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※ S&E、真桜の春コラボ
本編とは無関係のおはなしです。



「身長でけえな。何センチ?」

「177っす。」


ん〜、るいの方がちょっと高いかな。…だからどうしたって話だけど。目の前の新人バイトの男の子を見上げながら、『るいならこのくらいか?』と頭の中で背比べした。


「お〜、いいなぁ。俺ももうちょい伸びたかった。」

「いや〜…俺もバスケやってるんでもうちょっとほしいんですけどね。」

「へ〜そうなんだ。まだ身長伸びそう?」

「いや、もう止まりました。」

「あぁ…残念。」


俺はバイトの先輩として、コミュニケーションを取るつもりでバイトとは関係のない話をしながら売り場に出る。


「品出し終わってやる事なかったりしたら前陳ってのをいつもやってるんだけど、今日はそれをやっててもらっていい?」

「あっ、はい。分かりました。」

「前陳ってのは、手前の商品が売れてたら奥にある商品を手前に出してくる作業な。」


説明しながら奥にあった商品を手前に移動させたら、新人バイトの七宮くんも俺の真似をするように隣の列の商品を前に移動させてくれた。


「そうそう、そんな感じ。なんか分かんねえことあったらすぐ聞いて〜。」

「はい、よろしくお願いします。」


七宮くんはぺこりと頭を下げながら俺にそう言って、さっそく商品棚を眺め、作業を始めてくれる。

礼儀正しくテキパキ動ける、正に運動部って感じの子だ。良い子が入って良かったなぁと思いながら、俺は品出しの作業に移った。


「なんか変なところにお菓子置かれてました。」

「あぁ…よくあるよくある。元の場所分かる?」

「探してみます。」


そう言って、スタスタと歩いて行く七宮くんの後ろ姿を眺めていたら、「新人の子って今の?」と俺の耳元で声がした。

驚きで飛び上がるように振り向いたら、そこにはるいが立っている。


「びっくりすんだろ!いきなり現れんな!!」

「わりぃわりぃ。今日晩飯何食いたい?」

「んー、やっぱカレーだな。」

「言うと思った。チュッ。」

「投げキッスすなぁ!!!」


誰かに見られたら恥ずかしいだろ、

………って、うわぁ見られてたぁ…!

お菓子を元の場所に戻してこっちに戻ってきていた七宮くんがばっちりるいのことをガン見していた。しかし彼はその後、見てなかったフリでもしてくれているのか目を不自然にキョロキョロと動かしながらまたすぐに作業に戻った。


「…はぁ。るいさんや、もうキミさっさと買い物して帰ってくれ。」

「はーい。バイト頑張れよ。」


ぽんぽん、とるいは俺の頭を撫でたあと、るんるんと買い物カゴを揺らしながら陽気に去って行った。頭も撫でんな!!!!!


るいが売り場を離れたあと、七宮くんは作業をしながらコソッと俺に問いかけてくる。


「…さっきの人友達っすか?」

「あーそうそう。無駄にかっこいいだろ。」

「え??…あぁ、はい。」


…うわ、ついクセでダーリンの容姿自慢してしまったけど七宮くんの反応めちゃくちゃ悪かったぞ。いつも人から『友達イケメンだね』とか『友達かっこいい』とか言われるから先に自分から言っただけなのにめちゃくちゃ反応悪かった。

るいの顔見てなかったのかな。


なんかちょっと変な空気が流れてしまい、言葉を探していたら七宮くんは「…や、すみません。かっこいいっすね。」と後になってから申し訳なさそうに褒めてくる。

いやおせえよ。

それほんとに思ってんのかよ。

実はあんまり顔見てなかったとかだろ。


…ってこの時は思っていたが、それから数日後に俺は七宮くんのこの時の反応の鈍さの理由を知ることとなる。


その理由は、俺だからこそよく分かることのような気がした。


「柚瑠!!おつかれ!!柚瑠がバイトしてる!!気になって来ちゃった…。」

「おー、いいよ。おつかれ。真桜は良いバイト見つかったか?」

「…んん、…まだ。」


売り場で品出しをしていた七宮くんの元へ、男が一人現れた。茶髪でピアス付けててイケイケな感じのイケ、…うぐぐ、…イケメンじゃねえかおい。

あれは友達なのか?は?…え、友達なのか?

…は?友達クソイケメンじゃねえかよ。

いやっ、でもっ…るいの方がイケメ、…んんっ、良い勝負だ。


「バイト終わったらそっち行くから。」

「うん、分かった。バイト頑張って。」


二人はそんな会話をした後ひらりと手を振り合って、男は売り場を去って行った。


「……七宮くん、友達すげーイケメンだな。」


ススス、と七宮くんに近付いてそう言った瞬間、七宮くんは「あー…そうなんすよ。」と言ってクスリと笑った。いつも俺が言われてることなのに、言う側になるとは妙な気分だぜ。


数日前に七宮くんがるいを見ても反応が鈍かった理由は、自分の友達がやたらイケメンだったからイケメンを見てもなんとも思わなかったんだろうな。

…って勝手に決めつけた俺は、自分と似たようなポジションの七宮くんの手をガシッと強引に掴み、握手した。


「なんか七宮くんとシンパシー感じる。」

「まじすか。…あの、実は俺もなんですよ。」

「え、まじ?どこらへんが?」

「……や、…あの、なんとなくっす。」


ほう?なんとなく、か。良いだろう!!!


ガシッ、と俺は再び七宮くんと握手をし直した。

七宮くんとは仲良くなれそうだ。


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