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“肝試し”とは…【 人が恐れる場所に行かせるなどして、度胸があるかどうかを試すこと。 】


うーん、なるほどな。人が恐れる場所ねえ。え?それってやっぱ心霊スポットでは?


スマホで肝試しの意味を調べていたら、「じゃあ今から行こっか。」とるいが楽しそうに俺の耳元で囁いてきた。


「は!?今から!?」

「え、うん。だってまだ9時だよ?明日休みだし丁度いいじゃん。」


まさかのるいからのお誘いに、俺はるいが一体何を考えているのかよく分からないまま頷いた。


スマホだけズボンのポケットに入れ、るいと二人で家を出る。


「ところでどこ行くんだ?」

「んー…まあ着いてきて。」


人通りが少なく、暗い夜道ということもあって、るいが堂々と手を繋いできた。


「あのぉ、るいきゅん?これただの散歩なんですけど。」

「もう少し歩いたとこに神社があるの知ってる?そう言えばそこの神社、長い髪の女の霊が出るらしいよ。」

「は?なにそれ絶対るいの嘘だろ!!」

「嘘?なんでそう決めつける?神社にそういうのがいたっておかしくないと俺は思うけど?」


え、そ、…そういうもんか?


真面目な顔をして話してくるるいに、俺はなんだかちょっと怖くなってきてしまった。


自然にギュッとるいの手を握る力が強くなる。

ゆっくり歩いていたにも関わらず、あっという間に神社に近付いてきて、徐々に神社を囲う柵が見えてきた。周りには木々が並んでおり、ザァッと葉っぱが揺れている音がする。

なんか夜の神社って、雰囲気がもうすでに怖い。


二人で入り口まで歩いてきて、足を止める。


「夜の神社はほんとはあんまり行かない方が良いんだけど…、」


ボソッと呟くるいの声に、俺はまたしてもるいの手を握る手に力が入った。


「こういうところでは昼間は静かにしてる霊が夜になると現るとか、悪い霊が寄りついてきちゃうって話があってな。…本来なら神社へは昼間に参拝すべきなんだけど、…まあ今日は、肝試しに来てるもんな。…それじゃあ航、中に入ろうか。」


るいはぼそぼそと独り言を言うように話した後、俺の方を見てにっこりと笑って歩き出した。


「いやちょっと待てっ!!!」


俺の手はるいによって引っ張られるが、足が前へ進まない。グイッとるいの手を引き、歩こうとするるいを引き止める。


「ん?どうした?…もしかして怖い?」

「怖い。」


正直に頷くと、「ぷっ」と笑ってきたるいがよしよしと頭を撫でてくる。


「どうする?帰る?」

「…いや、…でもっ、肝試しだしっ。」


“肝試し”とは…【 人が恐れる場所に行かせるなどして、度胸があるかどうかを試すこと。 】


そう、これこそまさに肝試し。


入り口の方へ一歩一歩、進もうとしたが、神社の中は真っ暗で、薄気味悪くてやはり俺の足は進まなかった。


ギュッとるいの手を握り、無意識にるいの方に身を寄せて固まったままで居る俺に、るいがクスクス笑ってくる。


「可愛いな。怖いならもっと引っ付いてくれていいんだぞ?」


こいつ、俺が怖がってるの見て自分は楽しそうにしやがって。しかし悔しいがるいに引っ付いていると恐怖心が和らぐのである。


るいの腕に両手を巻き付けてしがみつきながら、よし、行こうか。と足を一歩前に出した時、どこかから子供の笑い声のような何かが聞こえたような気がした。


「うわっ!今なんか聞こえたぞ!?」

「は?」


周囲をキョロキョロと見渡したが、人気は無い。


「無理無理無理無理やっぱやめる!!!」

「航、多分あそこで歩いてるカップルの女の子の声だと思うんだけど。」

「へ…???」


口を手で押さえながら、るいが肩を震わせている。笑うんじゃねえ!!!


るいが言う方向に視線を向けると、確かにそこにはカップルが歩いている。なんだよ脅かすなよまじでおばけかと思ったわ。


「もー、バカだなぁ航くん。ただの神社でここまで怖がってたら心霊スポットなんか行ったらおしっこちびるんじゃねえの?」


るいはそう言いながら、俺の手を引いて神社には入らずに神社の横の道を歩き出した。


「うぅ…。」


ごもっともすぎて何も言えない。


「やっぱこういうとこもさ、遊びで行ったら神様に怒られそうだよな。俺、霊はちょっとよくわかんねえけど、神様はいるって信じてるから。日頃の行いは大事。」

「はぁ?自分から神社行こうって言ってきたんだろーがっ!!」


こいつさっき『長い髪の女の霊が〜』とか言ってたけどやっぱ俺のことビビらす嘘じゃねえか!!


「まあ俺は単純に怖がる航が見たかったってだけだから。ごめんごめん。」

「クソッ!まんまとビビらされちまったわ!!!」


お陰ですっかりるいの手を離せないでいる。
ぎゅうっとるいの手を握りながら興奮気味にその手をぶんぶんと前後に振ると、るいにまたクスクスと笑われた。


「さーて、じゃあそろそろ帰ろっか。」

「うん、その前にアイス買って。暑い。」


るいのケツポケにしっかり財布が入っていることに気付いていた俺は、通りかかったコンビニを指差しながらるいにお願いした。


そして、暑い夏の夜道をるいとアイスを食いながら帰る。夏らしい思い出ができて、ちょっとだけ良かったと思う。


家に帰った時には、俺の心霊スポットに対する興味は完全に消え失せていた。

多分俺が心霊スポットに行ったらおしっこ漏らすだろうから、行かない方が身のためだ。


航とるいのきもだめし おわり

2021.07.20〜08.31
拍手ありがとうございました!

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