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「あっつ!やっぱ沖縄暑いな!!ズボン穿き替えてくるわ。」

「柚瑠正気かよ。沖縄でもバスケする気か?」


沖縄に到着し、トイレ休憩のあいだにパーカーを脱いで半袖になり、バスパン片手にトイレに行こうとしていた俺をドン引きする目で見てきた健弘。

何を言われても構わん。暑すぎる。ちょっと持っていてくれ、と健弘に鞄を預けてさっさとトイレに向かった。


バスパンに穿き替えたら一気に気分爽快になって、「ん〜っ」と腕を伸ばしながら健弘の元に戻ったら呆れた顔をされてしまった。


「アロハシャツ見つけたら柚瑠用に買って着せてやりてえわ。」

「いらんわ、自分用買えよ。」

「いや、買わんでも持ってきてるし。明日はアロハシャツ着るから。」

「うわー…ないわー。」


派手なアロハシャツを着た健弘の姿を想像し、ドン引きし返してやったら「バスパンの奴に言われたくねえから!」と言われてしまった。


どっちもどっちということで言い合いはここらへんにしておこう。のんびりしている暇はあまりなく、すぐにまたクラス毎のバス移動が続く。

ここでも鈴木はバス酔いでげっそりした顔をしており、昼食を食べるのも一苦労のようだった。


1日目の予定はガマとひめゆりの塔見学で、ここでは学びを目的とするため、クラス毎真面目にガイドの方と共に真っ暗なガマの中を懐中電灯を照らして歩く。

女子はちょっと怖がってる人もいて、吉川は健弘の手をギュッと握りながら歩いている。


「柚瑠〜、怖いから掴まらせて〜。」


美亜ちゃんを引き連れたトモまで俺にそんなことを言ってきて、二人は俺のシャツを掴みながら後ろを歩いてきた。


「転けて俺を道連れにすんなよ。」

「大丈夫大丈夫〜。」


ヘラヘラしてるトモが『怖い』と言ってるのは嘘なんじゃないか?一言も喋らずに黙って歩いている美亜ちゃんの方が怖そうにしているように思える。


懐中電灯を消して黙祷する瞬間、それはもう辺りは真っ暗で、美亜ちゃんはちょっとだけ震えていた。


ガマを出てから美亜ちゃんに「大丈夫?」と問いかけると、美亜ちゃんは顔色を悪くしてうんうんと頷く。


「ひょっとして暗所恐怖症とか?」

「ちょっと…、そうかも…。柚瑠くんいて良かったぁ…。」


ホッと安心するような笑みを向けられ、親切心から「それなら良かった。」と返事をしていると、一番最後にガマの方向へ歩いていく6組とすれ違う。その中にはタカと一緒に歩いている真桜も居て、がっつり真桜にこっちを見られていた。


目が合って、真桜はムッと唇を尖らせる。

それは多分、俺の隣に美亜ちゃんが並んで歩いていたからだ。


…いや、同じ班だしな?しょうがないだろ?って内心言い訳をしながら、素知らぬ顔で真桜に向かってひらりと手を振った。

すると真桜は、すぐにふっと笑みを浮かべてひらりと手を振り返してくれた。かわいいな。真桜と一緒に行動できるタカが羨ましい。


「キャ〜高野くん見れた〜。」


真桜が俺に手を振り返してくれた直後、俺の背後に居たトモがそう言ってはしゃいでいるから、「お前も手振ってやれよ。」って言ってみると、トモは控え目に真桜に向かって小さくフリフリと手を振る。


それに気付いた真桜はトモにも手を振り返してくれて、その後のトモは「あっ…幸せ…」と胸に手を当てて心酔していた。良かったな。


ガマに入った後の次にひめゆりの塔へ移動し、資料館の中も見学した。美亜ちゃんはまだ少し顔色が良くなくて、トモが心配している。

過去にあった戦争についてを学ぶ場であり、気持ちも沈んでしまう内容であるため仕方ないのかもしれない。

教科書には載ってないようなことも学び、貴重な経験をしてから、ひめゆりの塔を後にした。


早くも1日の予定が終わっていき、クラス毎に研修旅行生を乗せたバスは俺たちが宿泊するホテルへと向かう。ホテルの目の前にはビーチが広がっていて絶景だ。


夕飯の時間までホテルの周りを自由に散策して良いらしく、誰もが考えることは同じで皆、一目散にビーチに向かっていた。


「柚瑠!!」


そこには、タカと一緒に真桜も来ていて、俺に向かって眩しい笑顔で手を振ってくる。


「やったぁ、柚瑠一緒に遊ぼう!!」


砂浜を嬉しそうに走って、駆け寄ってきた真桜が俺に向かって飛び付いた。トットッ、と後ろに二、三歩下がりながらも真桜を受け止め、頷く。


「海だ〜、柚瑠と写真撮りたい…!」

「うん、撮ろ。」


ズボンのポケットからスマホを取り出して、タカに写真を撮ってもらうようお願いしている真桜に、タカは「お前らもうちょっと行動を慎め」と注意していた。


確かに少し、テンションが上がって周りが見えていなかった。


俺と真桜の様子を一部の女子にじっくり見られていたことを、俺は全然気付いていなかった。


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