13 [ 14/101 ]




決勝戦当日の朝、永遠と浅見から『試合頑張れ』っていうメッセージをもらった。試合を見に行けないことに残念そうにしてくれる友人に、今日はなんとか良い報告ができたら良いなぁと思う。

永菜が試合を見に来るかは、永遠も永菜も教えてくれなかった。どっちにしろ全力で決勝戦に挑むことに変わりはないから、友人もそれを思って教えてくれなかったんだろう。



競技場に到着し、ウォーミングアップをしようとしていたら、毎度俺たちの試合を見に来る他校のマネの子がまた俺に声をかけてきた。


「香月くん」と名前を呼ばれ、歩み寄ったら手紙と差し入れらしきものを差し出される。あまりよく知らない人から食べ物は受け取りたくなくて首を振ったら、落ち込んだような、悲しそうな顔をされてしまった。


手紙だけでも受け取るべきだろうかと悩むものの、俺にはまったく気持ちがないため、好意を受け入れるようなこともしたくない。そんなふうに考えていた時、競技場の観客席に入ってきた好きな人の姿が俺の目に映った。

その瞬間、他校の女の子の存在などどうでも良くなってしまい、咄嗟に走って永菜の元へ駆け寄ってしまった。


「永菜っ!!来てくれたん!?」


嬉しくて、手を振りながら声をかけたら、永菜は「うん」と頷き、俺に1本のスポーツドリンクを差し出した。キンキンに凍っていて固いペットボトルを受け取ると、永菜は少しだけ笑みを見せ、口を開く。


「永遠から。」

「ありがとう!!」


永遠からでも嬉しい。
永菜が持ってきてくれたのが嬉しい。

お礼を言ったら、すぐに永菜はシッシと俺を遠ざけるような手振りを見せ、「はいはい、ちゃんとウォーミングアップしなあかんで。」って言って手を振りながら俺に背を向けた。

永菜の向かう方向を眺めていたら、永菜は人気の少ない端の席にちょこんと腰掛ける。

永菜にカッコ悪いところを見せるわけにはいかなくて、永菜にばかり気を取られるわけにもいかなくて、それからはもうサッカーのことだけに集中した。


決勝戦の試合は、相手チームの醸し出す雰囲気からしてもう違い、今までの相手とは比べものにならないくらいの緊張感があった。


予定時刻丁度に試合が始まり、相手は3年生が多い中、2年生の目立つプレーをしている8番の選手がさっそくジョーと対峙する。

ジョーは食らいつくように相手選手からボールを奪おうとするも、あっさり抜かれてしまい、一気に攻め込まれてしまいそうになる。

8番がパスを出そうとした瞬間、それをなんとか阻止するように俺はボールを奪いにかかる。そして俺の足元にボールが転がった隙を見て、玲央に向けて一直線にスルーパスを送った。

玲央はそのボールを追いかけ、シュートしようとするが、玲央が打ったシュートは横から飛び出してきた選手に弾かれてしまった。

先制点のチャンスを逃し、ボールを奪われまた一瞬で振り出しに戻ってしまう。


攻め込まれる前にまたボールを奪いにいくが、堂々巡りのゲームが続く。

そして俺がやっとの思いで敵からボールを奪い、フリーだった先輩へパスを送ったが、先輩はものの数秒でボールを奪われてしまった。恐らく先輩は、このレベルのチームと戦ったことが無いのだ。

ほんの少しの隙など見落とさない相手に、先輩は簡単にボールを奪われてしまう。

あんなに簡単に奪われてしまっては、もう俺は仲間にパスを出すのも嫌になってしまう。

そして結局は、自分で行かなければ負ける。


けれど俺一人が頑張ったところでどうにかなるチームでは無い。決勝戦の相手となると、当然良い選手ばかりだ。自分のチームがダメとは言わない。でもどうしても俺は強いチームと戦うたびに、チームメイトの欠点ばかりが気になるようになってしまった。



前半戦の終盤になると、もう完全に相手チームに流れを持っていかれ、1点先制されてしまった。


後半戦でもその流れは止まることなく、守るばかりでチャンスをなかなか与えてもらえない時間が続く。


もどかしく、悔しい時間が淡々と流れていき、そのまま1点すら取れることもなく、ゲームセットとなってしまったのだった。


悔しい気持ちは勿論あるが、完敗だ。上には上がいる。強いチームと戦うことで、自分たちに足りない部分がより多く見えてくる。今後の俺たちの課題は山積みだ。


試合後俺の前には、ふらりと相手選手が一人歩いてきた。

見れば8番のユニホームを着たあの選手だった。

試合中は勇ましく戦っていたけど普段は大人しい性格なのか、チラチラと控え目な視線を送られていることに気付いて、俺は咄嗟に手を出す。

すると8番の選手もすぐに手を出し、俺の手を握ってきた。


「お前めちゃくちゃ上手いなぁ。」


心から称賛する気持ちを口に出すと、相手はクスリと笑みを浮かべ、控え目に俺と目を合わせて「そっちこそ」と言ってくれた。

負けて悔しかったけど、凄い選手に褒め返してもらえてその分嬉しい気持ちにもなれた。

でも、また次試合をした時は、絶対に負けたくない。

ライバルが出来たことは俺にとって良いことだ。


「全国楽しんでこいよ、次は俺が行ったるからな。」

「ええっ」


つまり、『次は勝つ』と言う意味合いの言葉をニッと笑って口にすると、8番の選手の顔にも笑みが浮かび、そんな声を上げた。


冗談冗談。って言いたいところだけど結構本気で、それ以上はもう何も言わずにヒラリと手を振って背を向けると、相手も軽く手を挙げながら去っていく。


きっと次戦った時はもっと上手くなってるんだろうなぁと思ったら、俺も負けてられなくて、早く練習がしたくなってうずうずした。


[*prev] [next#]

bookmarktop
- ナノ -