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私の名前は凪。身長168センチ、体重ピーキロ、バスケ歴6年の女子バスケットボール部2年。球技大会や体育では活躍しまくり、男子より女子からチヤホヤされやすいスポ根女だ。
身長が高く腹筋もバキバキ。女子力皆無な私はこの高校生活で恋を諦め、青春を部活に捧げている。
同じバスケ部の男子は、NBA選手の高速ドライブを真似してよく遊んでいる私をゴリラ扱い。女バス部員からは優しくて良い奴と評判が良い柚瑠でさえ、私のことを『女捨ててる』だなんて言ってくる。
何糞っ!!別に捨ててねえわ!ちょっとくらい残っとるわ!!とか言い返してるけどこの時点で捨ててる自覚はすでにある。
そんな私だけど、高校に入学してからずっとイケメン男子高野真桜くんの前では乙女だ。
彼は、女子たちの憧れの的だった。
高野くんに彼女ができた時には『彼女ブスじゃね?』『さっさと別れろ』って悪口のオンパレードでちょっと怖かった。
高野くんの彼女になる子は大変だな…と私は哀れみの目を向けていた。
理由はよく知らないが結局高野くんはすぐに彼女と別れた。めちゃくちゃ早かった。でも内心密かに喜んでいる自分がいた。
その後高野くんに彼女ができる様子は無く、柚瑠と仲良くしている光景をよく見かけるようになった。
とても平和だった。私の心は穏やかだった。
でも柚瑠がちょっと羨ましい。私も男だったら、せめて仲の良い友達ポジションになれはしなかっただろうか。
この時から私は、高野くんに彼女ができるくらいなら柚瑠とくっついてくれ、というBがLする展開を考えるようになっていた。
それからというもの、私の高校生活は薔薇色だ。
『ゲッ、柚瑠高野くんの手引いてんじゃん!なにあれ、ガチじゃね?それとも友達同士のただのスキンシップなの!?』
私は研修旅行の日の早朝からいきなり脳内で暴れまくった。柚瑠に手を引かれて歩く高野くんはガラガラとスーツケースの音を鳴らしてのろのろと眠そうに歩いている。クソ可愛くね?
私の中ではいつのまにか“かっこいい高野真桜”のイメージは無くなっていて、“可愛い高野真桜”になっていた。
『眠いのか?かわいいなぁ真桜、しっかり歩けよ。』
『眠い、柚瑠引っ張って。』
『仕方ねえなぁ、学校までだからな?』
…ウ、ウホホホホホたまらん!!!!!
私は一人ゴリラになりながら気持ち悪い妄想をしていた。あとでトモにこの素晴らしい話を共有してあげよう。
彼らのおかげで私は研修旅行もたっぷり楽しめそうだ。
1日目の予定、ガマとひめゆりの塔見学を終えた私たちはホテルでの自由時間を過ごしていた。
私はクラスの子たちと浜辺を散歩していると、「あ、凪凪!!」と近くを歩いていたトモに呼びかけられた。
「お〜!トモ!」
よっ!と手を振っていると、トモの隣には高野くんと仲が良い冨岡くんと吉川さんカップルもいた。トモと一緒にいるなんて珍しいな、柚瑠は居ないのか?って不思議に思っていたら、トモはニヤニヤしながらコソッと「あっちあっち」と言って、ある一部分を指差した。
おお!柚瑠と高野くん(とタカ)が居る!!!
「うえい」と私はハイタッチするようにトモと拳をぶつけあった。
「やっと真桜と遊べるぜ。」
私は柚瑠の気持ちを勝手に想像して代弁するかのように自分の中では最大級のイケボを出しながらアテレコしたら、トモの隣にいた吉川さんが「ぶはっ!!!」と吹き出した。その吉川さんの隣では富岡くんまでクスッと笑って口を押さえている。
「え、…なに今の?」
「なんかこの子ら七宮と真桜くんでアテレコして遊んでるらしい。」
「いや私はやってないよ!?凪だけだからね!?」
「凪ちゃん最高、もっとやって。」
笑いながら吉川さんにお願いされちゃったから、私は二人の様子を見守りながら「海より真桜の方が綺麗だぜ。」って言ったら吉川さんに大爆笑されてしまった。
「ぷっあははっ!!!ウケる!!七宮そんなこと絶対言わないから!!!」
その笑いにつられるように、富岡くんも口を押さえながら肩を震わせている。
吉川さんの笑い声が柚瑠の方にも聞こえてしまったようで、柚瑠が高野くんを引き連れてこっちに向かって歩いてきてしまった。
その顔は『何やってんだお前ら』と言いたげな冷めた表情だ。ごめんなさい。私たちに構わずどうぞ2人で遊んでて。
「てかお前バスパンかよ!仲間だな!」
突然柚瑠は私の下半身を指差しながら笑った。
「え?良くない?楽だし。」
「うん、楽だけど。健弘、凪にもなんか言ってやれよ。」
「…え、…まあ、うん。楽なら仕方ない。」
「おい!俺の時と反応違うだろ!!!」
「…いや、女子にはさすがに…。」
柚瑠が私にそう話しかけている時、高野くんはその後ろでちょっとおもしろくなさそうにしながら無言で話を聞いていた。
『柚瑠、俺をもっと構え。』……ってか?
完全にただの私のイカれた妄想である。
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