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騎馬戦が終わった後、午前の部の種目は全て終了し、昼休憩に入ると柚瑠はタカと一緒にバスケ部の方に行ってしまった。
俺はタケたちと4組の教室へ行き、昼飯を食べ、暇潰しに教室の窓からグラウンドを眺めていると、ユニホーム姿のサッカー部や野球部が外でリレーの練習をしている光景を目にする。
柚瑠も出るって言ってたから、もう着替えてるかな。
柚瑠も早くグラウンドに出てこねえかな。
ユニホーム姿の柚瑠が早く見たいな。
…なんて思っていると、背後から「真桜ー」と柚瑠の声で名前を呼ばれたんだがこれは幻聴か?
振り向けば、後方の扉から白いユニホーム姿の柚瑠とタカが教室に入ってきたところだった。二人とも片手にパンを持ち、もぐもぐと食べながら歩み寄ってくる。
「あれ?タカも部活対抗リレー走んの?」
机に座っていたタケに問いかけられ、タカは「ジャンケン負けて出ることになった。」と少し不服そうにしながらタケの方に向かっていった。
俺はこっちに向かってくるユニホーム姿の柚瑠をじろじろと見ていると、柚瑠はクスッと笑ってポン、と俺の頭の上に手を置いてきた。
「見せに来てやったよ。」
教室には何人か俺たち以外にも昼飯を食べている人が居たため、周りには聞こえないくらいの小さな声でコソッと柚瑠が俺にそう言った。
「うわぁ、なにそれ反則。ギュッてしたい。」
俺も小声でそう返すと、柚瑠は手に持っていた残りのパンを口に押し込みながら『待て』というように俺の顔の前に手を出す。
もぐもぐと口を動かし、口の中のパンを飲み込むと、突然柚瑠は「吉川ー」と名前を呼びながら、ガッと俺の肩に腕を回して、グイグイと吉川の方へ歩き始めた。
「ん?なに?」
「写真撮って。」
「いいよ〜ん。」
吉川の目の前まで歩いてくると、吉川は俺たちの方にスマホを向けてくる。
「撮るよ〜。はい、キッス。」
ふざけたことを口にする吉川だったが、カシャ、と音がしたと同時に柚瑠の唇がぶちゅ、と俺の頬に触れた気がした。
しかし一瞬過ぎて何が起こったか俺はまったく分からない。
「うわっ!柚瑠やりやがった!!!」
「ちょっ、おまっ、びっくりするわ。」
「キャ〜、超良い写真撮れたんだけど〜。」
目の前では、はしゃぐ吉川と驚いているタカとタケ。それに樹と大輝も、俺と柚瑠を見て唖然としている。
こいつらの反応を見て、俺は時間差で顔から火が出そうになるくらい、熱くなってきてしまった。
俺はこんなに友人たちの前で恥ずかしくなってるのに、柚瑠はそんな素振りすら見せずにニッとやんちゃな笑みを見せる。
いくら頬にキスしたからと言っても、傍から見ればふざけてるように見えるのだろうか。柚瑠は多分、それが狙いなんだろうけど…。
なんとなく恥ずかしがっているのを悟られるのが恥ずかしくて、柚瑠の腕をグーで殴ると、柚瑠はやっぱり陽気に歯を見せて笑っていた。
先日、『ハグくらいしてたって、べつにどうってことないかな。』なんて柚瑠がぼやいていた時のことを思い出した。
『女子だってさ、仲良い子同士でよくくっついてるよな。手繋いだりもしてるし。』
『そしたらそのうち、それが周りの奴らの日常風景になって、俺たちのことなんて誰も興味も持たなくなるといいな。』
柚瑠がそう話していた日から、どこか吹っ切れたような態度で俺に接してくれるようになった。
楽しそうな、笑顔の柚瑠を見れるのは俺も嬉しい。
柚瑠が俺と一緒に居てしんどい気持ちにならないことが、俺にとって一番望ましいことだ。
写真を撮ってすぐ柚瑠は、バスケ部の方に行くようでタカと一緒に教室を出て行ってしまった。どうやらほんとに俺にユニホーム姿を見せに来てくれただけなのかもしれない。
どうしよう、すげー嬉しい。
好きすぎる。好きすぎてどうしよう。
さっき柚瑠の身体と触れ合っていた部分が熱くて、もっと触れていたくて物足りない。頬じゃなくて、唇にキスしたかった。
「おい真桜、お前の顔が分かりやすすぎて見てらんねえよ。」
「いてっ」
暫くぼんやりしてしまっていると、タケにペシンとハチマキで顔を叩かれた。痛みに顔を手で押さえていると、「真桜の態度はあからさまだよな。」と樹と大輝にもコソコソと言われている。
そんなに俺は顔に出るのか…と、顔を押さえている手が外せなくなる。
姫井さんにも分かりやすいって言われてしまったし、これからはまた柚瑠にいきなりあんなことされても、あまり顔や態度に出さないようにすることが、俺の今後の課題となった。
柚瑠を好きになって1年半。去年の今頃は俺の片想いだったのに、柚瑠が今と同じユニホーム姿で俺にハグさせてくれた時のことを今でもはっきり覚えている。
午後の部が始まってすぐ、俺の好きで好きでたまらない人は、部活対抗リレーのアンカーで爽やかに、かっこよく、前を走るサッカー部を追いかけている。
柚瑠の方がそいつより少し速くて、差を縮めてゴールした。呼吸を整えながら、バスケ部員たちと一緒にグラウンドの中央から外に移動する。
声をかけに行きたいのを我慢して柚瑠を目で追っていると、柚瑠はキョロキョロと辺りを見渡している。そして俺の方に柚瑠の視線が向けられると、笑みを浮かべてひらりと俺に手を振ってくれた。
去年はまさか自分のこの恋が実るなんて、思ってもいなかったのになぁ…と、去年のことを振り返りながら、2年目の体育祭は、この幸せをたっぷりと噛み締めた。
2年目の体育祭 おわり
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