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期末テストも間近で、芽依のことなんて気にしている場合ではない俺は、頭の良い友人を頼りに放課後毎日特進クラスの教室にお邪魔し、勉強してから寮に帰るのが恒例になりつつあった。

芽依は二回目以降学校に来ることはまだ今のところないけれど、先輩が芽依と繋がっているため、先輩と顔を合わす度に芽依の話を振られてうんざりする。

芽依の存在も、その芽依が俺の元カノだということも、いつの間にかサッカー部の間で知られてしまっており、なんで高2になってまで俺の忘れたい過去の存在が付き纏ってるんだと、そろそろ本気で嫌気が差していた。


しかしそんな中、俺の密かに楽しみにしていた日が訪れた。その楽しみとは、休日永遠の家に勉強しに行く事だ。

永菜が家に居るかは不明で、居ないかもしれない。永遠は一切教えてくれなかったけど、もしかしたら、“会えるかもしれない”。目的は勉強をするためだけど、一目でも会えたら嬉しい。


朝食を食べた後、さっそく鞄に勉強道具を詰め込み、寮を出て電車に乗って、9時半頃に浅見と待ち合わせ場所で合流する。


「…今日永菜家に居るんかなぁ…。」

「…さあなぁ。」


我慢できずに、浅見を前にしてそんな期待している言葉を口に出してしまった。浅見にはクスッと笑って返事をされる。勉強しに行くのに何を期待してんねんって思われたかな。と、もうそれ以上永菜のことを話すのは我慢する。


永遠の家の前まで辿り着き、インターホンを鳴らすと、扉を開けてくれたのは永遠だった。寝起きだったのかいつもサラサラな永遠の髪が少し乱れている。


「あ〜きたきた、二人ともおはよう。」

「おはよ、永遠くん今起きたとこ?」

「うん、昨日夜更かししたから起きるのちょっと遅くなってしもた。」


永遠はそう話しながら「ふぁ」とあくびをする。浅見がそんな永遠の髪にサッと手を伸ばして寝癖を直しているが、かわいい寝起きの永遠に浅見の顔は分かりやすくデレている。

うんうん、分かるで。永遠かわいいな。

……で、永菜は?


お邪魔します、と浅見に続いて永遠の家に上がらせてもらうと、閉まっていた扉がガチャ、と控えめに開き、そこからチラッと永菜が顔を覗かせた。


「あっ……永菜ちゃんや。」


やば、嬉しい、会えた。

名前を口に出すと、永菜はにこっと笑みを見せてくれた。永遠と浅見の目から隠れるように俺にだけ小さく手を振ってくれる。うわ、やばい、ほんまに嬉しい。

でも今日は“永遠の”家に勉強しに来てるから、浮かれそうになる気持ちを抑えて、少し笑みだけ返す程度で我慢する。


「親朝から出掛けてったしこっちの部屋のでかい机で勉強しよか。」

「お姉さんは?」

「姉ちゃん?知らん。」


寝起きで寝惚けているのか自分の姉の在否も分かっていない永遠に、いやなにが『知らん』やねん、部屋におったがな。と突っ込みたくなっていたところで、永菜が部屋から出てきて姿を現した。


「お姉さんおるよ〜光星くんこんにちは〜!」

「あっこんにちは!お邪魔してます!」


浅見は永菜に挨拶を返した後、すぐにチラッと俺に目を向けてきた。その視線がまるで『よかったな』と俺に言ってくれているように浅見の口角が俺を見て上がる。


「あ、姉ちゃんお茶入れてあげて。」

「は〜い。」


姉の姿を見た途端に永遠は眠そうな顔をして永菜をパシリ始めるが、永菜は言われた通りに食器棚からコップを取り出し、冷蔵庫からお茶が入った容器も取り出して、コップの中に注ぎ始めた。


「ふぁあ…。ほんまに眠い。今日はちゃんとはよ寝なあかんな。」

「遅くまで勉強してたのか?」

「うん、数学で配られたプリントあるやん?その問題がなかなか解けへんかって腹立ってずっと考えてたら2時過ぎてた。なんやねんあれ。一瞬理系クラスのプリントやらされてるんかと思ったわ。」

「え、どれ?俺まだやってねえわ。」

「待って、部屋にあるし取ってくる。」


浅見と永遠はそんな会話をしながら二人で永遠の部屋に入っていった。賢い二人の会話にはついていけず、チラッと永菜の方に目を向けたら永菜もこっちを見ていて目が合う。


「勉強しに来たけど永菜ちゃんに会えて嬉しいな。」


しれっと永菜の方に近付き、話しかけたら永菜はクスッと笑みを見せてくれた。「はい、お茶。」とコップを差し出され、ありがたくコップを受け取りお茶を一口飲む。


「勉強頑張ってな。」

「うん、ありがとう。」


今日もかわいい。この前みたいなおしゃれな恰好じゃなくて、ラフな服装やけどそれでもかわいい。毎日見れる永遠が羨ましい。


永遠と浅見がプリントを持ちながら部屋から出てきたから、俺も永菜から離れてテーブルの方へ戻り、永遠の隣に浅見が腰を下ろしたから、俺は永遠の正面の席に腰掛ける。


俺たちが机に勉強道具を広げて勉強を始める空気になると、永菜はまた静かに部屋へ戻っていった。

永菜と同じ家の中に居ると思うとなんかちょっと落ち着かなくて、そわそわする。でもそんな気持ちを永遠と浅見には悟られないように、早く勉強に集中しようと暗記系の科目に手をつけることにした。


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