1 [ 33/50 ]

【 研修旅行1日目 】


まだ空の色が夕方みたいに薄暗い早朝に、大荷物と共に母親が運転してくれる車に乗って学校へ向かった。

今日は、待ちに待った沖縄研修旅行の日だ。


学校の近くまで来ると、歩道で真桜がゴロゴロとスーツケースを引っ張って歩いてる姿を発見する。


「あっ真桜だ!!」


車の中から叫ぶと母親がすぐに車を止めてくれたから、そこで車から降りて真桜に向かって手を振る。俺に気付いた真桜がガラガラガラガラと音をさせながら駆け足になって俺の方へ来てくれた。


「真桜くんおはよう!二人とも気を付けて行ってらっしゃいね〜!」

「おはようございます、はい!行ってきます。」


ぺこりと頭を下げながら、真桜が俺の母親に返事をしてくれる。母親に見送られながら俺は重いボストンバッグを肩に引っ掛け、真桜と並んで歩き始めた。


学校に7時集合のため、まだ時刻は6時台だ。普段ならまだ寝ているであろう時間のため、真桜は眠そうに大欠伸をしながら目を擦っている。


「眠そうだな。」

「…ねむい。」


眠そうに歩いてる真桜が可愛くて、よしよしと髪を撫でた。

いつも学生服で登校している真桜だけど今日は当然私服で、黒ズボンにフード付きのナイロンパーカーを緩く着こなしていておしゃれだ。女子が真桜の私服姿を見て喜びそうだなぁ…と思いながら今だけはそんな真桜を独り占めした。


俺はと言えば、吉川に研修旅行の日くらいおしゃれしろとか言われたけど、おしゃれよりも楽な服装を優先させてしまったため、いつでも運動ができそうなスウェット地のズボンを穿いてきてしまった。

沖縄はきっと暖かいだろうから、半袖Tシャツの上から薄手のパーカーを羽織っただけで今は我慢している。しかも暑かったら下はバスパンに穿き替える気満々でサブバッグにはバスパンを1枚突っ込んできた。

研修旅行の日まで普段とそう変わらない俺の服装は吉川と健弘に絶対突っ込まれるだろうな。でも、沖縄でも着慣れた服装で快適に過ごしたい。


「柚瑠はいつも早起きだから余裕そうだな。」

「まあな。でも多分飛行機で寝ると思うけど。」

「俺も。」


真桜が眠そうにうとうとしながら歩くから、空いている方の手で真桜の手首を掴んで校門まで引っ張ってやった。


「…おい保護者、そろそろ手離せよ。」


背後からそんな声が聞こえてきて、振り向けば健弘もガラガラとスーツケースを引きながら歩いてきていた。保護者って俺のことか。


「てか柚瑠荷物少なすぎじゃね?よくその鞄で来れたな!!」

「お前の鞄がデカすぎるんだろ。何入ってるんだよ。」

「大きめじゃないとお土産入れて帰れねえだろ?」

「…どんだけお土産買う気なんだ。」

「俺5万持ってきたから。」


健弘はドヤ顔でパーの手を俺に見せながらこそっと内緒話するように話してきた。ちなみにしおりに書かれていた規定の金額は3万円だ。2万もオーバーしている。


「財布パクられんなよ。」

「おう、大丈夫大丈夫。柚瑠は?」

「2万くらい。」

「は?少なくね?」

「いけるだろ。」

「真桜は?」


まだ眠そうにしている真桜にも健弘が問いかけると、真桜は無言で手をパーに広げた。


「…うわ、真桜も5万かよ…。」


それを見た健弘はニカッと嬉しそうに笑い、テンション高く「やっぱそんくらい持ってくるよな〜!」と言いながらガシッと真桜の肩に腕を回した。こいつら友達歴が長いからか変なところ似ている。


「真桜もぼーっとしてて財布パクられんなよ。」


ピン、と真桜のおでこにデコピンしながら言うと、真桜は眠そうな顔でおでこを摩りながらコクリと頷いた。

大丈夫か?真桜歩きながら寝てないか?


学校に到着したらその後はもうクラス行動で、タカと合流して6組の方へ向かっていった真桜を名残惜しい気持ちで見送った。


出発予定時刻になるとクラス毎に乗ったバスが空港まで向かい、同じ班で俺の隣に座っていた鈴木が早くもバス酔いでぐったりしている。


「大丈夫かよ、これから飛行機乗るのに。」

「うぅ…、俺飛行機も苦手なんだよね…。」

「まじか。まあ寝といたらすぐ着くだろ。」


俺と鈴木は空港内でそんな会話をして、その後飛行機に乗り込み事前に班で決めていた席順で座った。


[*prev] [next#]


- ナノ -