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「うわー、矢田くん出づらそ〜。」


るいのアピールタイムがやってきて、なっちくんの言う通り、重い足取りの様子を見せながら、るいは舞台の真ん中までやってきた。


それでもるいを応援しているものはこれでもかと声を出しながら声援を送っている。俺も負けてはいられない。


『…えーっと、俺も負けず嫌いなんで黒瀬先輩にはいろいろ負けたくないんすけど…強敵なのはこっちのセリフっすよ。』


まずは観客の方では無く、拓也ちゃんの方へ向かって、るいは口を開いた。

拓也ちゃんはそんなるいに、ニッ、と口角を上げ、楽しそうな顔をしている。


『黒瀬先輩の言動がかっこよくて、敵わねえなあって思うんすけど、でも、俺も負けてはいられないので一応考えてきた得意なことします。』


るいはそう言って、包丁を1本手に持った。


…え?包丁?

物騒なものを持ち出したるいに、周囲がギョッとしている中、準備の人にせっせと用意されたのはなにやら調理台のような机が一つ。


そしてるいは、“得意技”を披露した。


『カレーをよく作るので、カレー作りが得意になりました。』


調理台には人参、玉ねぎ、じゃがいもが転がっている。

るいはそれらを順番にスルスル綺麗に素早く皮を剥き、ダンダンダンと高速で一口大に刻んでいく。


ポイポイ、と刻んだ野菜を鍋に放り込み、その鍋を両手で持って、ちょっぴり恥ずかしそうにしながら一言。


『…続きは家で作りたいと思います。』


「…くはぁ…るいきゅんまじあいちてる…」


俺はるいの披露した得意技にもハート撃ち抜かれたし、ちょっと恥ずかしそうにしている姿にもキュンキュンしてしまい、思わずなっちくんの方へへなへなと身体が倒れ込んだ。


俺にとっては文句なしのアピールだったが周囲の反応はどうだろう、と周りを見渡すと、周りも周りで「るいくんの手作りカレー食べたーい!」だの「すごーい!料理できるの最高!」と盛り上がっていて安心した。


やっぱ、俺のダーリンは最強です。


さてはて、投票結果はどうなることやら。





「お前どっちだと思う?」

「わからん。」

「俺黒瀬派。あの見た目で習字とかギャップはんぱねえ。」

「まあな。でも料理できんのもポイントたけーぞ。」


近くの男子生徒の会話が面白い。

身内贔屓は抜きにして、結果の予測不可能だ。


ミスターコン、ドキドキの結果発表……

最初に名前を呼ばれたのは、


『エントリーナンバー10番!矢田るいくん!』

「キャー!るいくーん!!!」

「えー!るいくんが準グランプリ〜!?」


ところどころで残念そうな声が聞こえる。

そう。結果はるいが準グランプリだったのだ。

司会の『おめでとうございます』と言う声に、少し悔しそうな表情で「ありがとうございます」と返事をするるい。

やっぱり負けず嫌いなるい。出るの嫌がってたミスターコンでも、いざ準グランプリとなると悔しそうにしているところとか、俺は好きだなぁと思った。


そして次にグランプリで名を呼ばれた拓也ちゃんは、珍しくグッと両手でガッツポーズをして「よっしゃ!」と満面の笑みを浮かべて喜んでいる。


『黒瀬くん、2連覇おめでとうございます!』

『ありがとうございま〜す!矢田に勝てて最高で〜す!』


拓也ちゃんはそう言いながら、ベー、とるいに向かって舌を出した。


『ああっくそ!!!』


そしてるいは、目に手を当てて、悔しそうに唇を噛み締めていた。


ミスターコンは、大盛り上がりで幕を閉じた。


俺は、家に帰ったら今日がんばったるいに、いっぱいチュッチュしてあげようとおもう。


2019.12.10〜2020.04.01
拍手ありがとうございました!

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