5 [ 87/100 ]

【柚瑠の苦悩とタカの理解】


2年の女子人気ナンバーワンイケメン、高野真桜先輩は、入学して間もない1年女子の間でも『2年にかっこいい人がいる』とすぐに噂になっていた。


噂の人物は一目見ただけで分かった。
確かにすごくかっこいい。
自分にとってその人は、アイドルよりは身近にいる、高嶺の花のような存在だ。


バスケは小学生の頃から興味があって、中学に入るとすぐにバスケ部に入り、高校でも当然バスケ部に入部する。

同じクラスにもバスケ部の男子が居て、なにかと会話する仲に。爽やかで良い感じだな、って思い始めて、その人が自分の中で気になる存在になる。

その人と会話できるのが嬉しいな、楽しいな、って感じたとき、自分が恋をしていることに気付いた。高野先輩みたいな人を好きになるなんて、そんな無謀なことはしない。身の丈に合った恋だと思った。


さりげなくその人に好きな人が居ないのか探りを入れていたら、別の男バス部員と『姫井まじかわいいよな。』って私と同じ女バス部員の千春の容姿を褒めている会話を耳にしてしまう。

嫉妬で千春のことが一気に嫌いになった瞬間だった。

その人が自分から千春に話しかけに行ってる姿を何度も見たことがあるし、男バス部員からその人が千春のことを好きだという話も聞いてしまった。

悔しかった。こんなにすぐに失恋するなんて。これからもっと仲良くなっていきたいなって思っていたところなのに。

けれど千春はそんなことなど何も知らずに、男バス2年の柚瑠先輩のことを『かっこいい』と言う。


この時私が思った率直な感想は、『おもしろい』だ。


憎いことに千春は可愛くて、スタイルも良く、いろんな男子からチヤホヤされている。千春の恋の相手が例えば高野先輩でも、むかつくけど身の丈に合ってると言えなくもない。

そんなふうに考えていたから、千春が柚瑠先輩を意識して、恋に落ちていく様子は見ていて面白かったのだ。



『…座るとこねえの見たらわかんだろ。』


ある日の学校帰り、寄り道した先に居たバスケ部の先輩たちと同じテーブルに居た高野先輩が、私に向かって冷たい言葉を吐いてきた。

今の、聞き間違い?と私は耳を疑った。


トモ先輩たちと賑やかで楽しそうに千春たちがそこに居たのだから、当然自分たちも仲間に入れてもらえるだろうと思って『混ぜてほしい』と言っただけなのに。


サァッと血の気が引きそうになった。

学校の高嶺の花と恋愛なんて烏滸がましいことをする気は無い。でも少しくらい仲良くしたいと思ってたのにそれすらできない感じ?

この前話しかけたときは私の方になんて見向きもしていなかったからただ無関心なだけかと思ってたのに。

もしかして、嫌われてる?
なんでそんなに冷ややかな目で私を見るの?


密かにショックを受けていた時、柚瑠先輩が私に優しい態度で謝ってくれた。無理して笑顔を作るように私に笑みを向けてくる。私が初めて話しかけたときは、めんどくさそうで、素っ気ない態度だったくせにね?


…ああ、そうか。この優しさは、多分優しさなんかじゃないんだろうな。裏では私のことを悪く言ってるんじゃないの?だから高野先輩も柚瑠先輩に影響されて、私にこんな態度を向けてくるんでしょ?


やっぱり柚瑠先輩は、性格が悪い。

けれど私はそう思っても、態度に出さないように徹することにした。

この先輩とは、仲良くしていた方が良い。

高野先輩に、嫌われないためにも。

私は瞬時にそう判断する。


やっぱり千春だって、本当の目的は高野先輩なんじゃないの?柚瑠先輩のことを好きそうに見せておきながら、結局本命は高野先輩でしょ?


ほら、現に今、その甲斐あって高野先輩に近付けてるもんね。


『千春、良かったね。』


私は全てを分かった気でいながら、千春にそう言い残して立ち去った。


でもさすがにこの千春の恋が叶うのは面白くないから、あんたは柚瑠先輩と付き合う方が面白いよ。




その日以降、私は柚瑠先輩を見つけると積極的に挨拶するようにした。もうあなたのことを悪くなんて思ってません。仲良くしましょう、とそんな態度で。


けれど、ちっとも高野先輩の私を見る目が変わらない。

それどころか、悪くなってるように感じるのは気のせい…?



「あ、吉川、あいつだよ。」

「え?どれ?」

「後ろから3番目。」

「ああ、あのおかっぱ?」


………え、なに…?こわ…。私のこと…?
え、でも私って普通のショートヘアでおかっぱではないよね…?


放課後の部活で外周をするために女バス部員でぞろぞろと中庭を通って校門に向かっていたら、ベンチに座っていた高野先輩と派手なギャルの先輩がこっちを見て喋っていた。


その側にはもう一人、金髪に近い派手な髪色をした先輩も立っていて、「なんの話?」と聞いている。


『柚瑠のこと性格悪いとか言ってた奴。』


高野先輩たちがまだなにか話してるような声はするけど、内容までは聞こえなくて、私は内心焦りを感じながら外周を走った。


………そういえばあのギャルは、柚瑠先輩の彼女かと疑ったことがある人だ。あんな人に目をつけられたらたまったもんじゃない。


あんな人たちと仲が良い柚瑠先輩とは、やっぱり仲良くしておかないと…。


先に柚瑠先輩から仲良くしておくなんて、千春はほんとにずる賢い。


私の中で、勝手にそう決めつけていた。


[*prev] [next#]


- ナノ -