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隠れ腐男子高野真桜。彼は、姉から学んだ知識のおかげで“ゆずまお”と“まおゆず”に大きな違いがあることを知っていた。


『うわっ!私〇〇△△派なんだけど△△〇〇過激派のフォロワーに知られてブロックされちゃった!うぇ〜っ、まじ過激〜。』


スマホ片手になにやら騒いでいた姉は、意味が分からないことを言っており真桜は首を傾げた。


『楓ちゃん何言ってんの?〇〇△△とか△△〇〇とか意味不明なんだけど。なにその違い。』

『先に来る方が攻めで後ろが受けなんだよ。』

『先に来る方がせめ…?なんの話し?』


この頃は、まだBL漫画を数冊読んだことがあるだけだったピュアな真桜。しかしクソ姉楓は、例え話に真桜本人たちを持ち出し、説明を始めてしまったのである。


『だからね、例えば真桜くんが七宮くんにアプローチしてる状況で考えると真桜くんは攻めってことになるのね?この場合まおゆずって言ったりするんだけど、逆に七宮くんの方から真桜くんを押し倒したり迫ったりしたとなると今度はゆずまおってことになるの!』


『……ふぅん、それって楓ちゃんが勝手に決めた決まり?』

『違うよ!!全国共通だよ!!知っとかないと痛い目合うよ!!』


楓がそう大袈裟に話してくるから、真桜はそのあとしっかりネットで調べてみた。そして真桜は、“右固定”などというわけのわからない言葉まで目にした。


『…は?よく分かんねえ、固定ってなに?固定してどうすんの?』


何度も問題にぶち当たりながら学び、最終的に真桜の中で自分の嗜好に辿り着くことができた。


『じゃあ俺の場合は柚瑠右固定ってことだな。』


可愛い可愛い真桜だけの受け。
これは、真桜の中で絶対的になるのだった。





あいつは、昨日のバスパン女だ。

またわけのわからないことを言って俺と柚瑠の時間を邪魔されたらたまらない。


「柚瑠あっち行こ。」


俺は柚瑠の手に手を伸ばして浅瀬を歩き出そうとした。しかし俺の手はすぐにサッと避けられてしまった。


「ちょっ、待てって真桜、あいつ居る時そういうことするのまずい。」


柚瑠はそう言って俺から距離を取り、タケや吉川が居る方へ歩み寄っていってしまった。そこには、あのバスパン女もいる。

俺は気に食わないそいつを睨みつけながら歩いた。

すぐにバスパン女は俺の視線に気付いたようで、「やば、高野くん怒らせちゃったかな?」と焦っている。


「そりゃそうでしょ…!本人たちに気付かれるのはダメだって…!謝った方がいいよ!!」


もう一人そいつと一緒にいた柚瑠とも仲が良い女バスの子がコソコソと喋っている。

柚瑠がそいつの近くまで来ると、「お前なぁ、いい加減にしろよ。」と言ってコツンと優しくそいつの頭をグーで叩いた。


「二人ともごめんなさい…、あまりに二人がラブラブに見えたから気持ちが暴走しちゃって…。」

「……はぁ?お前の目どうなってんの?」


柚瑠はさっきまで怒ってたけど、バスパン女のその一言にクスッと笑い、おちょくるようにそう口にする。


「もう私末期なのかも…まじで二人がいちゃついてるようにしか見えないんだよね…。もう公式で良くない?」

「…ふ、…公式てお前……。」


核心を突くようなそいつの発言に、柚瑠が動揺を誤魔化すように笑った。


「…高野くんもごめんね。もう私暫く黙るから。」

「うんそうして。」


謝られたけど、そっぽ向きながら素っ気ない態度で返せば、柚瑠は苦笑いする。


「お前のその認識間違ってるし。」

「………え?」


続けてバスパン女を睨みつけながら言うと、すぐに柚瑠はギョッと焦った顔になる。悪いけど俺は、“ゆずまお”と思われたまま終わらせたくはなかったのである。


俺の方が、柚瑠が俺を好きでいてくれる気持ちよりずっと、柚瑠のことを好きで好きで、大好きでたまらない。両想いの今でも、もっともっと好きになってもらいたい。そんな気持ちをこの女に見せつけるように、俺はガッと柚瑠の肩を抱く。


その瞬間、バスパン女の隣にいた女バスの子までギョッとした顔をして俺を見上げてきた。


「ちょっ真桜!なにをっ…!」


焦ったように柚瑠が赤い顔をして俺から距離を取ろうとしていると、分かりやすくバスパン女の視線がサッと柚瑠へ向けられた。


ポカンと口を開けて間抜けな面をしていたそいつに、俺はもうバレてもいいやという思いで柚瑠の頬にチュッと唇を寄せる。


「ヒッ…!」


すると目の前の女子二人は、息を呑むような反応を見せた。

両手を口に当てて目を見開いて驚いている女バスの子と、表情が固まって動かなくなったバスパン女。


柚瑠は真っ赤な顔で、俺を横目で睨みつけてきた。

ごめん、許して柚瑠。

俺の片想いってことでいいから。
俺もう柚瑠への気持ち周りに隠せない。


「勘違いしてそうだから言うけど、ゆずまおじゃなくてまおゆずだし。」


きっぱりと俺はバスパン女の目を見て言い切ってやると、バズパン女はへなへなと身体が崩れていき、パチャッと浅瀬に尻をついた。


「あっ凪!パンツ濡れる!!!」


慌てて女バスの子がバスパン女を引き上げるが、すでにそいつの下半身はビチョビチョだ。


「うわあっ!!!!!」


そして力が抜けきったようなだらんとしているバスパン女の重みで、女バスの子まで尻から浅瀬に浸かってしまった。


「ちょっ!最悪なんだけど!!!」

「…はぁ。もー、お前ら何やってるんだよ。」


そこで柚瑠が呆れたようにクスッと笑みを見せる。

手を差し出して、女バスの子を引っぱってあげている優しい柚瑠。そんな柚瑠のことをジッと見つめていたら、いまだに浅瀬に尻を浸けたままだったバスパン女が俺を見上げてポツリと呟いた。


「……なるほどね。」

「いやお前も早く立てよ!!!」


そしてその後、すぐに柚瑠がグイッと強引にバスパン女を浅瀬から引き上げたのだった。


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