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「うちのクラスの班決めクソおもしろかったんだけど。」


4組より1日遅れで班決めと席替えをしたらしい真桜とタカのクラスである6組での話を、タカが俺以外のバスケ部員も聞いている部活の休憩中に楽しそうに語った。


「女子普段みんな大人しいくせに班決めになった途端に高野の取り合いみたいに同じ班になろ、って声かけてくんの。俺に。」


『俺に』と言う部分を聞き、それを聞いていた周りが「お前にかよ!」と笑いながらツッコミを入れている。


「あのクラスで高野と喋る男子俺くらいだからまじでいろんな女子に話しかけられた。なんか俺がモテた気になってしまうな〜。」

「モテてないモテてない。」

「てかなんでお前が高野とそんなに仲良いんだよ、柚瑠が仲良いのは知ってるけど。」

「え?あれじゃね?高野と仲良いタケとも俺が仲良かったから?」

「お前と高野はまじで変な組み合わせだわ。あ、そういや女子が話してたけど高野って休み時間になったらいっつも4組くるらしいじゃん?吉川って子と付き合ってんじゃね?って言ってるやついるけど実際どうなの?」


タカが真桜の話をしていたから、話題が少しズレてバスケ部員の一人にそんな真桜の話を持ち出されてしまった。

勿論それを聞かれたのは真桜と仲が良いと知られている俺で、「吉川なら俺とも仲良いし普通にみんなで喋ってるだけだけど?」と当たり障りのない返答をする。


「じゃあ単に仲良いだけってこと?」

「うん、そうだろ。」

「じゃあ高野ってまだフリー?」

「…ん?あー、そうだな。」


本当のことが言えないのはしょうがない。嘘をついてるから、変な態度にならないように顔をタオルで拭きながら頷くと、「ええ〜あいつまだフリーなんだ?いろんな女子にチヤホヤされて良いご身分だなぁ。」と真桜のことを疎ましそうにするような反応が返ってきた。

俺はその反応が少し不愉快で、ムッと顔に出てしまいそうな態度を隠すためにタオルで顔を拭いた後、ゴクゴクとお茶を飲む。

羨ましくて嫌味を言ってるんだろうけど、自分の好きな人がそんな言われ方をしていたら嫌な気分になってしまうのも当然で、もういっそのこと『真桜は俺と付き合ってるぞ』って言ってしまいたい気持ちになるが、好奇の目に晒されるのは勘弁だ。

平和に、平凡に、俺と真桜が仲良く過ごせていたら、それだけで十分だろ。って、今後もずっと真桜とはただの友達のふりをし続けるこのスタイルは絶対に崩すつもりはない。


休憩時間が数分しかないため、自然に真桜の話題はすぐに終わってくれた。


部活が終わった後、部室を出て駐輪場に向かっている時、こそっとタカに「ごめん柚瑠」といきなり謝られる。


「え?なにが?」

「…高野の話題、出したのまずかったよな。」

「あー…いや、べつに?お前同じクラスなんだし普通に話題出るだろ。」

「それなら良いけど。」


もしかして部活中、気にしてくれてたのかもしれない。そこまで気にしてくれなくてもいいんだけどな。タカは良い奴だし、口も固いから信用できる。


「ところでタカと真桜んとこの班、結局どんな班になったんだよ?くじ引きで決めたとか?」


そういえばさっき聞きそびれたな、と駐輪場に到着し、チャリのカゴの中に鞄を入れながらタカに真桜の班の話を聞く。


「あー、それな。高野が白石だったら良いって言うからその子が居る女子グループと組むことになったわ。」

「あー白石か。はいはい納得。」

「柚瑠と高野元同じクラスだろ?白石と一緒に班組んでた女子いきなり高野と同じ班になれて凄いびっくりしてたぞ。」


タカから真桜のクラスのそんな話を聞いた俺は、笑いながら「その子ら白石に感謝しねーとな。」と返事をしたところで、チャリを漕ぎ校門へ向かう。


「まあ同じ班になれたところでワンチャン期待しても無駄なんだけどな。」


俺を見てニッと憎たらしい笑みを向けながらそう言ってくるタカに、俺も憎たらしく笑い返す。


「まあな。じゃあ俺真桜んち行くからここで。また明日な。」

「おう、また明日。」


『ワンチャン期待しても無駄』か。

そりゃ同じ班になれたらちょっとくらい期待しちゃうよな。

少し辛辣だが実情を知ってるタカの発言はその通りで、心の中でひっそりと『ワンチャン期待する女子よ、すまん。』とまったく謝る気のない謝罪の言葉を思い浮かべながら、俺は真桜の家に向かった。

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