吉川さんから見た俺 [ 62/100 ]

【 健弘の恋愛A 】


「ねえねえ七宮七宮!このメンズモデル真桜くんに超似てない!?」


俺の隣の席の吉川さんは、休み時間に読んでいた雑誌を手に持って柚瑠の方へ振り向いた。


「ん?」


早弁をしようとしている柚瑠が、弁当箱の蓋を開けながらその雑誌を覗き込む。


「真桜の方がかっこよくないか?」


しれっと自分の恋人を持ち上げている柚瑠に吉川さんはにたりと笑いながら「そうね。」と相槌を打っている。

会話に加わりたい俺は、身体を吉川さんの方に向けて雑誌を覗き込んだ。


「あー、雰囲気は似てるけど真桜の方がかっこいいな。」


別に柚瑠が恋人を持ち上げているわけでもなかった。真桜のかっこよさはメンズモデルにも対抗できるだろう。

俺がそう口にした丁度その時、教室に入ってきた真桜が不思議そうに首を傾げる。俺と吉川さんと柚瑠は、3人同時に真桜を見上げた。


「うん。やっぱ真桜くんの方がかっこいいわ。真桜くん読者モデルなれるんじゃない?何か応募できそうなのないかな。」

「真桜はそういうの絶対嫌がるだろ。」

「うん、明らか真桜の苦手系だな。」

「…え、なんの話してんの。」


ペラペラと雑誌のページを捲っている吉川さんの手元を真桜も一緒になって覗き込んだ。


「真桜がメンズモデルよりかっこいいなって話だよ。」


柚瑠が真桜にそう言うと、チラリと柚瑠の顔を見ながら照れ臭そうにしている真桜。


「あ〜募集ページ発見〜!真桜くん読者モデル応募してみなよ。」

「なにそれ、無理。」

「無理じゃないって。」

「じゃあタケやれば?」

「はっ?俺の方が無理だろ。」


自分が嫌だからって俺に矛先を向ける真桜。すると吉川さんも「あ〜、タケくんねぇ。」と俺の方に目を向ける。


えっ俺がなに!?
吉川さんから見て俺もいけそう!?

自分で自分をイケメンとは思っちゃいないが自分に自信が全くないわけでもない。人からの評価はまあ気になるのだが、吉川さんから見た自分がどう思われているのかなんてさらに気になってしまい、大人しくその先の言葉を待っていたが、吉川さんは何も言わずにパッと雑誌に視線を戻してしまった。


えぇ…なにか言って欲しかった。


地味に凹んでいると、今度は柚瑠が俺の方を見て「確かに健弘の方が向いてそうだな。」と言ったあと、口の中に白ご飯を詰め込んでもぐもぐしている。

いや、俺は向き不向きとかじゃなくて人から見た自分がイケてるかイケてねえかが知りたい。


「俺イケてる?」


吉川さんに直接聞くのはちょっと勇気がいるので、柚瑠に冗談を言うように髪をいじりながら聞くと、柚瑠は「ふっ」と軽く吹き出して口に手を当てた。おい、そこで笑うの失礼だろ。


「普通にしてろよ、普通に。」

「なんかタケがポーズつけるとただのかっこつけに見える。」

「いやモデルってポーズつけるもんだろ!」


俺を見て笑う柚瑠に続いて真桜にもそんなことを言われ、言い返していると今度は吉川さんにまで笑われてしまっている。


「残念ながらタケくんはモデル不向きみたいね。」

「うわー、そう言われると地味にショックなんだけどー。」


まあ分かっていたが吉川さんに言われると余計に凹む。モデル不向きってことはつまり、俺は吉川さんから見てイケてないってことだろ?


