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【 2年目の体育祭 】


体育祭当日が迫った体育の授業では、体育祭に向けての自由練習の時間が与えられた。


俺が出ることになったのはリレーと、あと健弘たちから騎馬戦に誘われたから、健弘と仲良い友人たちで集まって騎馬を組む練習をしている。


俺が一番背が高いからという理由で馬の頭にさせられ、上に乗るのは一番小柄な大輝という健弘と仲の良い友人だ。


「「「いっせーのーで!!!」」」


俺と健弘、それともう一人の友人、樹と声を合わせてグンと一気に大輝を担いで立ち上がった。


「お〜安定してるな。」

「大輝軽いな。結構余裕だわ。」

「俺腕の筋肉ねえからちょっとキツイ。」


そんな感想を言い合いながら、同じクラスの騎馬と向かい合い、戦闘の練習をする。


「あー痛い痛い痛い腕痛い!!!」

「いっぺん降ろすか?」

「降ろす降ろす!!!」


まだ少ししか練習していないのに健弘が腕を痛がり出した。お前そんなんで本番大丈夫なのか?


「やっべーわ、俺もやしだな。」

「タケ安心しろ、俺ももやしだ。」

「大丈夫かよ、今ならメンバー変更できると思うけど。」

「いや、やる。もっかい練習しよう。」


フン!と鼻息を荒くしながら体操服の袖を肩まで捲り、健弘はやる気満々で再び騎馬作りを促した。


体育の授業が終わったあとは、健弘も樹もヘトヘトになっていた。自由練習なのだからサボりがちな生徒がほとんどの中で、ぜえはあ息切れしている二人は周りから少し笑われている。


「こんなに全力で練習してんの俺らだけだったぞ。」

「はっず。さっき3組のやつに4組やる気満々じゃんって言われてたからな。」

「何故かタケがやたらやる気満々だったしな。」


樹と大輝で更衣室に向かいながらそう話していると、健弘は俺たちの会話を聞きいきなり黙り込んだ。


「おい健弘?」

「ん?タケどうした?」


声をかけても静かに地面を見ながら歩き続けていた健弘だったのだが、不意にパッと顔を上げ、突然決意するように口を開いた。


「俺、体育祭の日に告るわ。」


「「「…は???」」」


俺、樹、大輝が3人同時に同じ反応を見せる。

告るって言ったか?一体誰に?


そう思ったのは俺だけではなかったようで、すぐに大輝が「誰に?」と俺が聞きたかったことを問いかける。



「吉川さん。」



その名前を聞き、空いた口が塞がらなかった。

…健弘、おまえ…そうだったのか。


その後、更衣室で俺の隣に来た健弘が言ってきた。


「ぶっちゃけ柚瑠はライバルだった。」

「…はい?」


ライバル?俺が?

さすがに意味不明で失笑を漏らすと、健弘は真面目な顔をして話を続ける。


「吉川さんが言うんだよ、前まで自分の性格はすごいひどかったって。」

「ああ、確かにひどかったな。」

「でも俺はそんな吉川さんを知らないわけよ。なんでだと思う?」

「クラス一緒になんのが遅かったからだろ?」

「それもあるけど違う!!」

「はあ?じゃあなんだよ。」


体操服を脱ぎ、半裸になった健弘は、腰に手を当てて仁王立ちしながら俺の目をジッと見つめてきた。

しかし俺は、そんな健弘の顔より腹の方が気になって目線が下を向く。


「俺が吉川さんと知り合った時にはもう吉川さんは柚瑠と仲良くなってて、柚瑠と仲良くなったおかげで性格が丸くなった…って、おい!聞いてんのかよ!!」

「聞いてる…けど、お前もやしとか言ってたわりに腹に肉ついてるな。気を付けないとだんだん出てくるぞ。」

「ぎぇっ!?」


健弘のハーフパンツの腰ゴムの上らへんにある腹の肉を摘むと、健弘は変な声を出しながら俺の手を振り払い、腹を両手で隠した。


「健弘ゲームしながら菓子ばっか食ってるもんな〜。体育祭までの間ちょっとくらい筋トレしろよ。」


だから騎馬戦練習でもすぐにへたばるんだ、と笑いまじりに話しながら俺も体操服を脱ぎ、着替えのシャツを手に取ったところで、健弘にバッと腕を掴まれ手を挙げさせられた。


そして今度は健弘が、ジッと俺の腹を見つめる。


「ああ、腹筋?筋トレしてたらすぐ割れるぞ。」


俺のその発言に、健弘はぐっと唇を噛み締めた。


「……筋トレする。」

「おう。吉川も筋肉質な男の方が好きなんじゃねえの?」


実際そこまで吉川の好みの男を知ってるわけではないものの、モミモミとよく二の腕を揉まれるのを思い出してそう口にすると、ムスッとした顔の健弘に「それは筋肉質じゃなくてお前だよ。」と言われてしまった。


そんな不機嫌そうな顔されても。一体いつから吉川のことが好きなんだ?全然気付かなかったぞ。


「いやでもこれだけは言える。健弘のその腹見たら吉川に絶対イジられるぞ。性格丸くなったっつっても口はまだまだ悪いからな。」


…まあ、吉川が健弘の腹見る段階までいったら…、の話だけど。って言葉を付け足す前に、健弘は再び宣言した。


「…柚瑠、助言サンキューな。俺、筋トレするわ。」

「おう。がんばれ。」





そして健弘が筋トレをすると宣言した週末、俺とタカは部活後に健弘に呼び出され、真桜の家に集まっていた。


部活後でクタクタの俺とタカまで巻き込んでスタビライゼーションをしている健弘だが、ピピピッとタイマーが鳴る数秒前に、「うがー!!!」と雄叫びをあげながら絨毯の上に顔を突っ伏している。


「おいー、お前体幹無さすぎだぞ!!」


そう言うのは、俺ではなくタカだ。体力は無い方だけど、しっかり筋肉はあるタカに言われた健弘は悔しそうに「キー!!!」と猿みたいに叫びながら、床をダンダンと叩いている。


そんな様子を笑いながら眺めている真桜は、筋トレには参加せずにスマホのタイマーを新たにセットした。


「はい、次いくぞー。」


真桜の掛け声に合わせて、健弘はケツを浮かし、プルプルと耐えるようにまた絨毯の上に片腕をついた。



「ハァ…ハァ…ハァ…しんど…」

「タケ顔こっわ。」

「うるせー!!!真桜もやれよ!!!」

「真桜はべつにやらなくていいだろ。」


真っ平らな真桜の腹をなでなでと撫でながら言うと、恥ずかしそうに手を払われた。


「真桜はそのままでも健弘みたいにぽにょぽにょしてないし。」

「ぽにょぽにょってお前、サラッと酷いこと言うな!そこまでぽにょついてねえわ!!!」

「どれどれ、俺が確認してやろう。」

「おいやめろ!今はまだ見るな!ギャッ!!!」


話の流れからタカが健弘の腹を見ようとシャツに手を伸ばし捲り上げると、必死に腹を隠そうとした健弘は一歩間に合わず、グニッとタカに腹の肉を摘まれた。


「あらま〜、こりゃぽにょですねぇ。」

「だろ??」


真顔で言うタカが面白くて笑いながら相槌を打つと、健弘は「キー!!!」とまた悔しそうにしながら真桜にタイマーをセットしてもらい、筋トレを再開した。

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