6 ポンコツ真桜 [ 38/50 ]

「俺高野と同じ部屋なのドキドキするんだけど。」

「分かる。なんかちょっと怖くね…?」

「うん、性格とかあんま知らないしな。」


同じクラスの男子からは密かに敬遠されがちな高野真桜。

初日の夜のレクリエーション中、ホテルで俺と高野と同じ部屋の男子たちが高野がトイレに行っている隙にコソコソとそんな話をしている声が聞こえてきてしまった。

俺は咄嗟に「高野大人しいだけだから話しかけてやった方が案外喋る。」と柚瑠みたいに高野を庇うような言葉を挟んだ。


「まじ?無口なのかと思った。」

「俺も。」


無口と大人しいの違いがいまいちよく分かんねえけど、同じ部屋の男子は俺の言葉にちょっとホッとしている。

数分後にトイレから戻ってきた高野が静かに俺の隣に座ると、「これいつ終わんの?」とクラスでクイズ大会が行われている方を眺めながらかったるそうな態度で俺に聞いてくる。

その声が聞こえていたようで、俺たちと同じ部屋の男子たちは顔を引き攣らせた。

…いや、違う、大人しいだけなんだって。ほんとに。ただちょっと、俺に話しかけてくる態度がいつも結構キツめな感じだから怖そうに思われてるんだと思う。


「高野くんも次参加してきなさい。」

「え、嫌。」

「班ごとに一人一回は絶対なの!!!」


ベシッと高野の背中を叩きながらクイズ大会が行われている前方へ促すと、高野は本気で嫌そうな顔をしながら渋々歩いて行った。


「那覇市の“なは”を漢字で書いてください!」


クイズを出題するクラスメイトの声と同時に、前に出ていた6人が紙に答えを書く。高野はめんどくさそうに、でも悩むこともなくサラサラと文字を書いていた。


頭が悪い男子は“奈破”なんてあほな回答をしていたり、那覇の那だけは書けたりする人もいる中、正解していたのは高野と女子一人だけだった。

その後も高野はクイズに正解し、「高野くんすごーい!」と女子にチヤホヤされている。

3問ほどクイズに参加したあとようやく次の人とチェンジになり、『やっと終わった。』というような顔をしながら高野はこっちに戻ってきた。

もう結構分かるんだよなぁ、こいつの考えてること。分かりやすいんだよ、まじで。

再び俺の横に腰を下ろした高野は、グリグリと目を擦って欠伸をした。…あ、眠いんだな。朝早かったもんな。『かわいいなぁ』……とか柚瑠ならここで思うんだろうなぁ。

だが俺からしたらその眠そうなイケメン顔はただただ憎たらしいだけなので、グイッと頬をつねって引っ張ったら高野の目はパチリと開き、不機嫌そうに俺を睨み付けてきたのだった。


レクリエーションが終わって各々の部屋へ戻ろうとしていると、通路で誰かを待っているかのように他のクラスの女子が二人立っていた。


「あっ…あの、高野くん…!」


待っていたのはやっぱりというか、予想できたというか、高野だった。もう一人の子は付き添いのようで、『頑張れ!』と小声で口にする。

しかし名前を呼ばれた高野くん、もう頗るおねむのようで、目をグリグリと擦りながら「ん?」と不機嫌そうな顔を女子に向けた。その顔はさすがにやめろよ。


「…あっ…えっと…いきなりごめんなさい、…ラインを教えてほしくて…。」


告白かと思ったが、連絡先交換のお願いだった。

高野はすぐに反応せず、ほんの僅か沈黙の時間が訪れる。


高野が何て返事をするのか口を開くのを待っていたら、頭だけ軽く下に動かして、「ごめん」と一言だけ言ってから、のろのろと歩き始めた。

俺はチラリと女子の様子を窺うと、残念そうにがっくりと肩を落としており、連れの子に励まされている。残念だよな。ドンマイ、としか言えん。


さすがモテ男。告白も旅行中何人かにされるんじゃねえの?と、俺は傍観する気満々で高野の後を追った。


部屋に戻ると、高野はゴロンと畳の上に寝転んだ。

もうすでに布団を敷き始めようとしている同じ部屋の男子が一斉に高野に目を向ける。


「高野も布団敷けよ。」


そう声を掛けるが高野からは返事が無く、顔を覗き込むと高野の目は閉じていた。いや布団敷いてから寝ろよ!!!


「高野布団敷けー!!!」


高野のケツを蹴りながら怒鳴ると、高野は「ん〜」とめんどくさそうな声を出しながらむくりと起き上がった。


「タケ敷いて〜。」

「は?タケじゃねえよ、寝惚けてんのか。」


……こいつ。育った環境がバレバレだ。


【 タケ布団敷いてって言ってるぞ。】


高野に困らされている腹いせに、柚瑠とタケと高野のグループトークに高野が畳の上に座って眠そうにしている写真を貼り付けてやった。


【 は? 】とタケから不思議そうなラインが返ってきたと思ったら、数分後に柚瑠とタケが俺たちの部屋に顔を出した。部屋の階が違うのにわざわざ来てくれたようだ。

その頃、高野は畳の上で胡座をかいでうつらうつらとしながら頭を揺らしている。

同じ部屋の男子たちも、そんな間抜けな高野の姿にはちょっと笑っていた。


「真桜〜起きろ〜。」


タケが呼びかけると、高野の目がふっとゆっくり開かれる。でもまだ半目で、次に柚瑠が「おーい真桜?ちゃんと布団敷いてから寝ろよ。」と言った瞬間に高野は見事、ハッと目を開けて覚醒した。

そしてアタフタと髪を触ったり顔をパシパシと叩いたりしている。


「あれっ柚瑠だ、あれっ?今何してたんだっけ?」


完全に寝惚けている。

そんな高野は柚瑠にクスクスと笑われ、タケはおかんのように「はいはい、布団敷いてやるからそこどけよ。」と高野をシッシと手で払った。


恥ずかしそうにその場から立ち上がって狼狽えている高野の姿を見て、同じ部屋の男子たちまでクスクスと笑っていた。


恐らく、旅行が終わる頃にはもう彼らは気付いているだろう。


『あれ?高野ってもしかして、ポンコツ?』

ってな。


ポンコツ真桜 おわり


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