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さっきから侑里は台所で昼ご飯を作っている姉にチラチラと視線を向けては、「え?ほんまに?」とばかり言っている。


「侑里浮かれてる暇ないで。明日からテストやねんで。」


俺はコンビニで買ってきたご飯をさっさと食べてしまい、再びテスト勉強を開始しようとノートを広げるが、そんな俺の目の前で侑里が「いや、これはさすがに浮かれるやろ。」とにやけた口元を手で隠している。


「でも赤点取るような彼氏は姉ちゃんもお断りやで。」

「わっ…分かった…、飯食った後はまたちゃんと勉強やるからそれまでは許してくれ。」


侑里はそう言ってまたチラチラと姉の方ばかり見ていた。そうしているうちに、ご飯を作り始めて15分程度で姉は野菜がどっさり入ったちゃんぽん麺をおぼんに乗せてやって来る。


「あ〜危なかった、野菜はよ使ってしまわな傷んでしまうところやったわ。」

「傷みそうな野菜彼氏に食わすなよ。」


何気なく口にしたであろう姉の発言に突っ込んだら、姉と侑里は二人で顔を赤くして照れており、そんな二人を見て光星はクスクスと笑っている。俺はべつに二人を照れさせてやろうと思って言ったのではなが、『彼氏』という単語に照れているのか初々しくて見ていて少し面白い。


「…ごめんな、火通ってるから大丈夫やで。」

「…永菜ちゃんが作ってくれるもんやったら腐ってても食べるで。」

「お前もデレデレしてんとはよ食えやぁ!」


あまりにもにやけた顔で侑里が姉のことを見ているから、ノートでバシッと侑里の頭を叩きながらそう言うが、それでも侑里はへらへらと笑っている。

テスト前日という日に姉に告らせるようなことをした俺も悪いけど、メリハリはつけていただきたい。


「姉ちゃん侑里が帰るまでまた部屋籠っといてな。侑里に勉強させなやばいし。」

「うん、分かった。」

「うわぁ…!永菜ちゃんこのちゃんぽん麺めっちゃ美味しい〜!毎日食いたい〜!」

「うわっもう1時やんか!!侑里はよ食って勉強しな、」

「永遠さっきからうるさいぞ、ちょっとくらい幸せ噛みしめさせろ…よ、あっ…ごめんなさい早く食べま〜す。」


別に睨んだつもりとかはまったくなかったのに、『うるさい』と言われた瞬間侑里の顔をジッと見ただけですぐに謝られ、ちゃんぽん麺をズルズルと黙って食べ始めた。

俺だって幸せを噛み締めさせてやりたいのは山々だけど、明日からテストだからしょうがないのだ。


昼食を食べ終わった後は、17時過ぎまで小休憩を挟みつつ、真面目に勉強を頑張った。

寮生活をしている侑里の夕飯の時刻が決まっているため、18時前には帰る支度をして侑里は椅子から立ち上がる。


「永菜ちゃんの部屋ノックしていい?」

「いいよ。」


律儀にそう聞いてきた侑里に頷くと、侑里は『コンコン』と扉を軽く叩き、「永菜ちゃん帰るわ〜」と外から声をかけている。

侑里が帰るタイミングに合わせて光星も帰ろうとしていたが、部屋から出てきた姉が「駅まで送ってくる」と言うから、空気を読んだ光星はもう少し俺の家に留まっておくことにした。


光星と一緒にマンションの通路から下を見下ろして、侑里と姉の様子をこっそり見てやろうとマンションから出てくるのを待っていたら、二人は仲良く手を繋ぎながら建物から出てきた。そのまま駅の方向へ歩いていく姿を見送ったところでまた家の中に入る。


「うわ〜姉ちゃんの彼氏が侑里かぁ〜。」


応援していたわりには、二人が本当に付き合ってしまうと妙な気分になり、口からそんなぼやきが出る。


「末長くお幸せに、って感じだな。」

「うん、頼むから別れて気まずくなるんはやめてほしい。俺にも影響してくるし。」


玄関で靴を脱ぎながらそう話していたところで、背後から光星の手が俺の身体に伸びてくる。チラッと振り向けば、光星が「ちょっと触りたい」と囁いてきたから、俺はふっと笑って自分の部屋へ走った。


