怪しい真桜と吉川さん [ 63/100 ]
「あ、真桜くんおはよー。この前言ってたやつ買っといたよ。」
今朝、吉川さんが俺と一緒に登校してきた真桜にそう言いながら袋に入っている“何か”を手渡した。
「うわぁ、まじ?サンキュー!」
やたら嬉しそうな顔をして吉川さんから受け取った物を、サッとすぐに鞄の中にしまう真桜。
「え、なにそれ。」
気になって問いかけたものの、真桜から返事が返ってこない。いや無視すんなよ。と次に吉川さんの方を見る。
「なに買ったんだ?」
「ん?漫画。」
「あぁ、漫画か。」
まあ真桜が漫画好きなのは知っているが、吉川さんと物の貸し借りに似たようなやり取りをしていることが少々羨ましい。
「何の漫画?」
吉川さんはどんな漫画読むんだろう。できれば俺もこの輪に入りたいものだ。という気持ちで問いかけた質問には、何故かすぐに返事をもらえず、吉川さんは真桜の顔をジッと見た。
いやいやなんだよ。
お前らなんかちょっと怪しいって。
「漫画ったら漫画なんだよ。」
「えっなんで今ちょっと不機嫌になった!?」
俺聞いたらダメなことでも聞いたか!?
突然真桜に素っ気ない態度を取られてしまい、ムッとしていたところで、朝練後の柚瑠が教室に入ってきた。
「あ、柚瑠おはよう。」
その途端ににっこり笑顔になる真桜。やっぱご機嫌じゃねーか。なんか腹立つな。なんで俺だけ素っ気なくされなきゃなんねーんだよ、と真桜のケツを蹴ってやった。
「なにしてんだよ健弘。」
「真桜にイラッとした。」
「真桜なにやったんだ。」
「え、なんもやってねえんだけど。あ、俺もう行かねーと。じゃあね柚瑠。」
真桜はにこやかに柚瑠に手を振りながら教室を出て行った。俺は思わずムッとした顔のまま舌打ちしそうになった。
結局何の漫画かは教えてもらえないまま、授業が始まってしまう。
しかしまあ、時間が経てばそんなことはすっかり忘れていたのだが。
翌日の放課後、また怪しげな真桜と吉川さんのやり取りを思い出してしまう出来事が俺の目の前で起こったのだった。
「タケ、俺今日寄るとこあるから先帰ってて。」
「は?どこ行くん?」
「本屋。」
…ん?変だな。
本屋ならいっつも一緒に寄って帰ってやってんだろ。と思いながら『なら俺も』と言おうとした時、隣の席で鞄の中に教科書を入れていた吉川さんがその後鞄を持って立ち上がり、真桜に声をかけた。
「真桜くんお待たせ〜、行こっかぁ。」
「うん。」
「はっ!?いや待て待て!!!!!」
さすがにこれは止めるわ!!!はっ!?
お前ら二人で約束してんのかよ!?
「タケくんどしたの?」
「は?真桜ふざけんなよ?」
「え、なにが?」
なにが、じゃねえだろ!!!
なに俺抜きで吉川さんと二人で放課後どっか行こうとしてんだよ。俺の気持ち知ってて放課後二人で約束してるとかまじでふざけてるだろ!!!
と、真桜に言ってやりたいが吉川さんがいるところで言えるはずもなく、俺は真桜を強引に教室の外に引っ張り出して、コソコソと小声で言いたいことを言ってやった。
「なに二人でどっか行こうとしてんの?俺は?俺ハブる必要ある?本屋くらい俺いつも一緒に行ってやってるよな?」
「いや、ハブってるとかじゃないって。…ちょっと、タケとは行きにくいかな。」
「はあ!?ただの本屋だろ?行きにくいとかねえだろ。てかずるくね?俺が放課後吉川さん誘いたいの知ってるよな?」
「んー…。ごめん…。」
真桜にムカつきすぎて必死にあれこれ言ってやったが、真桜は苦笑しながら謝るだけで俺は納得できるわけがない。
「ごめんはいいから理由を話せよ、わざわざ二人で本屋行く理由。話せねえなら俺も行く。」
そこまで言って真桜はようやく、言いにくそうに、且つ恥ずかしそうに、俺の耳元に口を寄せて、ボソボソと小声で教えてくれた。
「BL漫画売り場行く。」
「はっ?しょーもな!」
驚くほど理由がくだらなかった。
思わず真顔になった。
別に普通に俺と行けばよくね?
そしてこの時、昨日の朝の真桜と吉川さんのやり取りを俺は思い出した。
『この前言ってたやつ買っといたよー。』
こいつは恐らく、自分では買いにくいBL漫画を吉川さんに代わりに買ってもらったんだろう。
こんな理由のために俺の好きな人と二人でコソコソしていたなんて。許さん。
「俺も行くわ。
吉川さん俺も一緒に行っていー?」
「ん?あたしは全然良いけど?」
教室の中に戻って吉川さんの許可を貰ったあと、俺の後に続いて教室に入ってきた真桜をキッと睨みつけた。抜け駆けは許さねえ。いや、真桜の場合抜け駆けとは言わねえかもしんねえが。
つーか女子とコソコソする前になんで真桜は俺に言わねえんだ、腹立つな。真桜がBL漫画に興味を持っていようがこっちは全然驚かねえっつーの。
「漫画コーナーが広い本屋が良いよねー。真桜くんはどこの本屋でも良いの?」
「俺は良いけど…」
吉川さんの問いかけに頷いたあと、チラッと俺の方を見る真桜。
「あー、俺はどこでも二人に付いて行きまーす。」
「おっけ〜、じゃあ適当に通りかかった本屋入ってみよー。」
こうして俺は、真桜のおかげと言うべきか微妙なところだが、初めて吉川さんと放課後も一緒に過ごせることになったのだった。
怪しい真桜と吉川さん おわり
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