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どこに行ってもチャラチャラと音が微かに漏れ聞こえてくるカラオケ店内の人気の無い方へ、芽依を強引に引っ張り連れて行った。


『卒業して、高校に入学してからも全然侑里のこと忘れられなかった。いっつもあたしの名前呼んで走ってきてくれた侑里の姿を思い出しちゃう。あたしは侑里のこと大好きだったのに…なんであたしは振られなきゃいけなかったの?』


黙って話を聞いていればよくもまあ頭の中お花畑なことをぺらぺらと。


“あたしは大好きだったのに”?

それは俺の方が言えたことだ。

“なんで振られなきゃいけなかったの?”

お前それほんまに分かってないん?


気持ちはもう完全に冷めきっている女を前にして面倒だけど、これが本当に最後だと思って、俺はちゃんと芽依に向き合ってやることにする。


「芽依ほんまに自分がなんで振られたんか分かってないん?俺何回も言うてたやんな?俺が嫌って言うことを芽依が全然聞いてくれへんかったからやで?俺がサッカーの練習してる時、ずっと男と一緒におったやろ。俺とおらん時はいっつも男と仲良さそうにしてたやろ。俺あれほんまに嫌やってんで?」

「……その話し方やめてよ。苦手って言ってるじゃん。」

「……は?」


…え、待って?それ今言うん?

この場で話し方まで気ぃ使わなあかん?

人がせっかくちゃんと向き合って話してやろうとしてる時に言う事?


前は自分の好きな先輩のわがままとかは可愛く思えたし、何を言われても許せたけど、気持ちがまったく無い今それを言われてもただただ苛立つだけで、顔を顰めながら見下ろしたら泣きそうな顔をしてそっぽ向かれた。


「芽依はほんまに俺のことが好きなん?」

「…なんでそんなこと言うの?好きって何度も言ってるのに。」

「俺のことが好きなんやったら話し方くらいちょっと自分が我慢しようとするくらいしてくれてもいいやん。話し方込みで好きになってぇや。」

「…だって、…責められてるみたいでやなんだもん…。」

「責められてるみたいじゃなくて、責めてるんやで?」


芽依にそう返したら泣きそうな顔のまま口を尖らせて、拗ねるみたいな態度を取って黙り込まれた。可愛い可愛い見た目をしたこの人は、人から怒られることなんてあまり無いのかもしれない。わがまま言っても周りは言うことを聞いてくれる人たちばかりで、自分の悪いところを本当に分かっていないのかもしれない。


「芽依は結局自分が一番好きやんな。俺のこと口では好きって言いながらも芽依からは全然その気持ちが感じられへんねん。それが、俺が芽依を振った理由。」

「…どうして?そんなことないもん、ほんとに好きだったのに…。じゃあどうしたら分かってくれるの?」

「じゃあ仲良い男全員と縁切れる?連絡先全部消して、俺の連絡先しか入れんな、俺としか喋んなって言うたらできる?」

「…そこまでしなきゃ信じてくれないの?」

「そうやで?そういう心意気を持ってくれへん限り、俺の芽依を見る目は一生変わらん。芽依が最初から俺の言うことを聞いてくれてたらここまでさせることはないやろうけど、自分の行動が俺にそこまで言わせてるっていちいち言わなわからんか?」


そこまで言ったところで、芽依はスカートのポケットからスマホを取り出し、ジッと画面を見つめた。


「…じゃあ、連絡先侑里だけにしたらまた付き合ってくれるの?」

「そんなん今更されても困るけど。もう彼女もおるのに。中学の時にしてくれてたらなんか変わってたかもな。」

「…まだ嘘つくの?居ないくせに。そんなにあたしのことが嫌?」

「嘘ちゃうって、ほんまにおるし!!」


俺が通路で少し声を張り上げてそう言った瞬間だった。


通路の曲がり角から何食わぬ顔をして歩いてきた見知った姉弟が、こっちを見ながらスーッと俺の背後を通り過ぎようとしている。


「いやいやいや!!ちょお待てって、なんで無言で通り過ぎんねん!!!」

「あはは、姉ちゃんバレてしもたな。」

「ふふっ…うん。」


白々しい態度で俺の後ろを通り過ぎようとしていた永遠と永菜の前に立ち塞がり行手を阻むと、へらっと笑う永遠に釣られて永菜も少し笑みを見せる。


突然の永遠と永菜の登場に、芽依は顔を顰めながら永遠の方へジッと視線を向けていた。


「てか永遠なんで眼鏡してるん?」

「あぁこれ?遠くからでも見えるように。」

「なんや変装でもしてるんかと思ったわ。」

「変装?なんで俺がそんなんしなあかんの。」


…ほら、永遠は芽依に顔知られてるし。実際芽依むっちゃ永遠のこと睨みつけてるやん。この二人めちゃくちゃ相性悪そうやな。

普段は男受けしそうな可愛らしい顔ばかり向けている芽依が珍しく男相手にも関わらず『話の邪魔するな』と言いたげなキツイ目線を送っている。


「侑里が元カノと会うって光星から聞いたから姉ちゃんが不安になってしもて、しゃあないし様子見に来たんやで?なぁ?」


永遠はそう言いながら永菜を心配するような表情で永菜の肩に手を置き、顔を覗き込む。すると永菜は俯きながらこくりと頷いた。


「えっ…、永菜ちゃんごめん、泣かんといてな…?」


…あ、なんや。全然泣いてへんしなんなら顔笑ってるわ。なかなかに芝居くさい永遠の言動に思わず笑いが漏れてしまったのだろう。『不安になった』と聞いて俺はちょっと喜びそうだったのに。


「…侑里、どういうこと?誰その人。」

「あ、ごめん。この子が俺の彼女。」


芽依に問いかけられ、俺はそう答えながら永菜の手を取り自分の方へ引き寄せる。


「…は?絶対嘘でしょ。だってそいつ、姉ちゃんって呼んでるじゃん。白々しい嘘つかないで。」

「…うわ、俺そいつって言われた…。」

「ふっ…」


おい、永遠はちょっと黙っといてくれ。

大して残念でもないだろうに、残念がるような態度を見せてきた永遠に永菜は堪えきれずにクスッと笑いを漏らしてしまっている。


「じゃあどうしたら彼女って信じてくれるん?友達の姉ちゃん可愛くて俺から惚れて最近やっと付き合えたところやのに。キスシーンでも見せたらいい?」

「えっ!うそやろ?やめてっ」

「ちょっ、永菜ちゃんなんで逃げんねん!」


べつにこの場で本気でキスしようなんて思ってないのに、俺の発言を本気にしたのか、永菜はサッと永遠の背後に回ってしまった。


「ちょっと姉ちゃん、そんな態度取ってたら信じてもらえへんやんか。キスくらいちゅってしたらいいやろ!」

「ちゅっ、じゃないわ!私ファーストキスまだなんやで!?こんなところでしたないわ!!」

「…え?…永菜ちゃんほんま?」


俺は自分のファーストキスの相手が目の前にいるにも関わらず、つい永菜のファーストキスまだ発言に喜んでしまい、口を押さえてニヤッとにやけてしまった。


にやけた顔で永菜のことを見ていたら、永遠が何か言いたそうに俺に向けて顎をクイクイと動かしてくる。それは芽依の方を指しており、「ん?」と芽依の方を見れば、むっすりと不機嫌そうな顔をして、今度はキツイ目をして永菜のことを睨みつけていた。


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