短編 | ナノ
長曽祢虎徹@どちらかが相手を笑わせないと出られない部屋

「……えっと」
「…………」
「……あのー、長曽祢さん」
「……ふとんがふっとんだ」
「エ?」
「ダメか。……ダメか。主、緊張してくれるな。すぐ出してやる」
「あっ! 今のわたしを笑わそうとしてくれてたんですか?」
「うーん。ちょっと待ってくれよ、今何かギャグをひねり出すから……」
「いやダジャレは本当に面白くないんでいいですよ! 長曽祢さんにだけやらせるのは悪いです。わたしが腹踊りでも披露しましょう」
「えっ! あ、いや、やめておけ主、おなごが腹を冷やすものじゃない」
「(えって……)わかりました」
「ちょっと待っててくれ」
「はい……」
「……」
「……」

「……駄洒落をいうのは、だれじゃ」
「……は、ハハ……」
「くっ! 愛想笑いじゃダメか!」
「(愛想笑いだってバレとる! 申し訳ない!)」
「すまない主……」
「な、長曽祢さんは頑張ってくれました! 次はわたしが!」
「だがなあ、今主を守れるのはおれ一人なのに、そうそう大笑いすることなんて……」
「失礼!」
「あ゛あー!? 主!?」
「ごめんなさい! ほら笑ってください! ほらっ」
「やめ、ちょっと待て! 主! あ! 脇腹は!」
「ふふふっ長曽祢さんほら! 我慢しないでいいですよ! こちょこちょくすぐったいですよね!?」
「ぐっ、くふっ、この!」
「わぁっ! あはっ、やー! はははは! 長曽祢さんっやめてー!」
「おれが待てと言っても待たなかったくせに、はぁっ、何を言う!」
「あっははは! やだっ! へへへ、うははははは!」
「ほら主! ここか! ここがくすぐったいか?」
「あっ! あ! や、わ、やーっ、はははははは! も、やだーっ! ごめんなさい長曽祢さぁんゆるして」
「まだだな! あとはどこだ、ここか? ほーらくすぐったいぞ!」
「ヤダ、ふふへへ、あっやだ! やめてぇごめんなさーいっ! もうしませんからぁー!」

「だ……誰かー! 一兄! あ、主様が、主様が、大きい虎徹さんにつぶされて、やめてって!」
「ほう、すぐ行こう。どこですかな」



加州清光@どちらかが相手を本気で怖がらせないと出られない部屋

「こ、怖がらせないと……?」
「怖がらせないとかー。でもこの部屋、虫とかいないしねえ」
「虫!? やめてよ本気で! 加州のその刀、抜いてこっちに向けてくれればそれだけで怖いからそれで……」
「はあ? それこそ本気でやめてよ。俺の主に刀向けろって?」
「ご、ごめん。じゃあどうしようかな……」
「怪談話でもするかー」
「怪談」
「主はなんかある? 俺を本気で怖がらせるようなの」
「……えーとね。むか〜しむかし、あるところに……」
「あ、ストップ。主が話すとなんか怖くないや」
「あれぇー!?」
「じゃー俺ね。うーんと、とある平民の男が市へ行った時の話……」
「市っていえば……あ。ごめん」
「いーよ、どうしたの? もう怖くなった?」
「ハハハ、そ、そんなことないよぉ……。この間ね、堀川くんが言ってたんだ。加州が買い物に行きたがってるって」
「え……」
「しかも、わたしと一緒に。……ほんと?」
「…………」

