私のクラスにはクラス一、いや学年一、いやいや学校一有名な変なカップルがいる。女子力がめっちゃ高い彼女の小春ちゃん。小春ちゃん大好き彼氏の一氏くん。それだけ聞けばかわいいカップルを思い浮かべるだろうけど、予想を斜め上に行くのが四天宝寺中だ。特に誇りに思ったことは一切ない。



「こっはるー!」
「ユウくーん!今日もユウくんはほんまかっこええわあ!小春照れてまう!」
「そんな小春もかわええで!」
「っ、ユウくん!」
「小春!」



熱い抱擁を目の前で見せられつついつもの事なのであえて突っ込む人はもういない。さっきの授業前にも同じような猿芝居してたのは気のせいなんだろうか。また始まったなと笑う男子がちらほら。そんなクラスメイトは眼中にないのか二人の世界に入っているうっとり顔の一氏くんと、女の子にしては違和感のある、言ってしまえばおかまバーにいそうな声で一氏くんを誘惑する小春ちゃん。おかまバーなんて行った事ないけど。はっきり言おう。小春ちゃんは小春ちゃんでも正真正銘の男の子である。


「ユウきゅんっ!」
「こはるううう!」


未だにあっつい抱擁をしている二人に冷めた視線を送りつつそろそろチャイム鳴るなーと思いながらも机に伏せて思考をシャットアウトさせた。



*


「おい名字、起きや。先生来たで。」
「・・・ん」
「なんやしんどいんか?保健室行くか?」
「ううん。大丈夫やで。一氏くんと小春ちゃんのラブラブハートが当たってやられただけやから」
「ぶっ!なんやそれ名字おもろいな!」
「・・・」


控え目に肩を揺らして私を起こしてくれた隣の席の一氏くん。ボケたつもりだったが特に突っ込まれずに終わった。センスは全く無いようだ。忍足くんなら即行で突っ込んでくれそうなのにな。一氏くんはボケなんかな?
時計を見るとあれから5分ほどしか経っていない事に気付く。5分で爆睡とか私どんだけ。眠いんか?と笑ってる一氏くんに大きな瞳で見られる。先程小春ちゃんに見せていただらしないお顔は何処へやら。横から覗き込むように真っ直ぐに見つめられて心臓の音が早くなった気がした。私は多分、小春ちゃんがいるのといないのとで全く違う顔付きになる一氏くんのギャップに恋をしている。一氏くんが私の事を好きになってくれるなんて夢のまた夢でしかないけど。


「あー、はよ放課後にならんかなー」
「一氏くんほんまにテニス好きやね」
「ん、好き。小春とのダブルスがこれまためっちゃ楽しいからなあ。名字もテニスやってみたらええねん」


好き。私に対してじゃないのについ勘違いしてしまった自分がアホらしい。小春ちゃん、か。結局は小春ちゃんなのだ。なんて思っていると、そこはいつも喋っとるなー授業聞きやーという先生のゆるい注意を受けて、注意されてもたなと言う一氏くんと一緒にくすくす笑った。小春ちゃんに悪いなと思いながらもこの時間が結構好きだったりする。ずっとこの時間が続けばいいのにな。
授業終了のチャイムが鳴ると、一氏くんは私に目もくれず一目散に小春ちゃんの元へと駆けていく。席に座った時しか一氏くんと会話することはない。眼中にないのは見え見えだ。

早くこの想い、忘れなくちゃ。


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