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朝の5時半に起き、6時半に永遠くんのお父さんが永遠くんを乗せて車で俺の家まで来てくれて、駅まで連れて行ってくれた。

永遠くんのお父さんは自分の仕事の都合で永遠くんが転校しなければいけなくなったという負い目があるようで、俺が永遠くんと学校で仲良くしていること、それから京都にも永遠くんと一緒に旅行することを感謝されてしまった。

そんなに感謝されることでもないのになぁ…と思いながらも、永遠くんのお父さんの気持ちを考えたら、息子が転校先の学校で新しい友達と仲良くできていて自分が“安心”できた、そういう“感謝”かなあとも思う。


「俺も永遠くんと仲良くなれて、毎日楽しく過ごさせてもらってます。」なんて言ったら、永遠くんのお父さんさんは嬉しそうににこにこと笑っていて、その表情は永遠くんに少し似ている。

永遠くんのお父さんと話しながら、永遠くんはお父さん似かなぁってこっそり考えていたら、すぐに駅に到着した。


「お父さんありがとう!」

「ありがとうございます!」

「うん、気ぃ付けて行ってきぃや。」


永遠くんのお父さんにお礼を告げると、笑顔で俺たちを見送ってくれる永遠くんのお父さん。ほのぼのしていて凄く優しそうだ。


それからまた電車に乗って新幹線が止まる駅まで行き、改札を通り乗り場へ向かう。ホテルも新幹線の切符も全部永遠くんのお父さんが取ってくれて、指定席にしてくださっていたから慌てることなくホームに到着し、予定通りの時刻に新幹線に乗り込んだ。


頭上の荷物置きに鞄を置き、二人掛けの座席に腰掛ける。奥側の座席に座った永遠くんは、「眠い」と言って俺の肩に頭を乗せてくる。

かわいくてその頭をよしよししてしまい、通路を歩いて行った乗客にチラ見されてしまったが、どうせもう二度と会わない他人だからって、気にせず永遠くんの頭を撫でたあと永遠くんの手を握った。

永遠くんはチラッと繋がった手を見下ろした後、クスッと笑みを漏らしてくる。


「恋人繋ぎや。」


俺の耳元でコソッと小さな声でそう口にしてきた永遠くんは、俺の手を離すことなくずっと繋ぎ続けてくれた。かわいくてかわいくて、手を繋いでない空いている方の手でまでまた永遠くんの頭をよしよししてしまった。


普段なら長く感じてしまう新幹線に乗ってる時間も永遠くんと一緒ならあっという間で、気付いた時にはもう京都だ。


「うわぁ!久しぶりの京都や!ただいまぁ!」


新幹線を降りて、永遠くんは【 京都 】と書かれた駅名標を見上げながら嬉しそうに万歳している。


「郁馬に写真送っとこ!」


カシャ、と自撮りで写真を撮ったあと、すぐに友達に写真を送っているようで、横から画面を覗き込むと、すぐにその友達から【 着いたん!? 】と返信が届いていた。あまりに反応が早すぎて、俺は心の中で苦笑いしてしまった。友達も早く永遠くんに会いたくて仕方ないのだろう。


京都に着いたのは9時半を過ぎた頃で、ロッカーに荷物を預けて近場のカフェで少々腹ごしらえをしてから地下鉄に乗り、京都市の中心街へ移動する。


「郁馬が暇やからそっち行くって言うてめっちゃ居場所聞いてくる。今日は光星とデートする日やねんけどなぁ…。」

「永遠くんに早く会いたいんじゃねえの?俺は大丈夫だから呼んでやったら?」


ほんとは二人が良いけど俺はこれからも永遠くんとずっと一緒に居られるから…って、余裕の態度を見せたら、永遠くんは「ん〜…。」と悩みながらスマホ画面を見つめている。


「ほな今から銀閣寺と南禅寺行ってくるって返事しとくわ。郁馬は観光地興味ないやろうし観光終わってから会おって言っとこ。」


永遠くんはそう言いながら返信文を打ち、送信するとズボンのポケットにスマホをしまってパッと俺を見上げてきた。にこっと笑って「行こか!」と俺の手を繋いで来たから、『えっ!?こんな街中で手、繋ぐんだ!?』と少し動揺してしまった。

