6. 寛人と晴のクリスマス [ 158/163 ]
※ 猫ちゃんに首輪完結後と続編のあいだのおはなし
〜 晴高校2年、寛人大学1年 冬 〜
【 今年のクリスマスは一緒に過ごそうな〜 】
12月半ば、もうじきクリスマスだなぁと思っていた頃、晴の方からそんなメッセージを送ってきてくれた。俺は嬉しくて嬉しくて、そのメッセージの返事は直接言いたくて晴に電話をかけた。
晴は高校を卒業して、“なかなか会えなくなった俺”に対してはかなり積極的になってくれる。去年は地元の友達を優先されてしまったが、今年は俺を優先してくれるようだ。恋人なんだから当たり前だと思ったらそれまでだけど、晴が俺に会いたがってくれているようで晴から言ってくれたのがめちゃくちゃ嬉しい。
「もしもし晴?」
『あ〜!寛人あとで電話かけようと思ってたんだよ!』
「まじ?やったっ。」
『ズルズルズル…』
うん…?ラーメン食ってんのか?
晴の声が聞こえてきたあと、ズルズルと何か啜ってる音が聞こえてきて、思わず顔を顰めてしまった。
「ラーメン食ってんの?」
『うん、ごめん伸びるから先食わせてね。』
「いいけど。」
『ズルズル…ズズッ…、ズルズルズル…』
…晴相変わらずだなぁ。頼むから食生活には気を付けてくれよ?と思いながらも、ズルズル麺を啜ってる晴が愛しくてクスッと笑みが漏れる。
『ちなみにまだ今週初めてだからな?』
「うん?」
『ラーメン食べたの。』
「あぁ、ラーメンな。気を付けてるならいいんだよ。」
『何か言われる前に言い訳しといた!』
晴はそう言って『ふふっ』と笑っている。声聞くだけで可愛い晴の笑みが頭に浮かび、今すぐ会いに行きたくなってしまった。
「晴クリスマスどこ行きてえ?好きなとこ連れてってあげる。」
さっそくクリスマスの話題を口にすると、晴は『ん〜…』と悩んでいる。そして、『あっ遊園地!』と元気に答えた。…遊園地なぁ、いいな。晴と行けるなら俺はどこでもいいや。
「オッケ〜、遊園地な。楽しみにしてる。」
『うん!俺も!寛人に早く会いたい!!』
「あぁっ!!!もう!!俺もだよ!!!」
思ってることを先に晴が言ってくれたから、嬉しすぎて叫ぶような声を出して返したら、『うわっびっくりした。』と晴は驚きながら笑っていた。
そして晴との約束の日、早起きして寮まで晴を迎えに行った。少しでも長く晴と居るために、早起きなんてお手の物だ。
寮の敷地の外で待っていたが、何故か晴が現れたのは寮の外からで、しかもその胸にはむぅを抱っこしている。
「寛人くん久しぶりにゃ〜!」
そう言ってにこにこと笑みを見せながら晴はむぅの手を握り、俺に見せるようにむぅの手をふりふりと振ってくる。可愛すぎて悶え死にそうだ。
「晴〜!むぅ〜!会いたかったぞ〜!」
むぅ込みで晴を真正面から抱き締めに行き、晴の頭をよしよしと撫でる。すると俺の胸元で「にゃ〜」と可愛いむぅの鳴き声が聞こえた。
苦しかっただろうか?とそっと晴から距離を取り、晴に抱っこされたむぅを見下ろすと、むぅはくわっと大きなあくびをしている。
「晴寝てるむぅ無理矢理抱っこして連れてきたんじゃねえの?」
「ううん、起きてたよ?でも俺が抱っこしたら大人しく抱っこされてくれてたからむぅちゃんもきっと寛人に会いたかったんだよ。」
「むぅ“も”?」
それはつまり、晴も勿論俺に会いたかったって意味だろうけど、わざと言わすようなことを言えば、晴はくるっと俺に背を向けて「さっ、むぅちゃんお家戻ろっか。」と学校の方に歩き始めた。素直じゃねえなぁ。会いたがってくれてたくせに。まあいいけど。
