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「あーもう凪ちゃん最高なんだけど、ほんとにウケる。」
「え〜、そう?吉川さんに言われると照れるなぁ。」
「星菜ちゃんって言うんだよ、可愛いでしょ。さっきから呼ばせてもらってる。」
「星菜ちゃん?可愛い!私も呼んでいー?」
「いいよ〜呼んで呼んで〜!」
珍しく吉川が女子と親交を深めている。去年のあいつからは想像もできなかった光景で、真桜と「吉川女子の友達できてよかったな。」って砂浜に腰を下ろしてサラサラと砂を触りながら話していると、健弘も俺たちの会話に加わってきた。
「それはそうとあいつなんなんだよ、凪。」
「凪がどうした?」
「俺と真桜で変な妄想してるらしい。」
凪への不満を口にすると、今度はタカが会話に加わる。健弘も「あの子えぐいな、お前らのこと気付いてんの?」って疑問を口にしてきた。
「いや、知らん。気付かれてんのかな?」
「さっき『海より真桜の方が綺麗だぜ。』ってアテレコしてたぞ。」
「はっ!?俺んなこと言わねえわ!!!」
健弘から聞いた話に、タカが「ぶっ!!」と吹き出し、真桜まで口に手を当ててクスッと笑った。
あらぬ事を勝手に言われて何か文句を言ってやりたい気持ちで凪のことを睨み付けると、凪は俺の視線に気付いてサッと手で目を隠した。
「クッソ!」と八つ当たりするようにバッと砂を掴んで投げたら、風が吹いてサラサラと真桜の方に向かって飛んでしまった。
「うわあ真桜ごめんごめん!!!」
咄嗟に砂から真桜を守るように真桜との距離を縮めたら、数メール先で聞こえてきたのはわざと男のような低い声を出した凪の声と吉川の爆笑する声だった。
「真桜大丈夫か!?目に砂入ったか!?俺が守ってやるからな!?」
「キャハハッ…!凪ちゃんもうやめて!!お腹痛いっ!!!」
まだ凪に変なことを言われていることに気付いた俺は、ガッと砂を掴んで凪の方へ走った。
「お前さっきから声聞こえてるからな!?」
「ぎゃあッ!?」
凪に向かって砂を投げ付ける動作を見せると、俺から逃げるために凪は砂浜を猛ダッシュした。速すぎるその足に「凪ちゃんはっや!」と吉川が驚いている。
「お前も笑いすぎなんだよ!」とペシッと吉川の頭を叩くと「ごめんごめん。」と謝る吉川。
俺と真桜の関係がバレているかどうかはさておき、俺と真桜で凪に遊ばれていることはよく分かった。
「あ〜んも〜靴の中にめっちゃ砂入った。」と文句を言いながら凪がこっちに戻ってきた頃には、真桜が俺の横に立っている。
凪の視線がまたこちらに向けられたと思ったら、その直後真桜が俺の手を引いてきた。
「柚瑠、もうあっち行こ。」
真桜は多分、俺が凪に絡むのが嫌だったんだろう。…いや、絡むって言うよりただ文句を言っていただけなんだけど。凪は女子…っていうより、言っちゃ悪いが俺からしたら男友達の感じに近いからあんまり気にしないでほしい。
「柚瑠ともっと二人になりたいのに。」
「あー…じゃあもっと向こうらへん行ってみる?」
「うん。」
周囲に人があまり居なくなると、真桜とそんな会話をして、静かな砂浜をゆっくりと歩いた。
少しだけ真桜と二人の時間を過ごした後にまたタカたちと合流すると、その頃にはもう凪とトモの姿は無かった。
しかし「お前らさっきの行動はまずいって。」と戻ってきた俺と真桜を見て健弘が苦笑いしている。
「さっきって?どれ?」
「…いや、まあいいけどな。気にし出したらキリなさそうだし。」
「はあ?何がだよ。」
「凪ちゃんの中ではゆずまおが成立してるらしくて真桜くんが七宮の手引っ張ってったのが衝撃だったらしいよ。」
「いや意味がわからん。」
「違うし。まおゆずだし。」
「はい?」
吉川が言うちんぷんかんぷんな話に頭を悩ませていたら、真桜がいきなり口を挟み、指摘し始めた。
何が違うのか分からない俺やタカ、健弘が首を傾げている中、吉川が真桜の肩をポンポンと叩いて「本人にそう教えてあげなさい。」とにっこり笑っている。
いや余計なことは言うなよ。真桜が凪に変なこと言わないかちょっと心配だ。
俺とタカと健弘には意味が不明なまま話は終了し、夕飯の時刻が近付いていたからそろそろホテルに戻ろうか。と一旦各々の部屋に戻ることにする。
俺は健弘と鈴木、それから別の班の男子3人と同じ6人部屋で、同じ部屋の彼らはせっかく目の前にビーチがあるのに外に出るのがめんどくさいのかインドア派なのか畳の上でゴロゴロしながらUNOをして遊んでいた。
鈴木はもうすでに布団を敷いて寝転んでいたからもうバス移動だけで随分疲れてしまったんだろう。
この後夕飯の時間やクラス毎のレクリエーションの時間まであるから、残念ながらまだまだ寝れない時間は続くのだった。
研修旅行1日目 おわり
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