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「侑里はどこまでしたことあるん?」


自分たちの話をしたあと今度は永遠に俺の事を聞かれてしまった。


「どこまでって?」

「てか侑里って童貞?」


ストレートすぎる永遠のそんな問いかけに、浅見が一瞬ギョッとした表情を浮かべている。見た目に反して永遠より浅見の方が純情そうな性格だ。


「どっちやと思う?」

「元カノともう済ませてそうなイメージ。」

「俺やったことないで。」

「えぇ、ほんま?」

「ほんまほんま。」


嘘はついてないのに永遠に疑うような目を向けられた。俺ってどんだけ遊んでそうなイメージ持たれてるんだろう。


「何人と付き合ったことある?」

「一人。」

「嘘や。それは絶対嘘。」

「なんでやねん!!ほんまやわ!!」

「俺の知ってるサッカー部の奴、中学の間だけで5人以上と確実に付き合ってたで。」


うわ出た、永遠の知ってるサッカー部の奴。
そいつが永遠に“サッカー部=遊び人”みたいなイメージを植え付けてるに違いない。


「永菜も似たようなこと言うててんけど。同じ奴のこと言うてる?」

「近所に住んでた俺の同級生やねんけど姉ちゃんもそいつに口説かれてたからな。」

「うわっ!!なんやそいつカスやん!!」


最悪や!絶対そいつの所為で俺まで永菜に誰彼構わず口説いてる男みたいに見られてそう。


「そういう奴は告られたらとりあえず付き合ってみるタイプやろ。俺はそんな軽いことせえへんで。」

「ん〜そうなんかな。彼女いるっぽいのに姉ちゃんに『俺と付きあってみませんか?』とか言うてきたらしくて姉ちゃん家でボロクソ言うてたわ。」

「あ〜カス!!まじでカス!俺はそんな奴ちゃうからな?永菜に言うといて、俺ほんまに一途やから!」

「ほなその唯一の侑里の元カノも侑里の方から告ったん?」

「…え?…まあ、…うん。」


また話題は俺の話に戻り、あんまり過去のことを思い返したくない俺は永遠の問いかけに渋々頷くが、すぐに目敏い永遠に「なんか聞かれたら嫌そうな顔やな」と突っ込まれてしまった。


「聞かれたら嫌というか、好きじゃなくなって別れてるからもうどうでもいい人のことは思い返したくないねん。」

「…おぉ、…冷たいような、ある意味誠実でもあるような。未練は0って感じだな。」

「未練0どころかマイナスやわ。復縁迫られてめんどくさかった思い出しかない。」


相手は先輩だったのと、好きになったのが俺からだったから多分ちょっと強引に行けば俺が折れるとでも思っていたのだろう。とにかく俺が振った後の相手の押しが強すぎた。そんな子に未練など抱くはずもなく、相手の好きだったところまで嫌いになりそうだからもう思い出したくもないのだ。


「すごいやん、復縁迫られるんや。元カノにめっちゃ好かれてたんやな。」

「ちゃうで、俺の中学サッカー部有名やったからサッカー部の彼氏逃したくなかっただけやで。俺と別れた後また別の後輩に手ぇ出しとって幻滅したわ。」


あーあ、これは好きだった人が一気に嫌いになってしまったエピソードだ。俺の気を引くためなんて言ってるやつもいたけどあんな気の引き方は逆効果だと思う。ただの男好きにしか見えなかったし、今まで俺はあの人のことを好き好き言ってたのか…とちょっとショックを受けたくらいだった。


「…うわぁ、侑里の元カノちゃっら〜…。」

「そうやで、俺がちゃらいんちゃうで?永遠俺のことチャラいチャラい言うけど。」

「ごめん。だって姉ちゃんにライン聞いてた時めっちゃチャラかったんやもん。」

「…まあ、言い方ちょっとあれやったな。気をつけるわ。」

「ふふっ…うん、気をつけて。」


高校生になって、あんまり人に話したことなんてなかった自分の過去の恋愛話をしてしまったが、まあ永遠の中で俺のイメージが変わったなら良しとしよう。


中学の時は俺もまだまだガキで、その先輩がめちゃくちゃ魅力的に見えていたけど正直中身まではあんまり見えていなかったな。


永菜のこともひとめぼれだけど、まだ永菜は俺のことを“弟の友達”という目で見ているから、少しずつ距離を縮めていく中で俺も永菜のことをいっぱい知っていきたいと思う。


「俺ほんまにがんばるし。永遠姉ちゃんの彼氏が俺になっても嫌がらんといてな。」

「もう嫌がってないやん。応援してあげてるやん。」

「うん、せやな。ありがとう。ほな俺が永菜で童貞卒業しても許せよ?」


そう言った瞬間、その場がシーンと静かになってしまった。

…うわ、あっ、あかん、…失言してもうた!


永遠の顔を見ると、永遠の表情はこの一瞬でめちゃくちゃ険しい顔になっている。


助けを求めるように浅見に視線を移すと、浅見は優しげな顔をして口をずっと閉じっぱなしだ。


「お、おほん」とその場を取り繕うように咳払いして「永遠?」と名前を呼ぶと、ギロッと睨まれてしまった。


「姉のそういう話聞きたくないから次言うたらもう侑里の応援してやらへんからな。」

「ごめんなさい。もう言いません。」


下ネタがわりと平気そうな永遠でも、身内の事となるとNGのようだ。俺が好きな人で童貞を捨てたいと思う気持ちは当然のことだが、うっかり口にしてしまったことに反省する。

だから永菜も弟の友達は恋愛対象外なんだろうなぁと、俺はこの時痛感した。


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