真桜とBL漫画 [ 65/100 ]

真桜がBL漫画を買い終わった頃、時刻は17時ちょっと前だった。少し小腹が減ってきて、「腹減ったなぁ。」と呟くと、「なんか食べて帰る?」と言ってくれる吉川さんの嬉しい言葉にうんうんと頷く。


近場のファーストフード店へ移動し、チャリを停めて店内に入り、注文カウンターへ。適当にセットを注文してから、空席に腰掛けた。

4人用のテーブル席で真桜が奥のソファー席に座り、俺はいつものクセで真桜の正面に座る。吉川さんはどっちに座るだろう?と俺は密かにドキドキしていると、嬉しいことに俺の隣の椅子に吉川さんが腰掛けた。よっっしゃあ…!


真桜はとにかくBL漫画の中身が気になるらしく、漫画のビニールを剥がしてパラパラと漫画を捲った。


「どう?エッチなシーンあった?」


パクッとポテトを口の中に放り込みながら、真桜にそんなことを問いかける吉川さん。


「ハッ!…あった。」

「どれ?」


パンッ!と勢い良く漫画を閉じて、興奮気味に答える真桜の手から漫画を奪い取る。


「あっ手に油ついてねえよな!?」

「まだなんも食ってねえよ。」


どれどれ、俺もBL漫画を見てやろう。とパラパラとページを捲る。真桜が気に入っただけあって、この漫画の作者は絵がかなり上手く、登場人物が皆イケメンに描かれている。


「え?…うわ。は?エッロ!がっつりエロ漫画じゃねーか!」

「だからそう言ってんだろ!」


後半のページを捲っていたら、真桜が言っていたようにがっつりヤってるエロシーンを見てしまった。なるほど。どうりで真桜がえらく興奮するわけだ。


「そんなに?」

「ああっ吉川さんは見なくていいから!」


横から吉川さんが漫画を覗き込んできたから、慌てて漫画を閉じて真桜に返した。


「え、あたし別にエロシーン平気なんだけど。てかなんでタケくんが照れてんの?」

「…いや、なんとなく。思いのほかがっつりヤっててびっくりした。」

「勃ったの?」

「勃ってません!!!!!」


ちょいとお嬢さん!?恥ずかしくなることを聞かないでくれ!思わず赤面しそうになったじゃねーか。


「ふふっタケくん顔赤いよ。興奮しちゃった?」


ゲッ、やっぱ赤面してんのかよ!


「なあもうBL漫画の話するのやめません?」

「真桜くんは漫画が気になってしょうがないみたいだよ。」


吉川さんの言葉を聞き真桜の方を見れば、真桜は2冊目の漫画のビニールをはがしているところだった。早くポテト食わねーと冷めんぞ!


「うわっ!」


また漫画の中身をチラ見して、パン!と漫画を閉じる真桜。なんだよ、またエロシーン見つけたか?


「この漫画、身体の関係から先に始まってる…!」

「いちいち解説していらねんだよ!」

「ぶふふ、真桜くん落ち着いて。」


真桜は手で顔を押さえながら、もう漫画を見ないようにするために鞄の中に漫画を突っ込んだ。


「今までBL少しも読んだことなかったの?」

「BLどころかエロ漫画も読んだの初めて。」

「真桜家にあんの少年漫画ばっかだもんな。」

「やだぁ〜、真桜くん新しい扉開けちゃったんじゃないのぉ〜?」

「柚瑠にバレたら引かれるかな…?」

「まあ大丈夫なんじゃない?漫画でオナニーしてるとか言ったら引かれるかもだけど。」

「柚瑠がいるのにそんなのしねーし。」


吉川さん…、今日放課後あなたと一緒に過ごして俺はちょっとあなたのことが分かりました。

吉川さん…めっちゃ猥談すんじゃん!!!

やべえ…、この場で俺が一番恥ずかしがってる。童貞バレしちまう…。できるだけ動揺を悟られないよう、真桜と吉川さんが猥談している間俺は、無言でポテトを食べ続けた。



「あ、柚瑠からラインきた。部活終わったって。」

「柚瑠も呼べよ。」

「うん。」


だらだらと喋りながら過ごしていると、早くも1時間以上経ったようだ。せっかく放課後吉川さんと過ごせている俺はまだ解散したくなくて、真桜にそう呼びかける。それに柚瑠が居てくれた方が多分この二人の猥談を聞かなくて済む。


学校からそう遠くは無い店だったので、真桜が連絡して数十分で柚瑠が顔を出した。


「あー腹減った。吉川居んの珍しいな。」

「はぁ〜い、まあね〜。」


テーブルにお盆を置いて、真桜の隣に腰を下ろした途端に、バーガーをがぶがぶ食べ始めた柚瑠。さすが運動部の食いっぷりだ。


「お前ら何やってたんだ?ずっと喋ってただけ?」

「本屋行って買い物してた。」

「本屋?また漫画か?」

「うん。」


そこは普通に話すんだな。

しかし、モグモグと口を動かしながら、何気なく柚瑠が「なんの漫画?」と聞いた途端に、真桜が無言になった。お前その反応はバカだろ。

そんな真桜を見た吉川さんが、「ぷふっ」と吹き出す。


「ん?なんだ?」


真桜が無言になるだけならまだしも吉川さんが吹き出してしまったから、怪しみ出してしまった柚瑠がジーと真桜の横顔を見つめる。


「フフッ…もう真桜くん普通に言っちゃいなよ、BL漫画買ったって。」

「あっおい!!!」


笑いを我慢できない吉川さんに呆気なくBL漫画を買ったことをバラされた真桜は、頬を少し赤らめて吉川さんに怒っている。


「は?びーえる?」

「七宮知ってる?ボォイズラブよ。ボォイズらぁ〜ぶ。」

「あぁ、まあ知ってるけど。」


一体柚瑠からどんな言葉を返されるのだろう、とビクビクしているであろう真桜だが、その後柚瑠からは予想外なくらい興味無さそうな返事が返ってきた。


「その前に真桜そろそろ本棚買った方がいいぞ。新しいやつ買う前に床の上に積まれてる漫画どうにかしろよ。」

「…う、うん。分かった。」


ボーイズラブに対して何か言うことはねえのか。

真桜の部屋の本棚に立て切れない漫画の存在は確かに俺も気にはなるが、まずボーイズラブに対して何かつっこめよ。と思っていると、食べ終わったバーガーの包み紙をくしゃっと丸めながら、柚瑠はようやくボーイズラブに反応を見せる。


「てか真桜お母さんに変なの読んでんのバレんなよ?」

「…う、うん。ベッドの下に隠しとく。」

「いやそこ一番バレるだろ。」

「フフフッ、気にするとこそこなんだ。」


吉川さんは、「七宮のそーゆーとこ好き。」と言って笑っている。悔しいけど柚瑠がそう言われるのもちょっと分かる。真桜がBLを読んでいたとしても柚瑠にとっては引くとか引かないの問題ではないようだ。


「健全な少年漫画の間にしれっと並べた方が案外バレねーかもな。」とわざわざしまう場所を指示している柚瑠には、さすがに俺も吉川さんと一緒になって笑ってしまった。


「うん、分かったそうする。」


そしてこの日から、真桜の部屋の本棚には、しれっとBL漫画が並び出すのだった。


初めこそ真桜と吉川さんの怪しげなやり取りに『は?』と思ったが、結果的に俺は放課後吉川さんと過ごせるきっかけができたのだから、真桜よ、BL漫画にハマってくれてありがとう。


真桜とBL漫画 おわり


[*prev] [next#]


- ナノ -