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美ら海水族館に到着し、自由行動が許可されると、女子二人で行動を始める子が居たり、男子数名で連んで行動する奴らも多い中、どう見てもカップルな男女二人で手を繋いでいる人たちも居る。

『あの二人そうだったのか…』なんて密かに驚きの感情が沸きながら、俺は真桜と合流する。

俺たちも人のこと言えないな。と気恥ずかしい気持ちになりながら、真桜との距離を少しだけ空けて水族館の入り口を通過した。


しかし真桜はすぐに俺との距離を縮めてきて、俺のTシャツの袖を引っ張りながら歩く。


「柚瑠、俺ジンベイザメが見たい。」

「あとで通るだろ。順番に見ていけよ。」

「あとチンチンアナゴも。」

「おい、いきなり下ネタぶっこむのやめろ。」


下ネタのつもりで言ってるのかは知らんが真桜のいきなりのチンチンアナゴ発言に吹き出してしまった。「え?」って、何で俺が笑ってるのか分からないようなキョトンとした顔を向けられ、普段下ネタを言う奴でもないから多分深い意味も無く適当に言ったんだろうなぁと笑うのをやめる。


何個も水槽が並んでいる薄暗い空間にも関わらず、真桜の存在に気付いて「あっ高野くんだ」とヒソヒソと話す女子の声が聞こえてきて、その瞬間俺はまたサッと真桜と距離を取った。

昨日凪に『堂々とイチャついてた』と言われてしまったから、警戒心が強くなっていたのだろう。


それもまた逆効果で、距離を取ってしまった俺に真桜は「柚瑠!」と呼びかけてきて、手首を掴まれてしまった。


「柚瑠なんでそんなに離れんの。」

「…え?…あぁ、ごめん。この魚見てた。」


ちょこちょこと小さな魚が水槽の中で泳いでいる。そんな魚にはまったく興味無かったけど、真桜は俺の手首を掴んだまま一緒に水槽の中を覗き込んできた。


ギュッと強い力で掴まれており、暫くは離してもらえなさそうだ。


「あの魚可愛い、写真撮ろ。」


そう言って真桜がポケットからスマホを取り出した時、ようやく手を離してもらえた。


「柚瑠も写って。」

「は?やだよ。魚単体で撮れよ。」


写真を拒否ると、怒ったようにぷくりと頬を膨らまされてしまった。ああもうなんだよその顔、かわいいな。


「あーごめんごめん、分かったから。すぐ撮れよ?」


そう言いながら水槽の前に立ちピースをすると、真桜はにこっと笑ってスマホで写真を撮った。嬉しそうに撮った写真を確認している真桜を横目にクスッと笑う。

あーあ、真桜に流されてしまうなぁ。

イチャついてるように見える、なんて言われてしまう原因は絶対に真桜だ。俺がいくら気をつけようと思っても真桜が普通に俺に手を出してくるのが悪い。


「あとで二人の写真も撮りたいな。タケに会ったら撮ってもらお。」


ポケットにスマホを戻しながらそう言って、また真桜は俺のシャツの袖を掴んでくるから、シャツの袖くらいならいいか。ともう諦めて真桜に掴まれたままでいた。


「あっ、柚瑠だ。」


広い水槽が広がっている空間で上を見上げてゆらゆらと泳いでいる魚を見ていたら、クスッと笑われているような声が背後から聞こえてきた。

振り向けばそこにいたのは良平で、タカや他のバスケ部の友人たちも一緒にいる。

何笑ってんだ、と少し顰めっ面になれば、「お前らデートみたいだな。」と良平は俺たちをおちょくってきた。

冗談で言ってるんだってのは分かるけど、二人で仲良くしてたらやっぱそういうこと言われるよなぁ…ともう開き直って「おうデートデート。」って返した。

でもその後の良平は俺の返事なんてまったく興味なさそうに「つーかバレー部の山下さんテニス部の奴と付き合ってたの知ってた?」とまったく興味ない話を俺に振ってきた。知らんわ。テニス部の奴って誰だよ。


「知らん。」って返事したら、「さっきその二人がそこ歩いてた。あーあ、山下さん可愛いと思ってたのに。」って、良平はちょっと残念そうにしている。


『デートみたい』とか言いながら、俺と真桜、男のことなんて、良平はどうでもいいのかもしれない。そう思ったらなんとなく気が楽になり、笑いながら「ドンマイ。」って返したら「別に好きだったとかではないぞ。」って勝手に否定してくる良平。


あっそう。としか思えなくて、「じゃあ俺らそっちの部屋のジンベイザメ見てくるわ。」って話を逸らしたら、「おう、行ってらー。」と良平はひらりと手を振ってタカたちとようやく水槽の中を見始めたのだった。


真桜と二人で居ても案外普通な良平の態度に気を良くした俺は、「デートみたいだってさ。」って真桜に話しかけると、真桜は「みたいじゃなくてデートだよ。」って小声で言いながら笑っていた。

傍から見たら、もしやこれもイチャついてるように見られてしまうのかもしれない。参ったなぁ。



水族館内を一通り見て回ると、最後にお土産売り場に辿り着いた。


「あっジンベイザメ!」と真桜はジンベイザメのでっかいぬいぐるみを欲しそうに眺めている。

お前そんなぬいぐるみなんて好きなキャラだったか?と真桜のことを見ていたら、真桜は「柚瑠と一緒に来た記念に買いたい。」とぬいぐるみを抱え始めてしまった。


「さすがにそれはでかすぎだろ。」

「柚瑠だと思って抱き枕にしたい。」

「は?俺ジンベイザメなの?」

「ジンベイザメが一番好きだから。」

「俺結構遊びに行ってやってるだろ?その抱き枕必要ある?」


そう言いながら真桜の手からぬいぐるみを取り上げたら、「じゃあこっちにしとく。」と手のひらに収まるくらいのサイズのぬいぐるみキーホルダーを手に取った。


「可愛いな。俺も買おうかな。」


別に俺はジンベイザメが好きというわけでも無いけど、確かに真桜と来た記念になる物が何かひとつ欲しいなと思った。


手にとってそのキーホルダーを見ていたら、「買ってくる。」と真桜の手が伸びてきた。さっさとキーホルダーを二つ持ってレジにいってしまい、俺はポツンと一人売り場に残され、お金を支払っている真桜を眺める。


戻ってきた真桜は、「はい、俺だと思って大事にしてね。」と袋に入ったキーホルダーを差し出してきた。


「おお、ありがとう。大事にするけど。…こっち可愛がっちゃっていいのか?」

「ううん、俺のいない時だけ。」


お土産売り場でそんなバカみたいな会話をしながら、真桜から貰ったキーホルダーを大事に鞄の中にしまった。


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