははっ・・・」


千鶴はこう考えた。これからの授業は皆、教室で受けるものだ。移動教室の授業も今日は入っていないはず。こうなれば下手に動くよりおとなしく授業を受けて今日1日を過ごせばいいのではないか。

「ま、そういう事だから体調いいんなら教室戻って元気な面見してやってくれよ。マジで寂しがってっからよ」

「はい!」




***

スカートを押さえながら階段を登り、教室に着いたら案の定クラスの男子が駆け寄って来た。ちやほや千鶴の気を引くためお菓子をあげたりイスを引いたりお姫様扱いされながら千鶴は四限目、五限目の授業を受けた。そして時刻は昼休み。


キーンコーンカーンコーン

ダダダダダッと廊下に響き渡る掛け脚。その主は千鶴の幼なじみの平助。いつも昼食を一緒に食べるのを約束している二人は大体平助が千鶴を誘いにくる。

「千鶴ー!飯行こうぜー!!」

「平助君」

「今日は暑いから屋上で食おうぜ!総司と一君も居るかんな!」

「うん・・・」

(屋上・・・)

それを聞いて千鶴はまた考える。スカートが気になる。出来れば自分の教室で一歩も動かずに食べたいが・・・

(今日は真夏日だし朝もプールの時も風はなかったから大丈夫・・・かな?)

「行こうぜ!」

「あっ・・・」

幼なじみに手を引かれお弁当を持ち、千鶴と平助は教室を出た。
しばらく廊下を歩くと購買部にやって来た。ここを通らなければ屋上に続く階段にはたどり着けない。昼の購買部は戦場だ。腹を空かせた血気盛んな男子達が我先にと食料を購入しようと奮闘する。

「あ、平助と千鶴ちゃん」

「お!総司と一君!」

ここでお昼を約束したメンバーが揃う。

「雪村、体調はもういいのか?」

「はい、先程はありがとう御座いました斉藤先輩」

「いや・・・いいんだ。お前が無事なら」

「一君二人の世界作ろうとしないでよ。」

沖田により遮られる。

「しっかし毎度の事ながらイヤになるよなー、この混みよう!」

「でも僕今日お弁当持ってきてないから買わないと。」

「千鶴はなんか買う?」

「あ、私も飲み物持ってきて無いからお茶を・・・」

「しかし雪村をこの混雑の中通したら怪我をするぞ」

薄桜学園は大抵体育会系の者が多く皆、食べ盛り。弁当一つじゃ足りなくほとんどの生徒がこの時間購買部を利用するが、なんせガタイがでかい者ばかりでこんな中、華奢で小さな身体の千鶴が入って行ったらもみくちゃにされ怪我をしてしまう。

「じゃあこうしよう!僕と一君は千鶴ちゃんを護りながらこの群集の中を渡るから平助は買い物係りね。」

「・・・俺も千鶴守る係がいい。」

「平助はチビだから千鶴ちゃんを守ってんだか一緒にもみくちゃにされてんだか分からないでしょ?それに君は雑用係りが似合うよ」

「千鶴を守るのは小さい頃から俺の役目なんだよ!それに一君は俺と対して変わんねぇじゃん!」

「俺はお前よりは高い!!」

「あ、一君が大きい声出した。」

「一君も気にしてんだね・・・」

こうして、沖田と斉藤が千鶴を守りながらこの群集の中を通り、平助が四人分の買い物をし切り抜ける事になった。

(どおしよう・・・!)

ノーパン・ノーブラの千鶴がこの中から無事抜け出せるかは分からない・・・・・



つづく





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