「……あれ。開いた!」
「……」
「なんで今……あっ、わ、わたし怖がってなんかないんだけどね」
「……」
「本当に! ち、ちょっとしか怖がってないよ……ちょっと……いや、割と……結構……」
「ごめん、主。面倒臭いよね」
「え?」
「一緒に買い物とかウソだから。主は忙しいでしょ。もう言わないから、俺のこと嫌いになら……」
「なんで? 忙しくなんかないよ! 一緒に買い物したことはあったけど、荷物持ちだったもんねえ。重かったでしょ遠征帰還伝書鳩たくさん」
「えっ?」
「ちゃんと出られたし、これからでも行こうか? ウインドウショッピングっていうの? いっつもお世話になってるから、今度はわたしが荷物持ちしますよ」
「え……えっ! そ、そんなん主にさせらんないよ! これから……うわどうしよ、俺畑仕事だったから土が……」
「あ、そっか。じゃあまた今度にしよっか」
「待って! すぐ洗ってくるから行こう! ほんとすぐだから、着替えとかもすぐ終わらせるから!」
「い、いや、内番中なのに抜けちゃ駄目だよ! ペアの骨喰はどうするの!」
「だってっ……でも……!」
「じゃあ明日行こう、加州。わたしも今日頑張って仕事片付けるから」
「本当に? 絶対?」
「うん。絶対。だから今日は内番をがんばろうね!」
「……うん、うん!」



江雪左文字@キスをしないと出られない部屋

「……江雪さん」
「はい」
「……どうしましょう」
「……壁は、この江雪左文字でも傷つけることが叶いませんでした……」
「え〜と」
「貴方が良いと仰るのであれば……」
「うっ、うーん! えっとですね、あの、江雪さんはいいんですか? わたしとその、チュウを」
「ええ」
「いいんだ……」
「……」
「……じゃあ、あの、ほんとこれはノーカンなんで気にしないでくださいね。お、終わったら忘れて下さいね……」
「……貴方がそう言うのなら」
「はい。ではっ、し失礼します。目、閉じてもらっていいですか」
「はい……」
「……」
「……」
「……!」
「……どうしました?」
「は、いえ、こ、心の準備が……」
「私では役不足でしょうか。助けが来るのを待ちますか?」
「……いえ! 皆……心配かけちゃうので! すみませんもう一回!」
「分かりました……」
「……」
「……」
「……!!」
「……できませんか?」
「いやできないわけじゃないんです! もうちょっとなんです、ほんのちょっと! ほんとに!」
「……」
「ご、ごめんなさい。江雪さんが嫌なわけじゃなくて、綺麗すぎて……いや、むしろわたしなんかといいんですか?」
「ええ。嫌ならば嫌だとお伝えします」
「……そ、そうなんですか……なんか、照れます……」
「……主」
「はい!」
「お願いがあります。口を閉じてください」
「……」
「有難うございます。……すみません」
「……むっ」
「……」
「……ふむ、むむ……」
「……」
「……」
「……」
「……だはッ! はぁっ! はぁっ!」
「……開きましたね」
「長いっ! う、い、息が!」
「すみません……背負っていきましょう」
「わ! 江雪さん!」
「主の部屋まででよろしいですか?」
「……は、はい……」
「……後悔していますか」
「え? ま、まさか! ただ、びっくりしたっていうか……」

キスしてる間めちゃくちゃ抱きしめられてたから



宗三左文字@どちらかが相手にコブラツイストをかけないと出られない部屋

「ほっほーう」
「なんですかこれは。こぶらついすと……?」
「ハッ! 宗三さん知らない!? 知らないんですねコブラツイスト!」
「はあ、まあ」
「ふふっ、じゃー仕方ないですね! わたしがかける側ということで!」
「わかりませんが、かけるということはろくでもないことなのだとは思います」
「うっ……いや! あの〜口では説明しづらいので! じゃあここに立ってくださいね」
「……しなければいけないんですか?」
「だ、だって出られませんし……お願いします。痛くしませんから……」
「……で?」
「えっ、えっと、お願いします、わたしにはまだお仕事が……」
「違います。ここに立ったあとはどうすれば?」
「あ、あー! えーっと、ではこうやって足を広げて、中腰になって下さい」
「はい」
「で、ここにわたしが……、ん、お、あ!」
「何なんですか、もう痛いですよ」
「すみません! 宗三さん大きいんですよねー。届かないです」
「じゃあどうするんですか。僕がやりましょうか?」
「いやそれは……。はっ、じゃあ寝っ転がってやりましょう!」
「は?」
「横になれば多少の無茶はききますよ!」
「嫌ですよ、布団もないのに。体を痛めます」
「うぅっお願いします! わたしが下になりますから、宗三さんが床に寝転ばなくてもいいようにしますから!」
「……仕方ないですね」
「やったー!」

