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旅行バスが空港に到着し、手荷物検査などを通過して飛行機に乗り込むと、あたしはタケくんの後ろ、そして同じ班のトモちゃんの隣の座席に座った。

トモちゃんの隣には美亜ちゃんが座っていて、女の子三人一列で座ることになった。普段女の子と連むことなんてほとんど無いあたしにとっては、なんだか少し新鮮な時間だった。


「吉川さんと富岡くんTシャツペアルックだよねぇ!!」


トモちゃんはバスケ部の女の子で、元気で明るくて男女分け隔てなく誰とでも仲良くしている姿をよく見かける、ちょっとだけ七宮みたいな性格をしてる子だ。勿論それは褒め言葉。

あたしがトモちゃんの隣の席に座った直後に笑顔で話しかけられ、あたしはその笑顔につられるように「そうだよ〜、この前二人で買いに行ったの!」と笑って返事をした。

先日タケくんと一緒にショッピングへ行った時に、メンズもので気に入ったデザインのTシャツが売っていたから『おそろいで着る?』って言ったら、タケくんはノリノリで頷いてくれた。


「めっちゃラブラブじゃん!!いいな〜!!」

「トモちゃんは気になる人とかいないの〜?」

「残念ながらいないんだけど〜、強いて言えば高野くん!!!目の保養〜。」


声高らかにそう口にするトモちゃんの声に、その隣に座っていた美亜ちゃんがクスッと笑った。


「高野くんかっこいいもんね〜。」


美亜ちゃんまで同意してるけど、でもあなたは本命がちゃんといるよね?ぶっちゃけ七宮のこと好きなんじゃないの?

…って聞きたい気持ちはグッと抑えた。何も自分からは言ってないこの子からわざわざ協力もしてあげられないあたしが聞き出すようなことをするべきではない。それは触れない方が良いことだ。


そう思って黙っていたあたしは、トモちゃんからコソッと「吉川さんは高野くんから好きな人の話とか聞いたりする?」とここぞとばかりに質問されてしまった。


「真桜くんの好きな人?う〜ん、いなさそ〜。強いて言えば七宮?」


ここで変に嘘をつける性格でもないあたしは、前の席に座る七宮の座席を指差しながらクスクス笑って冗談っぽく言ってみる。

するとトモちゃんは、「あ〜分かる。」と納得するような反応を見せた。


「女バスの友達がよく話してるんだけどさ、高野くんに彼女ができるくらいならいっそのこと柚瑠が相手の方が良いっつってよく二人が一緒にいるところ見ながらアテレコして楽しんでるよ。」

「きゃはははっ!!!なにそれ超ウケる!!どんなアテレコすんの!?」


クソおもしろい話をトモちゃんから聞いてしまったあたしは、手を叩いて爆笑しながら話を促した。


「『真桜今日もかわいいな。放課後うち行っていいか?』『うん、いいよ。』……とか!?」


え、……すごい、会話内容ほぼ一致じゃん。
大丈夫?もしかしてもう周りにバレてる?


「それとか〜『…真桜、彼女作んなよ。俺がいるだろ。俺だけじゃ不満か?』とか!!!」

「きゃはははっ!!なんなのそれ、まじでウケるんだけど!!どっちかっていうと七宮の方が迫ってる設定なのね。」

「友達曰くゆずまおらしくて間違えてまおゆずって言ったら怒られるんだよね。そのへん私はよくわかんないんだけどさ。」

「面白いね、その女バスの友達。」

「今朝も柚瑠が高野くんの手引っ張って歩いてるとこ見たらしくてさ、一人脳内アテレコして楽しませてもらったって。あとでその子が生アテレコやってるとこ吉川さんも聞いてみなよ、ほんとに笑えるから。」

「おもしろすぎでしょ、聞きたい聞きたい!」


七宮と真桜くん本人たちには悪いけど事情を知らない人からは仲の良い二人は良いおもちゃにされているようだ。その女バスの子の話を美亜ちゃんも笑って聞いていて、沖縄へ向かう飛行機内で同じ班のあたしたち三人は早くも盛り上がりを見せ、楽しんでいた。


そんな時、前の席に座る七宮がじろっと振り向いてきた。眠いのか不機嫌なのかその顔は少し顰め面だ。

七宮につられるように数秒遅れでタケくんも振り向いてくる。


「楽しそうだな。なんの話だ?」


七宮にジトーとした目を向けられて、もしかしたらちょっと会話が聞こえちゃっていたのかもしれない。


「あははっ、うるさかった?ごめんごめん!高野くんの話してた!」

「俺がどーたらも聞こえてきたんだけど?」

「まじ?気にしないで!凪(なぎ)の妄想の話してただけだから!」


どうやらそのアテレコをする女バスの子の名前が凪ちゃんというらしい。

「は?凪?どんな妄想だよ。」と呆れた顔を見せる七宮もその子と同じバスケ部だから多分仲が良いのだろう。


「こっちは寝ようと思ってたのに吉川の笑い声うるさすぎて寝れねーわ。」

「えー?ごめーん。トモちゃんの話おもしろすぎてはしゃぎすぎちゃった。」

「ふぅん、お前ら仲良くなったんだな。良かったじゃん。」


七宮は欠伸しながらそう言って、前を向いた。


うん、良かった。女の子の友達全然居なかったけど、あたしが仲良くなれた女の子はみんな七宮の近くにいる子ばかり。“類は友を呼ぶ”という言葉が頭の中に思い浮かぶ。つまり、こんな性格の悪いあたしとも仲良くしてくれる良い子たちばかりだ。

七宮には感謝することばかりだな。…と思っていたら、あたしの前に座っていたタケくんもにこっと笑みを見せてから前を向いた。


タケくんの笑みにキュンとして、七宮のことを少々考えていたあたしは心の中で『いかんいかん。』と首を振った。


七宮のことは恋愛とか抜きにして男の中で一番好きだったけど、これからの一番はタケくんだ。

勿論、七宮のことはずっと好きだけどね。
これからも良い友達関係でいたい。


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