二万打小説 | ナノ

 千鶴ちゃんの忘れ物B




タッタッタッタッタッ

いつもは何とも感じない廊下がものすごく長く感じる。
素っ裸にそのままYシャツとスカートをまとっただけが今の千鶴の格好だ。羞恥心の汗が千鶴の身体から滲みでる事によって当然白いYシャツも汗を染み込み透けてくる。

(透けちゃう!アレが透けちゃう〜!! )

胸元とスカートを押さえながら息を切らし廊下を駆ける。
千鶴が今居るのは一年生の教室が有る三階。目的地の保健室は一階にあるのだが、先ほど女子更衣室から自分の教室への移動の時は人気の無い夏にだけ解放される外の非常階段を利用していた為、コノ状態で校内の階段を利用するのは初めてだった。

(この時間のここの階段利用は危険・・・・!)

当然だが今は授業の合間の10分休み。移動教室やトイレや階段を利用する先生、生徒は多い。
千鶴は三階から一階に向かう為上へ登る人と鉢合わせすれば必ずスカートの中は見えてしまう。その為に千鶴が考える対策はまず、人が来たら反対側へサッと避ける。とにかく避ける、のまるで昔の携帯ゲームを連想させるような絵図等だが今はこれしか策がない。

(今は人が居ないからダッシュして下りよう!)

なるべく人が居ない時はダッシュで!ダダダダダッと勢い良く千鶴は階段を駆け下りるが二階から一階への時に下から彼が現れた。

「雪村っ!校内を走るのは校則違反だ。」

彼も幼なじみ平助の親友二年生の斉藤先輩。

「きゃあ!斉藤先輩っ・・・!! 」

校則に厳しい風紀委員の彼は逃がさない。

「急いでいるのか?」

「あ、いえすみませんつい・・・・・」

斉藤が居るのは千鶴の段から15段程下の段。正直見えてしまいそうだ。だか、下りてもスカートが捲れてしまうかも・・・・

「雪村が廊下を走るのは珍しいな・・・総司や平助なら頻繁に走り回っているがそういえば朝もプールだと喜びまわっていて・・・・」

長々と何やら斉藤の話が始まってしまった。二人の距離は一段越しだが立ち話が始まってしまった為また動けない。彼なりの説教を聞いて貰えないストレスの吐き出し口が後輩の千鶴に愚痴を聞いて貰う事でもあるのだが今はそれどころかでない。普段は尊敬する先輩も今は総司や平助と変わらない障害物。

「この学校は土方教頭先生が全てを回して支えているのに総司の奴は・・・」

「斉藤先輩私あのっ」

(パンツを履いてないから保健室でサボろうかと思います!)

なんて言えず、ダラダラと汗をかきしどろもどろしていると・・・

「はっ!雪村?顔色が悪いぞ。体調が悪いのか?」

「へ」

確かに"履いていない"事から緊張と恥ずかしさで汗をかきバレたらという恐怖心で顔は真っ青だった。
逃げるチャンスだ!

「あ・・・・実は!体調が優れなくて保健室に行こうかと!」

「そうだったのか・・・すまない引き止めてしまって・・・心配だから保健室まで送らせてくれ」

「いーえ!いーえ!いいです大丈夫です!そんな御迷惑をかけてしまいます一人で大丈夫です!」

冗談ではない!今はとにかくとにかく人と関わりたくない。1人で居る事が一番の安全なのにっ・・・
千鶴は必死に抵抗する。

「いや、もし途中で倒れたりしたら大変だ。俺が保健室までおぶろう。」

「おぶる!?」

「この時期なら夏バテかもしれんな。今日は熱帯低気圧だ。先ほどのプールで体力を消費して身体が疲れている。体力消耗している時こそ人は体調を崩しやすい。」

「あ、あのっ・・・!」

そう言って斉藤は階段の踊り場まで千鶴を連れて行きスッとごく自然に千鶴をお姫様抱っこした。

「!!!きっ、きぃやああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁ」

お姫様抱っこ。当然斉藤が掴んでいるのは膝の裏。スカートは重力で下に下がる。押さえられていない今、千鶴はおしりがあられもない姿になっている。

「!?雪村っ・・・?」

ジタバタジタバタ斉藤の腕の中で暴れ狂う。斉藤は訳が解らないがとにかくこの行為は千鶴が短いスカートを履いている限り、パンツを履いていてもタブーだ。

「下ろしてください!下ろしてください!!下ろしてくださいィ〜!!!」

「っ・・・?」

訳が解らないが千鶴が運んで貰う事に対し究極に遠慮してるのだと斉藤は思った。実際は違うが。

「ひいいいいい!ひいいいいいいやあああああああああーーーーーぁぁぁぁぁぁ・・・・」


なんとも幸いな事に斉藤にお姫様抱っこで運ばれている最中、他の人物と擦れ違う事はなかった。千鶴は純潔をなんとか守れた。

「安心しろ、保健室に着いたぞ雪村」

「・・・・・・はぃ」

純潔はなんとか守れたが女として何か失ったような・・・
絶望感と喪失感で千鶴は廃人のように白くなりぐったりと斉藤にもたれかかっていた。まるで本当に病人のようだ。

ガラッと保健室の扉を開けると中に居たのは――――


「どうした雪村。熱でもあるのか?」

土方先生だった。




つづく





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