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真桜が思わぬ行動を取ったことにより、海釣りどころではなくなってしまった。

「はぁ〜。」とため息を吐きながら、とりあえずズボンが濡れてしまったトモと凪と共に浅瀬から引き上げてくる。

トモがギュッとズボンの裾を絞ると、バチャバチャと水が砂浜に落ちた。これはもうパンツまで滲みているだろうな。


「お前まじでびっくりするわ…。」

「だってこいつが変な目で見てくるから…。」


ムッとした顔をして凪を指差す真桜に、凪はギクッとしたように変な顔をする。笑えるから変な顔をするな。


「だからってキスするか普通。」

「だってこいつゆずまおって思ってんだもん…。」


ムッと唇を尖らせて『だってだって、こいつがこいつが、』って凪を指差す真桜は、母親に怒られて言い訳をする小夏みたいだ。


「もー知らねえよ、なんなんだよそのゆずまおってのは…。」


まったく隠す気が無い真桜の言動には、もうだんだん呆れて諦めの気持ちが芽生えてきた。


ギュッ、ギュッ、とズボンを絞っているトモは、静かに俺たちの方を見上げながら会話を聞いている。…俺たちのことをどう思っているんだろうなぁ。


「高野くんさっき自分でまおゆずって言ったけどそれが公式ってことでオーケイ!?」


ズボンが濡れてもまったく気にせず、風で乾かすようにフリフリと腰を揺らしながら凪が真桜に問いかけた。お前もう黙っててくれないか。

真桜が変なこと言わないように目で訴えるが、俺の願いは叶わず真桜はコクリと頷いてしまった。


「わぁ!まじか!!!!!」

「…あーもう終わった。」

「ここが私のユートピア。」


頭を抱えて蹲った俺の頭上で、凪がステップを踏みながら踊っている。そして屈んで俺の耳元で「柚瑠はどーなの」と囁いてきた。


まさか研修旅行先でこんなことになるなんて。

今まで必死に隠してきたけど、どこかで『もう別にバレてもいい』って吹っ切れた態度は取ってしまっていたのかもしれない。


チラリと顔を上げて凪を見ると、凪は「ん?」と気持ち悪いくらいににっこりと笑って俺を見てくる。


「…あのさ、ちょっと真面目に話すけど、」

「うん。」

「俺冷やかされるのとかまじで嫌なんだよ。」


ああもういいや…と俺は諦めて凪に話すことにした。


「お前は想像で楽しんでたんだと思うんだけどさ、」

「…うん。」

「俺真桜のこと、ほんとに好きだから…。」


俺がそう口にした瞬間に、凪はニタニタと笑っていた顔をすぐにサッと引き締めた。


「…だから、…あんまり俺らで遊ぶのとかやめてほしい。」


俺の言葉に、凪はサッと俺から目を逸らすように下を向いた。


「………ごめん。」


その謝罪は、凪の心からの謝罪のように思える。別に俺は反省してほしいとか、申し訳ないとかを思って欲しかったわけではないから、すぐ「ううん」と首を振る。ただ、軽率に発言するのをやめて欲しかった。


「俺周りにバレるの結構恐れてるから。」

「あれだけ堂々とイチャついといて…?」

「…それは、…まあ、うん。無意識に。」


ヒソヒソ声で話していた凪との会話だったが、チラッとトモの方を見たら神妙な顔をしていたから、トモにも聞かれていたかもしれない。

真桜も静かに俺の隣に立っていて、海の方からはわいわいとはしゃぐ声が聞こえてくる中、俺たち4人の間には静かな空気が流れていた。


「…誰にも言わないから安心してね。」

「うん。助かる。」

「でもたまに話聞かせてくれると嬉しいな。」


凪のその言葉に、チラッと凪と目を合わせたら、凪はせっかく真面目な顔をしていたのにまたへらっとニヤけた顔をし始めてしまった。


「気が向いたらな。」と返事をしながら、話は終わりだというように立ち上がった。


そこで真桜と目が合い、ペシンと真桜の頭を叩く。お前の言動の所為で凪に話す羽目になったんだ、と言いたげに。


「いてっ」と頭を押さえる真桜を見ながら、そこで暫く黙っていたトモがおずおずと口を挟んできた。


「…あんま話よく分かってないんだけど、高野くんってつまり柚瑠のことが好きなの?」


トモからのその問いかけに、真桜は「うん。」と頷いた。


「大好き。」

「………………まじか。」


真桜の返事を聞いたトモはその返事がショックだったのか、ムンクの叫びのように両頬を手で押さえていた。


「お前何ちょっとショック受けてるんだよ。」

「だってぇ…好きだったんだもぉん…。」


本気だったのか、残念そうなトモの声に俺は返す言葉を失う。なんかごめん…って気持ちで苦笑していたら、トモは俺にジトリとした目を向けて、「柚瑠わっるい男だなぁ。」と言ってきた。


「はっ?なんでだよ!」

「い〜や?べつに?こっちの話。」


途端にトモはツンとした態度で俺からそっぽ向いた。

「なんなんだよ!」と問い詰めるが、トモは俺の顔を見て「は〜。」とわざとらしくため息を吐いてくるのだった。

なんなんだよその態度は。


結局トモのその態度の理由はよくわからないまま、俺たちは全然釣りをすることもなく、時間だけが過ぎていった。


研修旅行2日目 体験学習 おわり


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