「はう、うう、うんん、うぐぐぅ」
「変な声出さないで貰えますか。蛙が潰れたような……」
「だ、だって宗三さん、重い、こんなに細いのに」
「貴方が仰向けに寝ろって言うからでしょう」
「ううう脚がぁ、脚が届かない! もっと身体縮めてください宗三さん!」
「もう無理ですよ。貴方が何とかしてください」
「うううわあああ……うっうっ、どうすればいいんだー……」
「……僕がうつ伏せになったらいけないんですか? 膝と肘を立てれば……ほら、重くないでしょう」
「はぁっ! 重くは、ないんですけど、これじゃコブラツイストが……」
「どうするんですか! さっきからぐだぐだと!」
「ご、ごめんなさい! ああ! なんでわたしを上にするんですか宗三さん!? ぐえっ」
「こぶらついすととはこうですか? それともこうですか!?」
「そ、宗三さん、違う、うぎゅ!」
「ならばこうですか! ほら、どうなんですか!?」
「うう、そ、そうです! そのまま脚をわたしの左脚に乗っけて……うぐー! 分かっちゃいたけど苦しいー!」
「柔い癖に僕を好きにしようなんて、甘いんですよ!」
「うわーんごめんなさいー!」

「長谷部ー、縁側で主と宗三が絡み合ってなんかしてたぞ」
「報告ご苦労、案内しろ、御手杵」



御手杵@どちらかが相手に「嫌い」と言わないと出られない部屋

「主、きら」
「あーーっとちょっと待ってね! 心の準備なしに言われたら傷付くからね!」
「えぇ? もう夕餉の時間だから早く戻りたいんだがなあ」
「わたしの心よりも飯が大事か……だがそこが可愛いぜ……分かった! わたしが言う側にしよう!」
「えー」
「なんで渋るんだよ! さっきサラーっと言おうとしてたじゃん! 一言言われるくらい我慢してよ嘘だから!」
「ああ、うん……まあ別にいいんだけどよ、あれ? 俺なんで嫌がったんだろうな……」
「よし、じゃあ、いくよ。先に言っとくけど嘘だからね、本心じゃないから。大好きだよ御手杵」
「ああ、分かった」

「……嫌い」
「……」
「開いたっ! やったーっ仕事片付かなくて兼さん(本日の近侍)に怒られるとこだったよ!」
「……」
「よっし戻ろう御手杵、君はなんかやる事あったっけ?」
「なんか、やっぱり嫌だ」
「うん?」
「なんでだろうな……なあ、好きって言ってくれよ」
「え? なんで?」
「いいからさ」
「えぇ、いざそう言われると恥ずかしいなあ……。……好きだよ」
「もっと」
「もっと!? えー……す、好きだよ。うん、本丸の皆は常に大好き! 嘘じゃないよ! やらせ無し!」
「もっと」
「もっと!? 好き好き好き好き好きっ好き! いっきゅうーさーん!」
「真面目に言ってくれよ」
「真面目に言ってられるかー! 恥ずかしくて死ぬわ! どうしたのそんな!」
「俺にもわかんねーんだよ。なんだこれ?」
「わたしに聞くなー!」



