健弘真桜に話す [ 55/100 ]

放課後、当たり前のように真桜の家に遊びに来た俺は、当たり前のようにゲーム機のコードをテレビに繋ぎ始める。


「エロゲなんてやりませんからぁ。」


真桜に不満げな顔を向けて言うと、真桜はもう自分の発言を忘れたように「は?」と首を傾げる。


「真桜の冗談の所為で俺がエロゲやってるみたいに吉川さんに勘違いされかけただろーが。」

「エロゲくらいいいじゃん別に。」

「よくねーよ!俺にもイメージってもんがあるだろ!」


真桜くんわかるかい?俺は吉川さんにかっこいい男に見られたいわけよ。そりゃお前は黙っててもかっこいいからエロゲとか言ってもそこまでイメージダウンしないだろうけど俺は顔だけでは勝負できないわけ。顔、雰囲気、ファッション、利口さ、全ての魅力をある程度持ち合わせていたいわけよ。


真桜くんわかんねえか?俺が吉川さんのこと気になってるってこと。お前の片想いにもいち早く気付いたんだからお前も俺の片想いに気付けよこのやろう、という気持ちを抱きながら真桜の顔をジーと見つめるが、真桜は学校の帰りに本屋に寄って買って帰った漫画の新刊のビニールを必死に剥がしている。

指では剥がせなかったため、諦めてハサミを持ち出し、チョキ、とビニールの端を切る。


いや漫画に気を取られてんじゃねえ、俺の話を聞け。真桜は昔から漫画が好きで一度読み出したらぶっ通しで読み続けるので、真桜に漫画を読まれる前に俺は真桜に話しかけた。


「ぶっちゃけ吉川さん気になってんだよなぁ。」


真桜に視線を向けながらそう口を開くと、真桜の目がチラッと俺を見る。少しは関心を持ったか?と思いきや、漫画を読むために絨毯の上にゴロンと横になり、肘をついて足を伸ばす真桜。おい聞けー!!!!!


「でも吉川さん柚瑠のこと好きすぎて俺入る隙がまったくねえんだよなぁ。」


手に漫画を持って、読む寸前まできていた真桜が、柚瑠の名前を出した途端に漫画を絨毯の上に置いて起き上がった。


「吉川は俺のこと応援してくれてるし、柚瑠と仲良いのも友達としてだからタケが入る隙なんかいくらでもあるって。」


柚瑠の名前を出したからか、はたまた純粋に俺の恋の相談に乗ってくれる気になったのかは少し不明だが、真面目な顔をして俺にそう言ってくれる真桜。


「え、てか好きってこと?」

「うん、いいなって思ってる。」

「…え、どこが?」

「うわ、お前それすげー失礼。」

「あっいや、だって、…良い奴ってのはちゃんと分かってんだけど、やっぱ口悪いし態度悪いとこもあるし、タケが吉川のどこを好きになったのか普通に気になって…。」


言い訳をするようにそう話す真桜は、『理解できない』とかいう意味ではなく、ただ単純に『気になった』だけなんだろうな、と納得してやる。


「みんなが真桜のイメチェンにしか興味無い中で吉川さんは俺のイメチェンすぐ気付いてくれたし、似合うって言ってくれて、すげー嬉しかったりして、だんだん意識するようになった感じ?」

「ふぅん、吉川良いと思う。」


真桜はそう言って、またゴロンと寝そべり体勢を崩す。適当だな。本当に思ってんのか?

俺結構真桜の恋応援してやったんだけど?同じくらい応援しろ、とはわざわざ言わないがちょっとくらい関心持てよ。

って、そんな気持ちを抱きながらも何も言わずに真桜を見下ろしていると、真桜は漫画を片手に持ちながらまた俺に視線を向けてきた。


今にも漫画を読み出しそうな雰囲気だが、真桜は俺の顔を見つめながら口を開く。


「タケにはいっぱい応援してもらって、助けてもらったから、俺もできることは協力したいし、応援してるから。」


よ〜しよし、その言葉を待ってたぜ。

真桜から望み通りの言葉を貰い、『おお、それでこそ俺の親友よ。』って胸の中は喜びで溢れ、感動していたのも束の間、俺との恋話の興味はすぐに失せたように漫画を読み始めてしまう真桜にガクッと身体が脱力する。


…うん。まあ、それでこそ真桜だ。昔から人の恋愛話どうでもよさそうに聞いてたもんな。中学の時に俺が『◯◯ちゃんのこと好きかも』とか言ってもお前は『誰それ』って返すような奴だし、それなのに◯◯ちゃんは当たり前のように真桜のことが好きっていうお決まりの展開だ。


「真桜に応援してもらえんの心強いわー。協力、ってか、とりまもう二度とエロゲやるわ〜みたいな発言はやめろよ?俺がやってるみたいな勘違いされたらまじキツイ。」

「エロゲぐらいで吉川は引かねえから大丈夫だって。」

「いやそれよそれ!俺がガチでエロゲやってそうな感じに聞こえんだろーが!」

「はあ?なにもう分かったから。言わない言わない。」


最後はめちゃくちゃうざそうに返事をしながら漫画を読み始めてしまった真桜。

まあいいや、俺もゲームしよ。とカチッとゲームの電源を入れ、漫画を読んでいる真桜の隣で俺はゲームの続きを始める。


「あ、てか吉川さんって放課後なにやってんだろ?」

「さあ。」

「遊び誘ったら来るかな?」

「ん〜。」


…って、真桜くんよお。

ほんとに応援する気あんのかよ!?


一度漫画を読み始めてしまったら会話も適当になる真桜に、俺は諦めて口を閉じた。


健弘真桜に話す おわり

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