むぅを校舎裏に戻してから学校を出て晴と一緒に遊園地に向かおうとするが、部活動をしている人が普通に学校に来ていたため、「あっ、会長だ!」と指を差されてしまった。
「あ!ほんとだ!こんにちは!」と挨拶され、「おう」と適当に返していると、そんな俺の隣で晴はにこにこと笑っている。
「みんな寛人に会えて嬉しそう。」
「みんな?晴は?」
「……勿論、一番嬉しいのは俺。」
また言わすようなことを言ってしまったが、さすがに今回は素直にチラッと俺を見上げながら、晴がそんな返事をくれたから、にやにやとにやけが抑えられなくなってしまった。
でもそんな俺の手を取って、晴は元気いっぱいに「よ〜っし!遊園地行くぞ〜!」と走り出す。
大学生になり運動不足の俺は、元気な晴に合わせて走るとすぐに息が切れる。
「…はぁ、ちょっと晴待って…、さすがに歩こう。汗かいてきたぞ…。」
晴は俺よりも薄着で、セーターの上にジャンパーを羽織っただけで、さらにそのジャンパーは前を閉めずに全開だ。たった二歳下なだけなのに、晴の方が自分より数倍若々しいように感じてしまった。
「なんか寛人ちょっとおっさんくさくなった?」
「…うわ、凹むからそういう事言うなって…。」
「あはは、嘘嘘。寛人かっこいい。」
屈託なく笑う少年らしい晴の眩しい笑顔は、久しぶりに会っても変わらず可愛くて、大好きだ。
高校を卒業してからは、一日一日成長していく晴を側で見られなくなってしまったけど、ちょっとだけ背が伸びた?とか、顔つきも前よりほんの少しだけ大人っぽくなってきたか?とか、そんなことを考えながら晴の隣を歩く。
「はい、晴チケット。」
「あ、サンキュー、お金…」
遊園地に到着し、チケットを買って晴に渡すと、晴はゴソゴソと鞄の中を漁って財布を出そうとしている。
「クリスマス好きなとこ連れてくって言っただろ、財布はいいからしまっとけ。」
そう言って鞄の中に突っ込んでいた晴の手を掴み、握った。
「まじ?…いいの?」
「おう、俺晴喜ばせるためにバイトもして金稼いでるんだぞ?」
晴の顔を覗き込みながら言えば、ポッと晴の頬が少し赤く染まる。そして、照れるようにチラッと俺を見上げてきた晴は、突然チュッと俺の頬にキスをしてから、「よ〜っし!じゃあ今日は思いっきり楽しむぞぉ!!」って、グイッと俺の手を引きながら走り始めた。
「あっ!おい、ちょっコラ!だから走るなって!!」
晴からの突然のほっぺチューに照れている暇もなく晴が走るから、止めるのに必死になりながら晴の後を追う。
久しぶりに会えた晴は、前よりも元気いっぱいになっており、そんな晴も勿論俺は大好きで、楽しくて、元気いっぱいな晴の隣で俺もたくさん笑った。
「あ〜幸せ。やっぱ晴の隣に居る時が一番幸せだなぁ。」
そう言って幸せを噛み締める俺に、晴も俺を見上げて嬉しそうににこっと笑う。
「うん!俺も!来年も遊園地行こう!」
「お、言ったな?絶対だぞ?」
「あ、でも水族館でもいいなぁ…。」
「俺と過ごしてくれるならどこでもいいよ。」
「…あ、でも動物園もいいなぁ…。」
「俺の話聞いてるか?」
ちょっと人の話を聞いてんのか怪しい晴の耳元で「俺と過ごしてくれるならどこでもいいんだぞ」ってしつこく言ったら、「うるさいうるさい、耳くすぐったい!」と耳を押さえながらシッシと俺を振り払ってきた。
でもすぐに「…俺もだよ、俺も寛人と過ごしたい。」って照れるように小声で言ってくれたから、相変わらず晴は可愛いなぁ〜とにやにやしながら、その後の時間も楽しんだ。
離れたくねえから、このまま家に連れて帰りたい。
寛人と晴のクリスマス おわり
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