▼ あの娘は妖怪
「はじめましてこんにちは今日からお世話になります」
ある日、突然僕の目の前に現れた女の子。可愛らしい笑みで僕に三つ指立ててきちんと挨拶する仕草はまるでこれから嫁入りするみたいだった。
びっくりした僕は彼女に話かける。
「君どこの子?僕のウチで何してんの?」
「・・・・・・・・・・」
驚いて質問したのは僕の方なのに目の前の彼女は目を丸くした。
「わっ、私の事が見えるのですか?」
「?」
「私の事が見えるのは子供ぐらいなはずですのに・・・どうしてでしょうか?」
なにやらブツブツ言ってるがおいてけぼりな僕はこの不法侵入者をどうするか考え中だ。
「とりあえず君が何者かはいいとして、出てってもらうよ。」
「まっ、待って下さい!自己紹介させて下さい!」
「いやいいから・・・・」
「私っ、妖怪なんです!『座敷わらし』って聞いた事ありませんか?」
座敷わらし・・・・?
一般的に有名な妖怪だから僕も座敷わらしぐらい知っている。貧しい家に住み着きその家を繁栄させた後、別の家にまた乗り換え遺された家は衰退する。
妖怪なんて普段信じないけど目の前にいる女の子は自称座敷わらしだと言い張る。
「座敷わらしって子供の姿をしてるんでしょう?君どう見ても14〜5歳だし・・・あんまりしつこいと役所に突き出すよ。」
「座敷わらしは15歳くらいの子もいるんです。そんなに信じないなら役所にでも突き出してみてください!」
不法侵入者のくせに堂々てしてるこの少女に若干イラつき、このまま軌ってしまいたい衝動をおさえたが、面倒事はごめんだ。しかしなかなか出て行かないこの子をどうしようか悩んでいると。
「子供のお遊びに付き合ってる程暇じゃないだけど――」
「―――おい、総司。なにブツブツ独り言呟いてんだ大丈夫か?」
現れたのは僕が通う「試衛館道場」の兄弟子の土方さん。あぁやだやだ・・・今日は厄日だ。
「げ。何の用ですか?怖い顔して、そんなんだから子供に稽古する前に泣かれちゃうんですよ」
「怖い顔は生まれつきだ。食いもん持ってきてやったんだよ。」
彼、土方さんは僕が尊敬する「試衛館道場」の当主、近藤さんの家に住み込みながら一緒に門弟達に剣の指導をする僕の兄弟子なんだけれども僕より後から来たくせに近藤さんと仲がいいから僕はきらいなんだ。ちなみに彼が持ってきたのは近藤さんの奥さんが作ってくれたご飯。試衛館道場とは少し離れた小さな一軒家に近藤さんの奥さんと7歳の娘さんが暮らしている。土方さんが普段住んでいるのが道場の隣方の自宅で近藤さんは行ったり来たりの生活。
「あ、僕の好きな栗の甘露煮もある」
「身体は大丈夫か?って近藤さんから伝言。調子はどうだ?」
「大丈夫って言いたいですけどね・・・もって今年・・・年越せるかどうか・・・・」
「お前・・・・」
「わぁ〜!栗の甘露煮美味しそうです!」
空気をぶち破ったのはすっかり忘れていた自称座敷わらしの女の子。
「君いい加減出て行ってくれない?いくら女の子でもこれ以上は斬らないといけないかな」
「総司大丈夫か!?先からどうしたんだよ幻覚でも見えてんのか?」
「え・・・・・」
「ほら!だから言いましたでしょう?私は正真正銘の座敷わらし!人間ではないのです!」
「嘘でしょ・・・」
僕の目の前に現れた座敷わらしの女の子。死期が近いこの僕の残り少ない人生に波乱がやってきた。
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