健弘余裕が無い [ 56/100 ]

※ 【 班決めと席替え 】1ページ目と内容が重複しています。
  同じ場面でこちらは健弘視点verです



文化祭が終わって一段落つき、平凡な学校生活が戻ってきた直後のホームルームで、担任は生徒たちにとってのさらなる一大イベントを持ってきやがった。

それは、席替えだ。それも普通の席替えでは無く、再来月にある研修旅行の班決めも兼ねた席替えだった。


男3人、女3人の6人で自由に一つの班を作れ、と担任は言う。簡単に言うがちょっと待ってくれ、その人数制限はかなり鬼畜だ。ぼっちの生徒は勿論、普通に友達が居る生徒にとってもこの仕様は鬼畜だ。

何故なら俺が組みたい班は、俺、吉川さん、柚瑠、樹、大輝の男4人、女1人だからだ。


「決まらなかったらくじ引きで勝手に決めるからな〜」と言う担任の言葉を最後に、教室ではガヤガヤと仲良い者同士が集い、班作りが開始される。


俺は吉川さんと同じ班になりたい。そう思って吉川さんを目で追っていると、吉川さんはいち早く柚瑠の席に行ってしまった。


「タケ〜、女子どうする?」

「あのへんの奴適当に声かける?」


俺の席に来て話しかけてきた樹と大輝は、もう男3人は決定のような口調で話しかけてきた。そんな樹と大輝に俺は「ん〜…」と柚瑠と吉川さんの方を見ながら返事に悩む。

するとそんな俺に気付いた樹が「あぁ、柚瑠?どうする?4人はできないよな。」と困ったような表情を浮かべる。


いや、そうなんだけど違うんだ。勿論柚瑠ともできれば同じ班になってやりたいという気持ちはあるが、俺は何より吉川さんと同じ班になりてえんだよ。仮にこの男3人で班を組んだとしても、吉川さんは柚瑠のところに行ってしまうだろうから俺たちは別の女3人と組まなければいけない。

なら俺は吉川さんと同じ班になるために、樹と大輝には悪いが柚瑠と同じ班になるべきでは?と自分本位なことを考えていた。


俺が柚瑠の方を見ていたように、柚瑠も一度俺たちの方に視線を向けてきた。席から立ち上がり、てっきりこっちに来るのかと思いきや、ふらりと別の方向に吉川さんを連れて歩き出そうとしている柚瑠に、俺はギョッとしながら慌てて柚瑠の名前を呼び、立ち上がる。


「柚瑠!」

「ん?」

「班どうすんの?」


柚瑠に声をかけながら、柚瑠の元に早足で向かう。


「あー、適当に二人組になってるやつらの中に入れてもらうわ。」


柚瑠は平然とした態度でそう言って辺りを見渡した。てっきり班決めに困り、柚瑠が俺と組みたがるかと期待した俺だが、思い上がっていたようだ。この状況でやけに落ち着きを見せる柚瑠に、俺は勝手に“何か”に負けた気持ちになって、悔しくなった。

“何か”っていうのは多分、柚瑠のこの“落ち着き”、“余裕のある佇まい”、俺が鬼畜だと思った班決めでも動じない振る舞いが男らしいと思ってしまったことだ。


「お〜い柚瑠〜、班決まってなかったら一緒に組もうよ。」


俺と会話していた横から、柚瑠に声をかけてきたのはバスケ部の女子だった。もう一人女子を連れているが、確かこの子は今はどうか知らないが柚瑠に気があった子だ。


「おう、お前ら女子二人?こっち吉川居るから入れてやって。」

「美亜いいよね〜。」

「うんいいよいいよ、吉川さんよろしくね?」

「うんよろしく〜。」

「男子は柚瑠とあと誰?富岡くん?」

「いや、まだ決まってな「うん俺。」…は?」

「柚瑠研修旅行の班だぞ?せっかくだし一緒の班なろうぜ。」


目の前で柚瑠と吉川さんの班が出来上がっていく様子に、焦った俺は柚瑠の肩に腕を回してそう口走っていた。

だってこの調子じゃ、あそこで二人で喋ってる男子二人組とかに柚瑠が声をかけたら俺が入る隙間なく呆気なく一班完成してしまう。


「なろうぜって、俺は別にいいから男子はお前ら3人で組めよ。」

「俺がお前と一緒が良いから言ってんだよ。」


『お前と一緒が良い』とか言いながら本音はもっとドロドロしているが、俺は必死だった。柚瑠と同じ班にならないということは、吉川さんとの距離が縮まるチャンスを逃すようなものだから。


俺の言葉に、柚瑠は困ったような表情で口を閉じた。
樹と大輝には俺が柚瑠と班になることを伝えると、友達の多いあいつらはさっそく誰か適当に男子に声をかけている。


俺が柚瑠と組むとなると、つまり後一人誰か男子をこの班に引き込まなければいけない。俺はふと気付く。このメンバーの中にあと一人だけ班に入りたがる男子は果たして居るのか?と。俺の自分本位な行動ひとつで、班決めの難易度を上げてしまったな、と少しばかり反省する。


しかしそう思ったのも束の間。


「なぁなぁ七宮の班一人余ってたら入れて〜、俺だけ溢れた〜。」


男子が一人、半泣きで柚瑠に声をかけてきた。


「まじ?丁度良かった、俺らも一人探してたとこ。」

「うわぁ七宮居て良かった〜。中学の時も同じ班になったことあるよな。」

「あー、そうだっけ?」


どうやらこの男子は柚瑠と同中のようだ。しかもそいつの方からそこそこ親しげに柚瑠に絡んでいる。

そんな光景を横で眺めながら、俺の胸の中はモヤモヤドロドロと黒い感情が流れる。俺は多分、柚瑠のことを侮っていたんだと思う。


イケメンでモテモテの俺の親友が好きになった相手は、正直運動だけが取り柄のような男だと思っていたんだろうな。

勉強は俺の方が出来るし、見た目も俺の方が気を使ってる。多分友達も俺の方が多い。決して柚瑠にマウントを取っていたわけではないが、心の中では取ってしまっていたかもしれない。


けれど最近は異様に柚瑠を意識している所為か柚瑠の良いところばかり目につくようになってしまった。真桜の影響では無いと思う。


今この瞬間も見つけてしまったことがひとつ。

俺の親友と、さらには俺の好きな子にまで好かれているこの七宮柚瑠という男は、“人から親しまれやすい”という長所があるようだ。


余ってる男子一人が嫌々班に加わるのでは無く、柚瑠が居る班を好んで自ら加わったこの結果に、俺は認めざるを得ない。


俺は、この男に負けている。


勝ち負けの問題では無いが、俺が勝手に自分の中で、自分の負けを認めてしまった。

真桜の恋人である柚瑠をライバル視するのはどう考えても間違っているのは分かってはいるが、吉川さんを振り向かせるには吉川さんの中にある柚瑠の存在を超えないことには俺に振り向いてはもらえないため、やはり俺のライバルは、この男なのである。


しかし敵視していることをバレぬよう、柚瑠の前で俺は必死に、平静を装った。


健弘余裕が無い おわり

[*prev] [next#]


- ナノ -