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朝食を食べた後にはもう体験学習の場へ移動するため、移動のバスが停まっている付近で集合させられた。


俺たちのクラスは前半にシーサー作りをする予定になっているらしく、シーサー作りを選んだ班の人たちが乗るバスへ案内される。


バスに乗り込んだら、奥の方の席に柚瑠が座っている姿を見つけた。ただ同じバスなだけなのに嬉しい。

けれど柚瑠は俺に気付くことは無く、隣に座っている男子と喋っている。


「あ!真桜く〜ん!!」


窓際の席に座ったタカの隣に座ろうとしていた時、俺に気付いた吉川が大声で名を呼んでくれた。その声でふと柚瑠の顔が上を向き、「あっ」と声を出しながら俺を見る。

柚瑠はこっちを見てにこりと笑ってくれて、柚瑠と吉川、二人に向けて俺はひらりと手を振った。


「高野良かったな。」

「うん。」


こそっとタカがそう話してくる。

「絶対この気温でマリンスポーツしたら気持ち良かっただろうに。」という皮肉付きで。いちいち俺に言わないで欲しい。


「やっば!今日暑くない!?」と俺の前の席で上着を脱いでいる白石にも、「ほれみろ!だから沖縄は暑いっつっただろーが!!」とタカは噛み付き始めた。


「うるさいなぁ!!マリンスポーツできなかったのそんなに根に持ってるの〜?」

「おう、根に持ってる!あ〜海入りたかった〜!クッソ〜!!!」

「じゃあ午後の海釣りで入ってれば〜?」

「釣りやってる奴らの横で俺だけ泳いでたらおかしいだろ!!」


タカと白石のうるさい言い合いに、後ろから「あいつ何騒いでんの?」と柚瑠が笑っている声が聞こえてきた。いくら周りが騒がしくても、柚瑠の声を聞き取るのは得意だ。


柚瑠がそこに居るだけで昨日よりわくわくする気持ちが高まる。

シーサー作りを選択した生徒たちがバスに乗り込んだのを確認すると、俺たちを乗せたバスはシーサー作りができる施設へと向かった。



そこの施設では、班ごとに固まってテーブルに座らなければいけなかったため、残念ながら俺と柚瑠の席は随分離れてしまった。


柚瑠はタケともう一人の男子に挟まれて座っており、柚瑠の斜め前には美亜ちゃんが座っている。あの子が柚瑠の近くにいるのを見るとどうも敏感になってしまう。

班の人たち6人で仲良く喋っている光景に俺は嫉妬してしまいそうで、もう柚瑠の方を見るのはやめてその後は真面目にシーサー作りに取り組むことにした。


「えっあんた怪獣作ってんの?」

「はっ?どう見ても怪獣じゃねえだろ!」

「いや、どう見たってシーサーじゃないでしょ!」

「いやいや、どう見てもシーサーだろ!!そういうお前はどうなんだよ!」


不器用に手を動かしてあーだこーだ言いながら作られていくタカのシーサーは、とてもシーサーとは言えない代物だ。そんなおかしなシーサーに対して白石に突っ込みを入れられてしまったことから、またもや二人の言い合いが始まった。この二人はとてつもなく相性が悪いようだ。


「なんだよそれ可愛いな!!」

「え、ありがとう。」

「褒めてねえから!!!」


いや、それは褒めてるだろ。

白石のシーサーを『可愛い」と言ったあと、タカは「シーサーってのはもっといかついもんだろ!」と自分のシーサーの牙を付け足していた。牙は2本で十分なのに、タカのシーサーの牙は6本くらい生えている。怪獣というより化け物だ。


俺は上手くもなく、かと言ってタカほど下手でもない普通のシーサーが出来上がってきたところでチラッと柚瑠の方を見ると、柚瑠は一生懸命シーサーを作っていた。


「七宮のシーサーやばくない?超下手くそなんだけど。」

「下手くそ言うな、お前失礼だな。」

「七宮って絵も下手だもんね。あと字も。」

「うるせえな!ほっとけ!!」


柚瑠のシーサーはどんなのだろう。吉川にはなんかボロクソ言われてるけど、俺は自分の作ったやつよりどんなものでも柚瑠の作ったやつの方が欲しくなった。

交換しよ、なんて図々しいお願いはできねえけど。ちょっとだけそんなお願いをすることを考えてしまった。


それから2時間程度でシーサー作りは終了し、またもやバスに乗って次は昼食を食べられる施設まで移動となる。


早くも研修旅行2日目の午前が終わっていく。


柚瑠が近くにいるのにほとんど別行動なので、もどかしい気持ちになってしまった。


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