鶯丸@恋人つなぎしないと出られない部屋

「そ、そういうことなのですが……」
「うん? 恋人つなぎとはなんだ?」
「えっとね、右手と左手で手をつなぐでしょ。それをねこうやって、指もぎゅってして、つなぐやつのことね」
「はは、声音が童のようだ。疲れているのか?」
「え、こ、子供みたいってこと? 疲れてるっていうか仕事がね……審神者にも色々あるんだよね……」
「いいじゃないか、どうせこんな所なら寝てしまえば。そのうち誰かが気付くだろう」
「そういうわけにもいかないよ。今日中に終わらせたいから……」
「まだ日も沈まないうちから明日の心配か。忙しないな」
「あなたがのんびりしすぎなの! ……じゃあ、いいかな」
「ああ」
「……ごめん、手汗拭く」
「うん」
「……じ、じゃ、私が右手で、鶯丸が左手ね」
「こちらだな」
「なんか……ち、近い……」
「うん? まあ、恋人というならこれくらいでなければな」
「恋人つなぎってただの名前だから! 手以外もそんな風にすることないから!」
「ほら、動くな」
「う〜ん……」
「……うん、悪くないな」
「あ、開いた……」
「こちらに」
「わっ、なに? なんで寝かすの? ……重くない?」
「ああ、たまには膝枕もいいだろう」
「手、もう放していいよ」
「こうしたままでいいならこのままでいよう」
「…………」

「主君ー! どこですか……あっ!」
「しーっ」
「……お休みですか?」
「ああ。秋田、毛布を持ってきてくれないか」
「分かりましたっ」
「それと、主に用なら後にしてくれと皆に伝えて欲しい」
「はい!」
「すまないな」



和泉守兼定@どちらかが媚薬を飲まないと出られない部屋

「媚薬」
「これの事か?」
「す、すごい……なんていうか、それっぽい色をしている……」
「……見たことあんのかよ」
「ないよ! 引かないでお願い!」
「……つーことは何か、これを飲んだらマズいんだよな」
「まあ、まずいけど……どっちかが飲まないと出られないし……」
「オレは嫌だぜ」
「わたしもいやだよ! なんだかよく分からない薬なんて飲みたくないもの」
「媚薬だろ……」
「それは分かってるけどね!? あとから病気になったり、麻薬みたいにこれなしじゃいられなくなったりしたら怖いし……」
「……そうか。まあ、そうだな。仕方ねえ……オレが飲む」
「えっ! さっき嫌だって……」
「オレは刀だが、あんたは人間だろ。オレのほうがまだ何とかなる」
「な、ならなくない!? 兼さんの身体は人間だし!」
「手入れは頼んだってことだよ! いくぞ!」
「は! はいっ!」
「……!」
「……!」
「……」
「……どう? 大丈夫?」
「……いや、なんともない」
「扉は開いたし……今のうちに吐いちゃう?」
「それで閉まってゲロ啜れって言われるのは勘弁だな……」
「トイレ行こうか……ありがとうね兼さん、今度秘密のお菓子をあげようね」
「……」
「兼さん?」
「……ちょっと、話しかけんな」
「え? まずい? 気分悪い?」
「あんた、出てろ……」
「え! えっ、ま、また閉まっちゃったらどうするの? もしかして薬の効果出た!?」
「……」
「ううっ、でも一人で残るのはまずいよ。肩貸すから一緒に行こうよ……」
「うるっせえ、行けって言ってんだろ……」
「やだよ……どうしよう……」
「…………分かった、あっち向いて耳塞いで、目も閉じてじっとしてろ。こっち見んなよ。絶対だぞ」
「わ、分かった!」

言われた通りにしていたのでどれ位時間が経ったかは分からなかったけれど、鼻をすするような音が聞こえたので「兼さん?」と呼びかけて、返事がないので振り向いた。もう出ねえのにあちい、と顔を真っ赤にして泣いている兼さんにときめいてしまって、半ばおぶるように部屋まで送った。布団を敷いたら押し倒され、一晩中抱き締められていた。
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