でもすぐにその手は離れていき、永遠くんはタタッとバス停の時刻表の方へ駆け寄る。


「あっ!ラッキー!もうちょっとでバス来るわ。」


バス停にはすでに何人か並んでおり、最後尾の列に並ぶと今度は手を繋ぐのではなく俺の腕をギュッと握ってきた。人前で手を繋ぐのは抵抗があるけど、触れるくらいなら平気なのだろうか。何にせよ、永遠くんの方から触れてきてくれるのが嬉しくて、かわいくて、俺は緩みそうになる頬を堪えながら腕を掴まれ続けていた。


30分程度バスに揺られ、バスから降りて少し歩いたら目的地に辿り着いた。

受付で拝観料を払い、中に入って庭園を歩いているとすぐに銀閣寺が見えてくる。しかし永遠くんは銀閣寺を少しも見ることなくトコトコと歩いて行ってしまった。


「…えっ?」


俺は立ち止まり、どんどん離れていく永遠くんの背中を目で追っていたら、立ち止まっていた俺に気付きまた戻ってくる。


「銀閣寺どこにあるんやろ。」

「えっ?ここにあるけど…」


そう言って俺は銀閣寺の建物を指差せば、「えっ?」と俺の指の先を目で追った永遠くんがハッとした顔をして「あっ!!これか!!」と目を見開いてびっくりしていた。嘘だろ?ガチで気付かなかったのか?一瞬ギャグかと思ってしまった。


「くっくっくっ…え〜?なんなんだよその反応…普通気付くだろ。もーびっくりするわ。」

「もっとおっきい建物がデデン!と立ってるんかと思ってたわ。結構ちっさいんやな。」


そう言ってへらっと笑いながらも、しっかり『カシャ』と写真を撮っているから、俺はそんなかわいい永遠くんの姿が入るように写真を撮っておく。


「銀閣寺のイメージちょっと変わったなぁ。いやぁ〜来てよかったわ。光星ありがとうな。」

「俺も永遠くんと来れてよかった。銀閣寺ちっさいイメージに変わった?」

「うん。あと庭がめっちゃ綺麗やな。」


あんまり長居はすることなくその場を後にし、帰り道を歩きながら「写真で見てただけでは分からんかったな〜」と感想を口にしている永遠くんは、最初銀閣寺をスルーしていたわりにはそこそこ満足そうだった。


銀閣寺の観光を終えると、次に南禅寺へと続く道を歩いた。徒歩数十分かかる距離ではあるが、永遠くんは「この道なんか来たことあるなぁ」と懐かしそうに歩いているから、そんな永遠くんと話しながら一緒に歩いていたら南禅寺に到着するのもあっという間だ。


永遠くんは何故かここへ来て口数がうんと減り、南禅寺を見上げながら何か考えるように黙り込んでいる。


「ん?永遠くんどうした?」

「……俺ここ来たことあるかもしれん。」

「えぇ??」


来たことないとか言っていたのに、実際その建物や風景を前にしたら幼い時に来たことがある記憶を思い出したらしい。もしかしたら銀閣寺も行ったことあるんじゃねえの?って疑ってしまうな。


「お寺の名前もよく分かってない頃に行っててもそんなん覚えてるわけないやんな。」

「ふふっ…あー、まあなぁ。」

「光星くんよう見ときや?これが南禅寺やで?」

「うんうん、分かった。ちゃんと覚えとくな。」


…って、俺はすでに1回来たことあるから覚えてたけど。永遠くんの頭をよしよしと撫でながら返事をすれば、永遠くんは楽しそうににこにこと笑っていた。


俺が人生で2回目に来た南禅寺での思い出は、きっと永遠くんの笑顔とセットで俺の記憶に残るだろう。


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