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【柚瑠の気持ち】


健弘から、吉川がリサちゃんに何を言ったのかを聞いた。吉川の口悪く罵っている姿を想像していた俺には信じがたい話だった。


『泣いて反省してたっぽい。』


そう話す健弘の言葉に、反省しているのならそれでいいはずなのに、気分はモヤモヤしっぱなしでずっと晴れない。

それは、俺自身が人目あるところで下級生の女子を責め立ててしまったという少しの罪悪感と、姫ちゃんへの申し訳のなさからくるものだと思う。まあそれももう後の祭りで、あとはこの話題がバスケ部内で忘れられるのを待つばかり。


「柚瑠、なにを気にしてる?」


真桜が俺と話したいって言うから学校帰りに家にお邪魔したけど、いろいろ考えていたら口数が減ってしまっていた。

心配そうに俺の顔を覗き込みながら、俺の腹に腕を回して抱きついてきた真桜の頭を撫でてやる。


「…んー。よく分からん…。なんかもうなんも考えたくない。」


俺はそう言って真桜の方を向き、真桜の胸に頭を押し付けながら抱きついた。みんな人のことなんて気にせず、ただ自分のことにだけ向き合っていればいいのに。

俺はずっと平穏に、誰にも邪魔されず真桜のことだけ想っていたい。


真桜に触れているのが心地良くて、ホッと息を吐きながらだらんと身体の力を抜くと、今度は真桜が俺の頭を撫でてくれた。


「柚瑠は優しいから、人のことまでいろいろ考えちゃうんだな。」


…別に、そんなに優しくないけど。全然人のことなんか考えてない。ただ自分と真桜が居心地良く学校生活を送れるように、ってことばかり考えている。


「でも、あんまり考えなくていいよ。そんな暇あったら俺のことだけ考えてて。」


真桜は俺に甘えるようにそう言って、俺の顔を覗き込んで、チュッと唇を重ねてきた。


「言われなくても実際そうしてるんだけど。」

「じゃあもっと。」


子供みたいにわがままなことを言って、ギュッと俺を抱きしめて、俺の肩にグリグリと顔を押し付けてくる真桜。可愛いな。


真桜と触れ合っていたら随分気持ちが楽になった。確かに姫ちゃんのこととか、バスケ部のこととかあれこれ考えすぎていたかもしれない。

真桜との関係が周りに言えないからって、変に自分に話題が向かないようにするために必死だった。


でもなんか、もう疲れたなぁ。


冷やかされたり、好奇の目を向けられるのは勿論嫌だけど、別に悪いことをしてるわけでもないし、バレたらバレたで開き直って、存分に真桜と学校でイチャイチャ仲良く過ごすのも有りかもしれないなぁ…なんて。ほんとにただの開き直りだ。


「ハグくらいしてたって、べつにどうってことないかな。」

「ん?ハグ?」

「うん。真桜とぎゅーって。学校で。」


その言葉通りに両手で力いっぱい真桜の身体に抱き付くと、にやけるように真桜の口元がゆるゆると緩んだ。


「柚瑠が良いって言うなら俺もやる。」

「女子だってさ、仲良い子同士でよくくっついてるよな。手繋いだりもしてるし。」


さすがに俺たちが手を繋いで歩くのはまずいけど、開き直って少しそんな話をしてみると、真桜はうんうんと楽しそうに頷いた。


「そしたらそのうち、それが周りの奴らの日常風景になって、俺たちのことなんて誰も興味も持たなくなるといいな。…まあ、相手が真桜じゃそれも無理かもしれんけど。」


現実逃避でもしてるのか、真桜にくっついているのが心地良すぎて、ぽろぽろと口から溢れるのは俺の願望だった。


「俺はもっと柚瑠との関係疑われたいくらいだよ。」

「はぁ?わざわざ隠してるのに?」


俺は必死で隠してるのに、俺とは真逆のようなことを言ってる真桜におかしくて少し笑ってしまった。


「だって柚瑠は俺の自慢だから。」

「…それはこっちのセリフなんだけどな。」


真桜と話していたら、肩の力が抜けてなんだか気持ちが楽になった。

ん〜っと真桜の胸にぐりぐりと顔を押し付け続けていたら、「うわっ」と身体のバランスを崩して絨毯の上に真桜を押し倒すような体勢になる。それもそのはず、俺の方が体重重いし。


下から俺を見上げる真桜に、俺は自分からキスをしようと顔を近付けると、真桜はゆっくりと目を閉じた。


綺麗な顔。眉毛かっこいい。鼻筋が通ってて、唇の形も綺麗だ。

キスをせずジッと真桜の顔を見下ろしていたら、ゆっくりと真桜の目が開き、そして俺と目が合い、恥ずかしそうにカッと顔を赤くした。


「えっ待ってたのに!!!」


どんどん顔が赤くなる真桜に笑っていたら、勢い良く上半身を起こし、ガブッとやけくそにキスされる。


あーもう、可愛いなぁ。俺の真桜。


こんなに真桜のことが好きなのに、学校では好きな気持ちを隠してばかりで疲れたから、

ちょっとくらい…

自分のやりたいようにやろうかな。


柚瑠の気持ち おわり


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