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「あ!次真桜だぞ!」
「うわーやる気なさそー。」
「真桜がんばれー。」
「真桜くんがんばれー!!」
無表情でぼんやりと障害物競争のスタートラインに立っている真桜は、俺やタカ、健弘、吉川の応援がちゃんと届いたようでこっちを向いて小さく手を振ってきた。
やる気なさそうなのにわざわざ手を振ってくれたのが可愛くて、思わず笑みが溢れる。
『パン!』とピストル音が鳴ると、一斉に駆け出して平均台に向かう男子たちの一番最後に、真桜がゆっくりと後を追う。
見ての通りのやる気の無さで、俺の隣でタカが「おいおい…」と呆れている。
ネットを潜り抜けるまでビリだった真桜だが、ぐるぐるバットでぐるぐるし過ぎてよろめいている男子を、あっさりと抜かしていきビリを回避した。
ひょい、と軽やかにハードルを飛び、いつの間にか済ました顔で3位になっている。
丁度顔の位置に吊るされていたパンをガブ、と咥えてクリップから引っこ抜き、真桜がゴールした時にはまだみんなパン食いに苦戦しているところだった。
「はっ!?高野一位かよ!!!」
「真桜つえー!!!あいつ自分が一位なことに自分が一番驚いてるぞ!!!」
『あれ?』と言う顔をしながらパン食いをしている男子を見ている真桜に、タカと健弘が手を叩いて笑っている。
暫く笑いが止まらなかったタカと健弘を睨むように俺たちのところに帰ってきた真桜は、片手に持っていたパンを「ん。」と俺に差し出してきた。
「くれんの?」
「うん。」
「やったー食べよ。」
真桜の歯形が付いたあんぱんだ。袋から取り出し食べていると、タカが羨ましそうに見てくるので、半分に割ってやった。
「高野真桜の歯形んとこほしい?」
「いらなさすぎる。」
冗談で聞いたらタカに全力で拒否されてしまったため、真桜の歯形が付いてる方は俺が美味しくいただいた。
俺もタカも健弘も騎馬戦まで出番が無いため、グラウンドの隅の日陰になっているところに移動し、召集がかかるのを待つ。
普段インドア派な真桜は、もう疲れてしまったのか、ぐったりと俺の肩に頭を乗せて凭れかかってきた。
サラサラと真桜の髪に指を通すように触っていると、「ナチュラルにイチャつくのやめろ。」と健弘に注意されてしまう。
「イチャついてるように見えんの?」
「見えるだろ。なあタカ?」
「さぁ。高野が眠そうとしか思わん。」
「ならいいや。」
ほんとはギュッとハグしたいのを我慢してるくらいなんだぞ。と、呆れるような目で俺と真桜を見る健弘をスルーして、俺は真桜の髪をよしよしと撫でた。
*
「七宮隠す気無くなった?」
騎馬戦の召集がかかったため、『行ってくるな』と言いながら俺の髪をわしゃわしゃと撫でてから歩いていった柚瑠の後ろ姿を眺めながら、吉川が俺にそう言ってきた。
「隠すの疲れたみたいなことは言ってた。」
「そりゃそうよね。あたしも疲れちゃったぁ。」
「は?」
なにが?
突然ぶりっ子するような態度でくるくると指で髪をいじり出した吉川を無言で見ていると、吉川も暫し無言で俺のことを見つめてきたあと、いきなりサラッとぶっちゃけてきた。
「タケくん絶対あたしのこと好きだよね〜。めっちゃ優しいしぃ、もう見ててバレバレでね〜、あたしまでそんなタケくん見てるとドキがムネムネしてくるの〜!」
ブリブリにぶりっ子して両手を合わせてくねくねと身体を動かしながら話す吉川に引いた目を向けてしまったが、これはタケにとって喜ばしい話だ。
「え、じゃあ付き合えば?」
「うん、今日告白しちゃおっかな〜。」
「良いと思う。」
「実は思わせぶりだったらしばき倒す。」
「大丈夫。両想いだよ。」
あ、言ったらまずかったかな。
いやでももうバレてるし。
俺のその言葉を聞いた吉川は、少し頬を赤くして嬉しそうに笑っている。良かったな、タケ。せっかく告白する作戦立ててたけど意味無かったかも。
「真桜くんとは今年も体育祭で恋話してるね〜。」
「あ、ほんとだな。吉川とは去年の体育祭からなんでも話せるようになってきた気がする。」
「相談ならいつでも乗るよ。」
「うん、サンキュー。吉川も。」
そういや去年の体育祭でも吉川となんかいろいろ話したな。って思い返しては少し懐かしくなりながら、今年も吉川と喋りながら体育祭の暇な時間を過ごした。
吉川と喋っていたらまったく見ずに終わった玉入れの後、ようやく俺が待っていた騎馬戦が始まった。1年生の騎馬戦が行われている間、柚瑠は待機場所でタケたちと楽しそうに喋っている。
いつも俺の側に居てくれる近しい存在になれたのに、俺はいつまで経っても柚瑠のことを、目で追いかけてしまうのだった。
その後行われた騎馬戦は、自分のクラスそっちのけで柚瑠の応援をしてしまった。気付いた時にはタカが騎馬を崩して戦場の外に出ている。
柚瑠のクラスはただでさえTシャツが目立つ色をしているのに、更にタケと樹が腕が辛そうでギャーギャーと騒がしく戦っているから余計に目立っている。
そんなうるさいタケたちに、柚瑠は腕をキツそうにしながらも笑顔で楽しそうに戦っていて、見ている俺まで楽しい気持ちになれた。
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