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「侑里くんちゃんと元取ってな。」
綺麗でいかにも女子が好きそうなお洒落なバイキングの店に到着し、席が空くのを待ちながら永菜は楽しそうに俺にそう話しかけてくれた。
先日試合後に定食屋に行った時との態度の違いを感じて、少しくらいは期待して良いだろうかという気持ちになる。永遠に内緒だから、態度がこうも違うのだろうか?永菜の中でどういう心の変化があったのかを知りたい。
「ここネットでみたことあって引っ越してからずっと行ってみたかった店やねん。」
「そうなん?」
「侑里くんいっぱい食べてくれそうやし丁度良かったわ。」
「うん、永菜の分までいっぱい食べるわ。」
ずっと行ってみたかった店に俺を連れてきてくれて嬉しい。よかった、他の男じゃなくて。今日はなんで俺とご飯行ってくれたんやろ、…聞いていいかなぁ。
チラッと横目に永菜の表情を窺いながら聞くかどうしようか悩み、でもやっぱりどうしても気になるから問いかけた。
「永菜今日なんでご飯来てくれたん?」
俺の問いかけに、永菜は俺から目を逸らして、「んー…」と声を出しながら下を向く。
「…準決勝勝ったらご飯行きたいって言ってたやん。」
そして数秒間悩んだあと、永菜はそう答えた。それは、そう。俺が言ってた事。でも知りたいのは永菜がなんで来てくれたのか。俺のことがちょっとでも気になったから、とかそういう返事をもらいたい。
「言ったけど、永菜は俺とご飯行くの嫌かと思ってた。」
『べつに嫌じゃない』…永菜からそんな返事をもらうために言った俺の発言に、永菜はまた悩むように「んー…」と下を向いた。
散々悩んだ末、永菜は徐に口を開く。
「だって、…弟の友達と二人でご飯行くのとか恥ずかしいやん…。」
そう言った時の永菜の表情は、本当に恥ずかしそうに、少し頬を赤らめている。
その言葉を聞いた時、俺に“女の子っぽいところ”をなかなか見せてくれない永菜の態度の理由が少し分かった気がした。もしかしたらそれは、“照れ隠し”だったのかもしれない。
嫌われてると思い込んでたけど、恋愛対象外だから俺を遠ざけるための態度だと思っていたけど、でももしあの態度が“照れ隠し”だったとしたら、今その“照れ”を表に出してくれたのは何故?
「永菜が嫌やったら絶対永遠には永菜に会ったこと言わんし、永遠の協力とかはもう二度と求めへん。そしたら、また俺と会ってくれる?」
俺のその言葉に永菜は顔を赤くして、ちょっと俯き気味になりながらも、こくりと頷いてくれた。
ああどうしよう、めちゃくちゃ嬉しい。ちょっと永菜に近付けた。永菜の恥ずかしそうな顔がかわいくて抱きしめたい。頭撫でたい、手繋ぎたい。
でも今は我慢。絶対手は出さん。
ここで間違えたらあかん。
せっかく近付けた距離が離れてしまうのは絶対嫌。
「嬉しい。ありがとう。じゃあまた行きたい店とか、行きたいところあったら俺を誘ってほしい。」
永菜の顔をちょっとだけ覗き込みながら言うと、永菜は口元を少し綻ばせて、こくりと頷いてくれた。
「侑里くんは、最初にイメージしてた感じの人と全然違う人やったみたい。」
「最初?どんなイメージやったん?」
「いきなりタメ口で話すし、呼び捨てするし、怖くて俺様な感じ。」
永菜はチラッと俺と目を合わせながら、ちょっと笑ってそう話してきた。
「ええっ待って!ちゃうで、必死やってん。タメ口も呼び捨ても礼儀が無いと思われてしまう事って分かってはいるけど俺は必要やと思ってん。でも永遠にそんな俺の態度があかんって言われたから反省はめちゃくちゃしたで?」
必死に言い訳する俺に、永菜はクスクス笑いながら話を聞いてくれる。
「分かった分かった。うん、そうやな。必死やったのはよく分かった。最初は永遠もな、侑里くんのことチャラいとかいろいろ言うてたのに最近は全然言わんようになったし、ああほんまに良い奴なんやろうなぁって思うようになったわ。」
「永遠俺のこと良い奴って言うてくれてんの?」
「うん、家で侑里くんのこと褒めまくってるで?私にも勧めてくるくらいやもん。よかったな、侑里くん永遠にめっちゃ信頼されてるで。」
永菜はそう言って、トントン、と俺の背中を叩いてきた。そんな永菜の言動が、どこか永遠と重なる。当たり前だけど、姉弟だなぁと感じさせられる。
「えぇ…、そうなん?…めっちゃ嬉しい…。俺永遠のこともめちゃくちゃ好き。」
弟のことをそう言ってもらえたのが嬉しかったのか、永菜は俺が永菜に好意を見せる時には嬉しそうな顔なんて見せてくれないのに、永遠のことになるととびっきりの笑みを見せ、嬉しそうな表情を浮かべていた。
それからと言うもの、やっと俺たちはテーブルに案内され、昼食を食べながら、永菜は俺が永菜に会ってることは内緒にしろと言ってくるわりには、永遠の話ばかりしてきた。
永遠が浅見にでれでれしてる話とか、急に不機嫌になられて面倒だという話、お菓子のカールが好きで箱買いをお願いされる話とか。
永菜から永遠の話をたくさん聞き、もし俺が永菜と付き合えたとしたら、永遠の家での話は俺にダダ漏れになってしまうなぁと思った。
永菜はそのことに気付いてるのだろうか。
…まあダダ漏れって言っても、俺が永遠に黙ってたらいいだけの話か。プライバシーが無いのはお互いに嫌だろうから、俺が気を付ければいい話。
以前までの態度が嘘だったみたいに、永菜はご飯を食べながら、普通に笑いながらよく話してくれた。それはもう、今まで積もり積もった話があったかのように、学校の話、バイトの話、家族の話までしてくれた。
もしかしたら引っ越しをして、話す人が居なくて寂しかったのかもしれない。そんなふうに思えるくらい、永菜は俺にいろんな話をしてくれた。
“永遠に内緒にしてくれるなら”
その条件だけでこうも永菜の態度が変わるのかと、俺はこれからの永遠への接し方、それから、永菜への接し方を、いろいろ考えさせられた。
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