なんてことないように気持ちを口に出してはみたが、まじで凹みそうになっていた時、お茶が入ったペットボトルを片手に持って飲もうとしている寸前の柚瑠が、何気なく俺を見ながら口を開く。


「健弘は普通に授業聞いてる時とか勉強してる時の方がかっこよく見えねえ?なんか、ギャップっていうか。」

「あ、それ分かるー。タケくんって休み時間うるさいのに授業になったら超真剣に聞くよね。あたしちょっと感心したー。」

「うん俺も。」


ゴクゴクとお茶を飲んだあとに、吉川さんの言葉に同意する柚瑠。

…えっと。それ俺のことすげー褒めてくれてるってことでいい?柚瑠お前…俺が吉川さんのこと好きって実は気付いててわざわざ良いこと言ってくれてる?


照れ臭くて黙ったまま二人の会話を聞いている俺を、真桜がジーと横目に見てくることに気付いた。そして目が合うと、ふっと小さく笑う真桜。

なに笑ってんだよ。と真桜のケツを叩く。


「吉川、タケ今彼女募集中なんだけどどう?」

「へー、タケくんそうなんだー。」

「おまっ!!!!」


なにいきなり余計なことを!!!!!


もしや真桜に吉川さんのことが好きだと言ったのは失敗だったか!?唐突にあらぬことを吉川さんに聞く真桜のケツをもう一度叩いた。

これは真桜なりに俺の協力をしてくれているつもりなのかもしれんが協力が下手くそすぎる。


唐突なことを聞く真桜に、吉川さんはキョトンとした顔で俺のことをジーと見てくる。


何て返されるんだろうとドキドキしながら吉川さんの返事を待つ。


「タケくんねぇ。ぶっちゃけあたしはタケくん全然タイプじゃないんだけどぉ、」


ガクッ……。まじか。


「でも告白しないだけで実はタケくんに気がある子っていると思うよ。タケくん女の子に優しいし付き合ったら超大事にしてくれそう。」


…そう言ってくれるのは嬉しいけどすげー複雑。つーか現状脈無しだな。タイプじゃないって発言がかなりショックだ。


「誰かさんと違ってねー。」

「は?」


俺がひっそり凹んでる目の前で、吉川さんは真桜に向かってベーと舌を出している。


「あたしが言うのもなんだけど真桜くんって言い方キツいときあるよね?頬に紅生姜でも塗ってんの?とかまつ毛にひじきついてるとか言ってあたしのメイクディスってくるんだけど。」

「ぶふっ…紅生姜て。」

「だって吉川ほっぺた赤くね?」

「チーク塗ってるんですぅ!でもその点タケくんはちゃんと褒めてくれるもんねー。顔は真桜くんの方がモテるけど中身知ってる子は断然タケくん派なんじゃない?」

「…いやぁ、そんなことねえぞ?」


実際俺の中学の頃からの女友達は、俺の性格も真桜の性格もよく知ってる上でまだ真桜に片想いをしている。

俺は謙遜しているわけではなく、そういう理由も踏まえて首を振るが、吉川さんは「いーや、絶対そう。タケくん自信持って。」と俺のことを持ち上げてくれた。


そう言ってくれるのはすげー嬉しいんだけど…。

俺はキミに好きになってもらわなきゃ意味ねえんすよ。…って、言われたことを素直に喜べない。


「まあ相手が吉川だから真桜が好き放題言ってるだけで、他の女子には紅生姜とか言わねーだろ。」


そう言って、しっかり真桜のフォローをする柚瑠。お前はやっぱりさすがだな。


「そうだよ、吉川にしか言わねえよ。」

「なにそのあたしなら何言ってもいいみたいな扱い!」

「だって吉川だし。」

「なんじゃそりゃ!!!」


真桜の吉川さんの扱いは女の子だとか関係なく、親しい友人って感じなのが会話を聞いていてよく分かる。

でも俺は、そんな真桜を上手く利用させてもらい、吉川さんにちゃんと意識してもらえるように、いっぱい女の子扱いして、照れて、喜んでもらいたい。


顔は吉川さんのタイプじゃなくても、俺は中身で勝負する。


吉川さんから見た俺 おわり


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