ボフッとベッドの上に飛び乗り、光星が追いつくの待っていたら、光星は俺の部屋の扉を閉めて、数秒遅れでベッドの上に上がってくる。


両手で俺の頬を挟み、ぶちゅっと熱い口付けをしてきた光星の身体に手を添え、その後も何度も繰り返されるキスを目を閉じて堪能した。


「あ〜もう一週間長い。」


光星はそう言いながら、ぐったりするように俺の身体の上に覆い被さり、俺の肩に顔を押し付けてきた。光星の息が鎖骨あたりにかかり、光星の髪が首筋に触れてくすぐったい。


「もうほんとにムラムラする、永遠くん見てると触りたくてしょうがない。」


顔を伏せたまま、光星の手はよしよしと俺の頭を撫でる。チラッと見上げてきたかと思ったら、俺の首筋から顎や頬にキスしてきた。


「んっ…こちょばっ…ふふっ…」


キスされていると思っていたら耳下付近を今度はべろべろと舐められ、ついそのくすぐったさに笑いが漏れる。その後光星は俺の身体を大胆に抱き締めながら、ぶっちゅ〜っと首にキスしてきた。


「光星さっきからなにやってんの?」


べたべたと触ってくるわりには、キスだけで我慢しているからなのか執拗に変なところを舐めたりキスされ続け、不思議に思いながら問いかけたらぴたりと動きが止まった。


「はぁ…。一週間長いな。」

「それさっきも聞いたで。」

「…早く永遠くんと旅行したい。」

「あっ!ホテルの予約してもらったで!」

「おお、まじ?ありがとう。」

「俺とえっちしたい?」


光星の方から旅行の話をしてきたから、俺は耳元で囁くようにそんな問いかけをしてみれば、光星の目はジッと俺の目を見つめながらうんうん、と首を縦に二度頷いた。


「いいよ、旅行の時な。俺で良かったら好きにさせてあげる。でも光星くんは俺の身体でも満足できるんかなぁ〜?」

「永遠くんがいいんです。」


光星はそう言って、姉が家に戻ってくるまでずっと俺にキスしたり、服の中に手を入れたりして、身体にべたべたと触れ続ける。


頑張って我慢はしてるけど、ムラムラしてるのがバレバレな、分かりやすすぎる光星くんであった。



姉が帰ってきたあとに光星は帰宅し、俺は勉強道具をテーブルから自分の部屋に移動させていたら、姉がテーブルの横に立ち、頬に両手を当てながら無言で立ち尽くしていた。


「どうしたんそんなとこ突っ立って。侑里とキスでもしてきたん?」

「…はっ!?してへんわ!」


姉は俺の問いかけにカッと顔を赤くしながら冷蔵庫の方へ歩いていき、コップにお茶を注いでからまた戻ってきた。


「彼氏できたの初めてやから放心しててん。」

「えっ、姉ちゃん居たこと無かったん?」

「えっ、永遠は居たことあるん?」

「ある。…いやないわ。」

「どっちやねん。」

「ないない。」


あっぶなぁ、俺彼女居たことないのにあるとか言うたらあかんやん。彼女居たことないのに彼氏なら居るって変やなぁ。


「お願いやから侑里と別れる時は円満に別れてな。」

「そんないきなり別れること前提の話しんといて。別れへんもん。」

「じゃあまずはあの侑里の元カノなんとかしてくれる?光星にまで色目使ってたからムカついてんねん。」

「あんた光星くんの彼女みたいやなぁ。そりゃ光星くんやったら色目も使いたくなるやろ。」

「え?姉ちゃん知らんかったん?光星くん俺のやで?色目使っていいの俺だけやで?」

「はいはい。」


……全然信じひんなぁ。ほんまやのに。

俺の言葉はサラッと聞き流され、姉はご機嫌な様子で椅子に腰掛けスマホを弄り始めた。チラッと画面を覗き込んだらラインのメッセージ画面が表示されている。侑里とやり取り中なのだろうか。


「ちゃんと勉強しぃやって侑里に言うときや。あいつ浮かれてたらガチで赤点取りよるで。」

「永遠が勉強しろしろうるさいって言うとくわ。」

「俺が口うるさい奴みたいやんか。侑里が赤点取ったら顧問に怒られる言うから言ってやってんのに。」

「ごめん、嘘嘘。普通に勉強しろって言うとくわ。」

「うん、そうして。」


そんな会話をしながらスマホで文字を打つ姉は、その後もずっとご機嫌だった。

両親は御飯時になると美味しそうな百貨店のお弁当を買って帰ってきて、昼間はあちこち出掛けていた両親の話を聞きながらご飯を食べる。

姉は彼氏ができた話をしないのだろうかと思っていたが、一言もそんな話はせず、両親の前ではご機嫌な様子も極力隠して平常通りに過ごしていた。


俺はお風呂に入ったあとに本腰を入れて勉強しようと机の前に座ったが、翌日のテストに備えて0時前には勉強を終わらせて、朝ちゃんと起きれるようにさっさと就寝した。


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