▼ 千鶴ちゃんの忘れ物C
保健室に入るなり斉藤が千鶴を下ろしてくれた。
「土方先生。雪村は体調がすぐれないようです。」
「あ・・・土方先生どうして保健室に?」
「ん?俺はコンタクトの保存液借りに来たんだよ。ちなみに今は山南先生は出張中で居ねぇからな。雪村熱はあるか?」
そう言って土方は千鶴の額に右手を添える。
「あ・・・」
当然、仮病なので熱はないが自分の額に異性の手が添えられた事に緊張し赤くなる。
「熱はねぇみたいだな。よし、保健室で休んでろ顔色がかなり悪いからな」
「・・・・・・・・はい」
顔色が悪いのはまた病気とは関係ない・・・・
「雪村、俺はもうそろそろ授業が始まる。行かねばならない」
「あっ、すみません御迷惑をお掛けして・・・有難う御座いました」
有りがた迷惑だったが礼儀として御礼は言う。
「早く良くなるんだな」
そう言って、千鶴の頭を軽く撫で優しげに微笑んだ斉藤は保健室を出て行った。
「・・・・・・・・・・・・」
(あんな事をされたとはいえ、好意でしたんだし御世話になったし後日改めて御礼を言わないとなぁ・・・)
「雪村」
「あっ、はい」
「体調が良くなるまでベッドで横になってろ。次の授業はなんだ?」
「数学です」
「なら新八に伝えておくからお前はここに居ろ。俺は職員室に戻らなきゃならねぇ」
「すみません有難う御座います土方先生」
千鶴をベッドに座らせ、ガタガタと土方は保健室を物色し、体温計と冷却シートを取り出す。
「一応熱計っとけ。あとこれデコに貼ってろ」
ビーッと冷却シートの透明のフィルムを剥がし千鶴のおでこに躊躇なく張った。
「ひゃっ・・・冷たい」
「我慢しろ。」
(ほんとは熱なんてないのにな・・・・)
土方は千鶴をベッドに寝かそうとする。
「ほら、布団掛けるから横になれ」
「は、はいぃぃ」
この間も千鶴はYシャツからアレが透けないように腕で隠しながら布団に潜る。
「ん?お前汗だくじゃねぇか、身体拭くか?」
「へ?あ、そうですね」
土方が保健室の手洗い場から桶にぬるま湯を溜、清潔なタオルと一緒に手渡す。
「ほんとは新しく着替えを貸したいが女子の予備の制服なんかはまだ用意してなくてな・・・男用ならわんさかあるがお前にはブカブカだな」
「着替え・・・」
正直、喉から手が出る程欲しい。女子用の下着はないだろうがせめてハーフパンツとTシャツとか・・・
だが当然華奢な千鶴の体型。前に平助や薫の服を着てみた事があるが似たような身長差で細身な彼等の服でもデカかった。ズボンもズリ下がる程。千鶴はそれ位ウエストが細いなんとも女の子憧れの体型だ。
「俺は今は授業入ってねぇから30分くらいしたらまた様子見にくるからな。」
「はい」
そう言って土方は保健室を出て行った。
「はあ〜〜〜〜〜〜・・・・」
オアシスだ。天国だ。密室に誰も居ない、身体を隠せる布もあるしカーテンで仕切れる。今までの苦労を振り返り千鶴は安堵の表情を浮かべる。
さっそく土方に汲んで貰ったお湯で身体を拭く。
「汗でベタベタだったもんね」
綺麗さっぱり、上から下まで拭き少し嫌だが元着ていた自分の汗で湿ったYシャツを着直し千鶴は布団に潜る。
「ん・・・幸せ」
安心感と午前中の日のひかりで千鶴は睡魔におそわれ、うとうとと知らぬ間に眠りについた。
しばらくして先程出て行った土方が保健室に戻ってきた。
「入るぞ」
し・・・・ん
保健室へ入ると部屋は静まり返っていた。だがよく耳をすませれば閉められたベッドのカーテンの向こうから浅く規則正しい寝息が聞こえる。
そうっとカーテンを開けると眠っていたのは・・・
「――――・・・・・・・・あ?」
先程自分が世話をしてやった女子生徒。だがその姿をよく見ると上半身の布団がはだけている。
(胸が・・・)
何だがおかしい。なんというか・・・・こう、形が・・・・・・
それに――・・・・・
「んぅ・・・・」
土方はハッとして視線を反らす。
「雪村起きたか?」
「・・・・・・あ、土方せんせ・・・」
千鶴は上半身を起こし、自分の姿を見下ろし両腕で胸元を隠した。
「あのっ、あのっ・・・」
「茶持ってきたから飲め。」
「ありがとうございます・・・・」
今、見られてはいなかっただろうか?アレが透けたのを。
「熱はあったか?」
「あ、いえ平熱でした。」
「なら良かった。具合悪かったら言えよ?早退させてやるからな」
「え」
早退。その手があった!嘘でもいいから熱があると言ってサッサと帰れば良かった。もう遅い・・・・がっくりと千鶴は落ち込む。
「なんだどおした?」
すると元気がない千鶴を見かねた土方が気にかける。優しく千鶴の頬を撫で顔を覗き込む。
「ダルいか?つらかったら我慢するなよ。お前は頑張り過ぎるとこがあるからな遠慮すんじゃねぇ、甘えろよ?」
「・・・・・・・・・・はい」
千鶴の心理風景には今、二人の周りに点描で描かれた花が飛んでいる。
先生に見つめられている・・・
吸い込まれそうなアメジスト色の瞳に触れる男らしい手。優しく心配してくれる心づかい。
(好きになりそう・・・)
千鶴だって16歳の年頃の女子高生。"完璧"を持っている素敵な大人の男を目の前にして恋しないはずがない・・・
「土方せんせい・・・・・」
千鶴の鼓動が速くなる。胸も熱くなり心の奥から何かが込み上げてくる、その時。
「!」
土方の目が何かに気付いたように見開く。千鶴は不思議に思い土方の視線を目で追い掛ける。下に下に、じーーっと視線を辿れば行き着く先は自分の・・・
(胸が!透けてる!)
雷が千鶴の頭に直撃したような衝撃な出来事。千鶴の白いYシャツから透けているアレはツンと立ち主張していた。
「きいやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
ガタガタ、バン!
ベッドから飛び上がりその辺にある体重計やらイスやらにぶつかりながら千鶴は悲鳴をあげて保健室から出て行った。
「オイ!雪村っ・・・・・」
一人取り残された土方はものすごく何かいけない事をしてしまった様な罪悪感と見てしまった事件に混乱し、只々呆然と突っ立っていた。
つづく
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