朝、教室に一歩踏み出す前にまず一度深呼吸。
隣になってから数週間経ったのに、その事実に私はまだ慣れない。
彼と話した事はないが、テニス部のレギュラー陣を知らない人なんかいないくらい有名だから、私だって知ってる。
3年へと上がったその日の帰り、何となく寄り道して帰ろうと思って、友達が気になってる子がいるというテニスコートを覗いた。そのときにたまたま練習試合をしている丸井くんがすごく輝いて見えた。それ以来、丸井くんが少し、ほんの少しだけ気になる男の子になった。
うそ。結構気になってたりする。チャラそうなのに部活頑張ってて、あの笑顔。正直ギャップにやられたんだと思う。なんだろ、視界に入るとどきっとするし。笑顔なんか見ちゃったら心臓がぎゅーっとなる。私は丸井くんと仲いい訳じゃないから面と向かって笑顔を見た事ないけど。見ちゃったら多分失神するかもしれない。そのくらい気になってる。友達にはそれもう好きだろってげらげら笑われたけど、好き、という実感がまだ湧かないから分からない。ただ、すごく気になるのだ。
クラスが一緒っていうのに驚いたのにまさか席が隣になってしまうだなんて、私は運を使い切ったに違いない。
自分を落ち着かせるために教室の前で深呼吸するのも最近は日課だ。
せっかくのお隣だし挨拶くらいは、と思うけどさすがの人気者。教室に入れば同時に囲まれるから私が話しかける事は許されない。みんな積極的で羨ましい。私は積極的ではないからどうも行動にうつせない。よろしくない。
はあ〜と机に項垂れたら、ぽんと肩に手を置かれた。びっくりしてガバッと起き上がれば、




「!・・・くくっ」
「・・・!」
「く、・・・っ、」
「・・・仁王くん、笑すぎ、だよ」
「ふっ・・・すまんのぅ。名字さんがおもしろいからつい」



ぷーっとちょっと頬を膨らましたらまた笑われた。仁王くんは最近なぜだかやたら絡んでくる。
数日前私が机にうつ伏せで寝てたとき、なんだか騒がしくてちょっとだけ顔を横に向けたらまさかの丸井くんと仁王くんがいて。丸井くんが仁王くんを見つめていたのか、見つめたら照れると仁王くんが言った。その時何故か仁王くんと目が合って、にやり。え?間もなく仁王くんが丸井くんの耳元で何かを囁いた。同時にクラスの女子達のきゃーっ!と言う叫びは教室中に響き渡った。
それからだ。その日以来、全然話した事ないのに仁王くんがやたら話しかけてくるようになった。でも、何故か丸井くんがいるときは話しかけてこないし目も合わない。
もしかして、やっぱりあの噂は本当なのか・・・モテる二人が彼女を作らない理由…いや、仁王くんはたまにいるな、彼女。でもすぐ別れちゃう。けど丸井くんと仁王くんはかなーり仲がいいと思う。そして最近聞く噂が、いわゆる二人はほも、という噂だ。あり得なくもない。




「仁王くんと丸井くんって、仲いいね」
「んー、突然どうしたんじゃ」
「や、なんとなく」
「まあ、嫌い同士ではないのぅ・・・。どちらかと言えば好き同士やの」
「え、それ、」




どういう意味?と聞きたかったのに、仁王くんのにたりとした笑みにうまく口が開かなかった。
それから直ぐに丸井くんが来たから私たちの会話は中断された。


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