17 小夏に取られた [ 49/50 ]

研修旅行を終えた俺を迎えに来てくれた母親が運転する車には、小夏も乗っていた。


「まおくん!!!」

「あ、小夏ちゃん久しぶり。」


車の中から小夏は、パッと嬉しそうな顔をして俺と一緒に迎えの車が来るのを待ってくれていた真桜に手を振る。……兄には振ってくれないのか。

せっかくだから家まで乗っていけ、と真桜を車に乗せると、小夏はにこにこしながら真桜の方を向きっぱなしだ。


「はい、小夏ちゃんお土産。」

「わぁ!いいのぉ!?」


真桜が小夏用に買ってくれた沖縄限定のお菓子の箱を差し出すと、小夏は嬉しそうに笑顔でお土産を受け取る。


「小夏よかったね〜、真桜くんにお礼は?」

「まおくんありがとう!!」


母親に言われて真桜にお礼を言う小夏に、真桜はにこにこ笑って頷いてくれた。真桜がそんな顔をするから、小夏はもうこの歳で真桜に惚れちゃうんじゃないかってちょっと心配になる。

小夏が大きくなった時、妹と真桜を取り合うことになる展開だけは勘弁してほしい。


真桜の家は学校から近いから、残念ながら真桜はすぐに車から降り、小夏は残念そうにしている。外から手を振ってくれている真桜に、小夏は真桜の姿が見えなくなるまでフリフリと手を振っていた。


園児にまでモテモテだなぁ。と、自分のちっさい妹までデレデレにさせる真桜の姿を眺めてクスリと笑いながら、俺も車の中から真桜に手を振った。


家に帰ると俺も小夏用に買ったお菓子やキャラクターもののご当地グッズのお土産を渡してやったのに、真桜が俺に買ってくれたジンベイザメのぬいぐるみキーホルダーを羨ましそうに手に持っている。


失敗したな、こういうお土産の方が良かったか。と水族館で何かぬいぐるみ系を買えば良かったなと後悔しながら小夏の手からぬいぐるみキーホルダーを奪い取った。


「これはダメだぞ、俺のだから。」


そう言って、すぐに自分の部屋に持っていこうとしたが、小夏は分かりやすくムッと拗ねた顔をする。


機嫌を損なわせるのも面倒なので、片付けようとしていたぬいぐるみキーホルダーをもう一度小夏に差し出すと、その後小夏は寝る時までずっと持ったままだった。


夜の10時を過ぎた頃、ジンベイザメのぬいぐるみキーホルダーを持ったまま眠っている小夏の写真と一緒に真桜に【 小夏に取られた 】ってラインを送ったら、真桜から【 かわいい 】と返事がくる。


続けて【 またどっかの水族館行ってその時小夏ちゃん用買ってあげよう 】って言ってくれたから、それまでこのジンベイザメは小夏に譲ってあげようと思う。

それに、どうせすぐ飽きるだろうし。


…って、予想していた通り、数日後には部屋にころんと転がっているジンベイザメを見つけた時、俺はそっと自分の部屋に持っていった。


大事なものだから、もう小夏に持ってかれないようにしまっとこう。


小夏に取られた おわり


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